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2章

40 過去の噂④

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 2人の従兄を窺うと、どちらも困ったような、哀れむような視線をレイヴンへ向けている。

 ジェーンたち3人は、アリシアが婚約者に決まった日にレイヴンが告げたという言葉を早々に聞いていた。
 アリシアを溺愛しているレオナルドが、王宮から帰って来てから一晩泣き通したアリシアをそのまま放っておくはずがないのだ。

 アリシアのことを知り尽くしているレオナルドは、あの手この手を使ってアリシアの気持ちを動かし、数日掛けて何があったのかを聞きだしていた。
 レオナルドは数年後にアリシアとの関係改善を望むレイヴンから相談を受けてこの時の話を聞くのだが、本当はそれよりずっと前から知っていたのだ。余談ではあるが、レオナルドはこの時、初めて聞く話に激怒したふりをし、それまでの怒りを込めてレイヴンを叩きのめしている。

 ともかく、レオナルドから話を聞いたロバートも当然激怒した。
 ジェーンもレイヴンは冷たく酷い人なのだと思った。
 そんな人と結婚しなければならないアリシアが可哀想だった。
 
 年頃になりお茶会に参加するようになったジェーンは、レイヴンとアリシアの姿を目にするようになる。
 
 レイヴンは初めこそアリシアをエスコートしているが、一通り挨拶が済むとすぐに傍を離れてしまい、その後はお茶会が終わるまで一度もアリシアに近づくことがない。
 だからジェーンは、学園に入学するまで2人の婚約は完全に政略的なもので、レイヴンはアリシアを全く大切にしていないのだと思っていた。
 
 それが学園で一緒に過ごしている内に、レイヴンがアリシアに想いを寄せていることに気がついた。関係を改善したいと気を揉んでいる。
 素直になれずに上辺だけの態度で接してきた期間が長過ぎて、アリシアを気遣っていてもそれがアリシアには届かないのだ。
 アリシアがレイヴンの愛情を感じ取ることはなく、全てが「婚約者としての作られた態度」なのだと思っている。

 そしてアリシアは、ここで親族や婚約者以外の男性と初めての友情を経験し、気持ちをマルセルへと傾けていってしまった。
 レオナルドも王太子としてのレイヴンは認めていても、アリシアの相手としては認めていない。
 アリシアがマルセルとの未来を望めば、本気で婚約を解消する為に動くだろう。
 学生の間だけのことではあってもレイヴンを友人だと思っているジェーンは、レイヴンの気持ちがアリシアへ届くよう祈るようになっていた。
 
 レイヴンがジェーンを想っているとの噂が流れた時も、アリシアに誤解されたくなくてジェーンは必死でこの噂は間違いなのだと説明をした。レイヴンはアリシアの婚約者として、悪意に晒されているアリシアの従姉を庇ってくれただけなのだ。
 それなのにアリシアは、焦るジェーンを安心させようとにっこり笑ってこう言ったのだ。

「私はどちらのことも信頼しているから大丈夫よ、ジェーン。あなたがジョッシュ殿を想っていることは知っているし、殿下も今が自由にできる最後の時なのよ。学生の間だけのことだもの。殿下はしっかりした方だから、約束は守って下さるわ」

 アリシアがレイヴンに告げられた、『王太子妃として相応しいと認められる間は婚約者として扱うが…』という言葉は、この時にはアリシアの中で、『王太子妃として相応しい限り婚約者として――いずれは王太子妃としてーー扱う』という約束事になっていたのだ。

 アリシアは噂を信じていないわけではない。
 ただ婚約者として扱われている限り、レイヴンが誰を想っていても気に掛けることはない。

 ジェーンは報われないレイヴンの恋を想うと暗澹とした気分になった。



 
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