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2章

37 過去の噂①

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 レイヴンが語ったのは、ジェーンが知らない母の過去だった。

 7歳の時に母を亡くして、祖父母ももういない。
 ジェーンが知らない母のことを教えてくれる者はもういないと思っていた。
 教えられた過去は幸せな話ではなかったけれど、知ることができて嬉しく思う。
 
 そして遠い存在であるはずの国王夫妻が今でも母のことを忘れずに、ジェーンのことを気に掛けてくれているという。

 当時婚約者だった国王が違う相手を想っていたというのは、王妃にとって辛い過去のはずだ。
 それなのにその相手を恨まず、娘のジェーンを気遣ってくれている。

 それにこれまでは父だけが、生活の為に妥協をして母と結婚したのだと思っていた。
 だれど母も婚約解消の後、新たな婚約者が見つからずに妥協をして父と結婚したのだ。

 母にとっても父は妥協した相手だった。
 母はこの邸で1人、慕っている父の帰りを待っていたわけではなかったのだ。
 それを知れただけでも良かったと思えた。
 
 同時に自分のことを考える。
 ジョッシュはエミリーに騙されていたと言うが、こんなに毎日通ってくるほどエミリーのことを愛していた。
 今でも本当に愛しているのはエミリーなのではないだろうか。
 だけど爵位を継ぐ為に、妥協してジェーンと結婚しようとしているのではないのか。
 
 そして自分の気持ちはどうなのか。
 
 ジョッシュを愛していると思っていた。
 だけど本当にそうだろうか。
 ずっと婚約していたから、結婚式の日取りが迫っているから、父を当主の座から降ろさなければならないから、妥協してジョッシュと結婚しようとしているのではないだろうか。

 それよりも4年待ったとしてもノティスと結婚した方がずっと良い様に思えた。
 
 だけどジェーンにはこの縁談を受けられない事情がある。
 困ってアリシアへ視線を向けると、アリシアも困ったような顔をしていた。

「私は良いお話だと思うけど…」

 言い淀み、黙り込む。
 そんなアリシアを気遣うように、レイヴンが声を掛けた。

「アリシア、何か気になることがある?」

「いえ…」

 アリシアが黙り込む。
 部屋の中が気まずい沈黙で包まれていた。

 しばらくして口を開いたのはレオナルドだ。

「まあ、今日ここで答えを出す必要はないんじゃないかな?陛下だってすぐに決められることだとは思っていないと思うよ。あまり時間はないかもしれないけれど、少し時間をとって考えてみたらいいんじゃないかな」

 それでは問題を先送りにしているだけだ。
   だけどジョッシュへの気持ちが冷めてきているのを感じる今、このまま結婚するとしても、納得する為に少し時間が欲しいとジェーンは感じていた。

「そうだね。父も母も、ジェーン嬢とノティスの結婚を望んではいるけれど、無理強いするつもりはないんだ」

「念の為言っておくけど、ジョッシュ殿かノティス殿下の二択ではないからね。どちらもお断りして別の人を探しても良いんだから」

 ロバートの言葉に全員がぽかんとした顔をする。
 そんなこと、誰も考えていなかった。
 だけど。

「…それもそうですわね」

 アリシアがぽつりと呟くと、部屋中で笑いが漏れた。

「それじゃあひと段落したところで、久しぶりに花園へ行かないか?」

「私も行きたいわ!」

 レオナルドの提案にアリシアの顔が輝く。
 ジェーンにも自然な笑顔が浮かんでいた。




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