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2章

34 異母弟 ノティス②

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「今のところ彼は学園を卒業後、公爵位と王領の一部を賜ることになっている。だけど確かな後見もなく、年若い公爵だ。彼を利用しようという者が多く現れるだろう。だけどジェーン嬢と結婚し、侯爵家の入り婿になるならルトビア公爵が後ろ盾となってくれる。位は劣るが将来の不安は少ない。王家としてはぜひ、この話を進めたい」

 レイヴンは言葉を切ると紅茶を口に運んだ。
 ゆっくりとティーカップを戻す。

「ジェーン嬢、今はあまりメリットがある相手だと思えないかもしれない。彼の母親は幽閉されているし、その実家は既に社交界からはじき出されて没落しているからね。だけど彼が臣籍に降った後は、父も彼を息子の一人として気に掛けることができるし、母もそのつもりでいる。僕にとっても彼は弟だ。なにかあった時は必ず力になるよ」

 国王である父は、母親から引き離されたノティスを不憫に思っていても、ノティスが王籍にいる限り表立ってできることはない。ノティスを持ち上げようとする者が現れたら、側妃を幽閉することで得られた平穏をまた乱すことになる。
 だから今は心の中で気に掛けてはいても、極力関わらずに知らない振りをしている。
 だけどそれもノティスが臣籍に降るまでのことだ。

「ただノティスは君より6つも年下で、結婚できるのは学園を卒業してからだ。あと4年待ってもらわなければならない」

 今15歳のノティスが学園に入学するのは来年になる。
 卒業するまで3年。結婚できるのはその後だ。 

「4年くらい、公爵家は待てますわ!」

 アリシアが声を上げた。
 当主を交代させる為、ジェーンの結婚を待っていたのは確かだが、上手く行かないことがわかっている相手より数年延びても幸せになれる相手と結婚したほうがいい。
 公爵家の財力からいえば、4年くらい支援する期間が延びても問題はないのだ。

 ただどうしても結婚適齢期は過ぎることになる。
 それを待てるかは、ジェーン次第だ。

「私はノティス殿下のことをほとんど知りません。それにノティス殿下は6歳も年上の私ではお嫌ではないでしょうか」

「君の気持ちを聞いてからと思っていたから、この話はまだノティスにはしていない。たださっきも言った通り、ノティスはあまり良い育ち方をしなかった。結果的に今、彼は人を信用することができず、対人関係に問題がある。だけど公爵となって領地を治めることになれば、そんなことは言っていられない。彼もそれを理解していて、最近は母上が主催する催しに顔を出すようになっているが、まだまだ上手くいっているとはいえない。学園に通うのも人との関り方を学ぶ為だ」
 
 アリシアは舞踏会で1人、所在無げに座っていたノティスの姿を思い出した。
 母親やその取り巻きに間違った育てられ方をしたノティス。
 母親が幽閉された途端、それまでノティスに取り入ろうとしていた大人たちは、掌を返したようにいなくなってしまった。

 成長し、かつて周りにいた大人たちの思惑を理解したノティスが、人を信じられなくなったとしても仕方がないだろう。
 それでもノティスは、それではいけないと自分を変えようとしているのだ。
 それなのにアリシアは、舞踏会で1人のノティスに気がついていたのに一言も声をかけなかった。
 
 俯いたアリシアの手を、レイヴンがそっと握った。
 レイヴンの顔を見ると優しく微笑んでいた。


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