63 / 697
2章
33 異母弟 ノティス①
しおりを挟む
「皆知っているとは思うが、ノティスの母親は父上の不興を買って幽閉されている。だけど息子であるノティスだけは年に一度、面会が許されているんだ」
「そうなのですか?」
それはアリシアも知らないことだった。
ノティスの母である側妃は、辺境の離宮に幽閉されている。
王都から馬車で8日は掛かるだろう。往復すると、それだけで16日。
そんな長い期間、ノティスが王宮を離れていることがあっただろうか。
最もアリシアはノティスと関わることがあまりないので、ノティスが王宮を留守にしていても気がついていないだけかもしれない。
それでも王子が1人、辺境へ行くからにはそれなりの護衛が動いているはずだ。
だけどそんな動きを感じたことはない。
「アリシアが知らなくても無理はないよ。面会を許されてはいるが、ここ数年ノティスは面会に行っていない。初めの内はやはり母親が恋しかったみたいで毎年行っていたけど、ノティス自身が母親の問題に気がついてからは行かなくなった」
「問題?」
「側妃が王宮にいた時と少しも変わっていないということだよ。彼女は、王の寵姫である自分こそが王妃に相応しく、自分が生んだノティスが王太子になるべきだと今も信じている」
「ええっ?!」
「そんな夢物語を信じているのは、今や側妃だけだよ。父上の王妃は母上だし、アリシアと結婚した今、僕が王太子の座を降ろされることなど有り得ない」
レイヴンは溜息を吐いた。
「ノティスは生まれた時から、母親とその取り巻きに『ノティス殿下こそ王太子に相応しい』と言われて育っていた。幼かった彼はそれを信じていたよ。だけど彼らは、ノティスを甘やかすばかりで全く教育をしていなかった。幼い彼は我儘放題の子どもだったよ。その内、側妃が幽閉されて周りから人がいなくなった。権力を失くした、ただ我儘なだけの子どもの相手をしたがるような者はいない。取り残されたノティスを仕方なく母上が育てることになった。そこで初めてノティスは教育を受けたんだ。王子として当然の教育をね。初めは反発していたし、じっと座って話を聞くこともできなかった。側妃のところでは泣いて嫌がれば講師をクビにすることができた。だけど母上相手にそうはいかない。泣いても喚いても講師はクビにならず、根気強く教え続けた。母上も、教えられたことを理解した時には盛大に褒め称えたりして、ノティスの気持ちが向くよう手を尽くしていたよ。そうしている内に、ノティスは学ぶことの大切さを知り、母親と自分の身の上に起きたことを理解した。そうして成長した彼が再会した母親は、別れた時のまま変わらない、野心家で愚かなままの母親だった」
母親との面会を終えて帰ってきたノティスの憔悴した顔を思い出す。
それまでは母親をそんな境遇に追いやった父王や、王妃であるマルグリットを恨む気持ちがどこかにあった。
だけど成長したノティスは、何度注意をしても態度を改めない母を、父が王として幽閉するしかなかったことを理解した。
そして自分が王妃になれないことを不満に思っていた母が、マルグリットに対し散々な態度で接していたことを思い出す。
マルグリットがノティスを育てたのは、王妃としての義務かもしれない。
だけど愛情を掛ける義理などなかった。
形だけ引き取り、正殿の片隅にでも入れておけば良かったのだ。
それなのにマルグリットは嫌がらせ1つすることなくノティスを育ててくれた。
「ノティスは自分という神輿があるから、母親の野心が消えないのだと悟った。それ以来彼は一度も面会に行っていない。臣籍に降ることも、彼自身が願い出たことだ」
ノティスは王族として間違いなく成長した。
そして王籍を離れることが、王家の為にも母の為にもなると思い至ったのだ。
「そうなのですか?」
それはアリシアも知らないことだった。
ノティスの母である側妃は、辺境の離宮に幽閉されている。
王都から馬車で8日は掛かるだろう。往復すると、それだけで16日。
そんな長い期間、ノティスが王宮を離れていることがあっただろうか。
最もアリシアはノティスと関わることがあまりないので、ノティスが王宮を留守にしていても気がついていないだけかもしれない。
それでも王子が1人、辺境へ行くからにはそれなりの護衛が動いているはずだ。
だけどそんな動きを感じたことはない。
「アリシアが知らなくても無理はないよ。面会を許されてはいるが、ここ数年ノティスは面会に行っていない。初めの内はやはり母親が恋しかったみたいで毎年行っていたけど、ノティス自身が母親の問題に気がついてからは行かなくなった」
「問題?」
「側妃が王宮にいた時と少しも変わっていないということだよ。彼女は、王の寵姫である自分こそが王妃に相応しく、自分が生んだノティスが王太子になるべきだと今も信じている」
「ええっ?!」
「そんな夢物語を信じているのは、今や側妃だけだよ。父上の王妃は母上だし、アリシアと結婚した今、僕が王太子の座を降ろされることなど有り得ない」
レイヴンは溜息を吐いた。
「ノティスは生まれた時から、母親とその取り巻きに『ノティス殿下こそ王太子に相応しい』と言われて育っていた。幼かった彼はそれを信じていたよ。だけど彼らは、ノティスを甘やかすばかりで全く教育をしていなかった。幼い彼は我儘放題の子どもだったよ。その内、側妃が幽閉されて周りから人がいなくなった。権力を失くした、ただ我儘なだけの子どもの相手をしたがるような者はいない。取り残されたノティスを仕方なく母上が育てることになった。そこで初めてノティスは教育を受けたんだ。王子として当然の教育をね。初めは反発していたし、じっと座って話を聞くこともできなかった。側妃のところでは泣いて嫌がれば講師をクビにすることができた。だけど母上相手にそうはいかない。泣いても喚いても講師はクビにならず、根気強く教え続けた。母上も、教えられたことを理解した時には盛大に褒め称えたりして、ノティスの気持ちが向くよう手を尽くしていたよ。そうしている内に、ノティスは学ぶことの大切さを知り、母親と自分の身の上に起きたことを理解した。そうして成長した彼が再会した母親は、別れた時のまま変わらない、野心家で愚かなままの母親だった」
母親との面会を終えて帰ってきたノティスの憔悴した顔を思い出す。
それまでは母親をそんな境遇に追いやった父王や、王妃であるマルグリットを恨む気持ちがどこかにあった。
だけど成長したノティスは、何度注意をしても態度を改めない母を、父が王として幽閉するしかなかったことを理解した。
そして自分が王妃になれないことを不満に思っていた母が、マルグリットに対し散々な態度で接していたことを思い出す。
マルグリットがノティスを育てたのは、王妃としての義務かもしれない。
だけど愛情を掛ける義理などなかった。
形だけ引き取り、正殿の片隅にでも入れておけば良かったのだ。
それなのにマルグリットは嫌がらせ1つすることなくノティスを育ててくれた。
「ノティスは自分という神輿があるから、母親の野心が消えないのだと悟った。それ以来彼は一度も面会に行っていない。臣籍に降ることも、彼自身が願い出たことだ」
ノティスは王族として間違いなく成長した。
そして王籍を離れることが、王家の為にも母の為にもなると思い至ったのだ。
0
お気に入りに追加
1,724
あなたにおすすめの小説
👨一人声劇台本【日替わり彼氏シリーズ】(全7作)
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
月曜~日曜まで曜日のイメージから一話1分半ほどで読める短いシチュエーション台本を書いてみました。
あなたが付き合うならどんな男性がお好みですか?
月曜:人懐っこい
火曜:積極的
水曜:年上
木曜:優しい
金曜:俺様
土曜:年下、可愛い、あざとい
日曜:セクシー
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
物語のようにはいかない
わらびもち
恋愛
転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。
そう、言われる方ではなく『言う』方。
しかも言ってしまってから一年は経過している。
そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。
え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?
いや、そもそも修復可能なの?
発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?
せめて失言『前』に転生していればよかったのに!
自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。
夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。
【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが
Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした───
伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。
しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、
さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。
どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。
そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、
シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。
身勝手に消えた姉の代わりとして、
セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。
そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。
二人の思惑は───……
夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す
夏目萌
恋愛
レノアール地方にある海を隔てた二つの大国、ルビナとセネルは昔から敵対国家として存在していたけれど、この度、セネルの方から各国の繁栄の為に和平条約を結びたいと申し出があった。
それというのも、セネルの世継ぎであるシューベルトがルビナの第二王女、リリナに一目惚れした事がきっかけだった。
しかしリリナは母親に溺愛されている事、シューベルトは女好きのクズ王子と噂されている事から嫁がせたくない王妃は義理の娘で第一王女のエリスに嫁ぐよう命令する。
リリナには好きな時に会えるという条件付きで結婚に応じたシューベルトは当然エリスに見向きもせず、エリスは味方の居ない敵国で孤独な結婚生活を送る事になってしまう。
そして、結婚生活から半年程経ったある日、シューベルトとリリナが話をしている場に偶然居合わせ、実はこの結婚が自分を陥れるものだったと知ってしまい、殺されかける。
何とか逃げる事に成功したエリスはひたすら逃げ続け、力尽きて森の中で生き倒れているところを一人の男に助けられた。
その男――ギルバートとの出逢いがエリスの運命を大きく変え、全てを奪われたエリスの幸せを取り戻す為に全面協力を誓うのだけど、そんなギルバートには誰にも言えない秘密があった。
果たして、その秘密とは? そして、エリスとの出逢いは偶然だったのか、それとも……。
これは全てを奪われた姫が辺境地に住む謎の男に溺愛されながら自分を陥れた者たちに復讐をして居場所を取り戻す、成り上がりラブストーリー。
※ ファンタジーは苦手分野なので練習で書いてます。設定等受け入れられない場合はすみません。
※他サイト様にも掲載中。
あなたへの初恋は胸に秘めます…だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。
櫻坂 真紀
BL
幼い頃は、天使の様に可愛らしかった俺。
でも成長した今の俺に、その面影はない。
そのせいで、初恋の人にあの時の俺だと分かって貰えず……それどころか、彼は他の男を傍に置き……?
あなたへの初恋は、この胸に秘めます。
だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。
※このお話はタグにもあるように、攻め以外との行為があります。それが苦手な方はご注意下さい(その回には!を付けてあります)。
※24話で本編完結しました(※が二人のR18回です)。
※番外編として、メインCP以外(金子さんと東さん)の話があり、こちらは13話完結です。R18回には※が付いてます。
男子校的教師と生徒の恋愛事情
蒼月さわ
BL
男子校教師副島一成は、入学して一ヶ月しか経っていない教え子の桐枝伝馬から告白される。
それに対する返答はストレートパンチだった……
男子校を舞台に、個性的な教師や生徒たちがわちゃわちゃと入り乱れ、毎日が賑やかに展開する。
その中で、告白し告白された伝馬と一成はどうなっていくのか。
体育系の猪突猛進な生徒×男前な三白眼の教師。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる