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2章
29 公爵家のブローチ③
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「エミリーを盗人として突き出してやればよかったな」
レオナルドが呟いた言葉に、ジョッシュがぎょっとして目を見開いた。
感情を抑えて淡々とした声だけに凄みがある。
「あの時はお祖母様も父上も、一族内の揉め事として内々で事を治められた。だがエミリーのしたことは、歴とした犯罪だ。身内であれば物を盗んでもいい、ということはない。そもそもブローチがジェーンへ譲られたことを世間は知らなかったんだから、『ルトビア公爵家の家宝が盗まれた』と告発しても良かったんだ」
「確かにその後のことを考えたら、あの女は早い内に排除した方が良かったのかもしれないな」
レオナルドとロバートが頷き合う。
アリシアは何も言わないが、同じ考えのようだ。
ジョッシュはこれまで信じていた世界が崩れていくのを感じていた。
結婚を前にして、急にエミリーに惹かれたわけではない。
関係を持ったのはここ1年程のことだが、もう何年も前からエミリーに惹かれていたし、ジェーンにいじめられているというエミリーを信じていたのだ。
だからジェーンに冷たくすることにも抵抗がなかった。
母親が違うとはいえ、妹をいじめるような女と結婚しなければならないなんて、自分はなんて不幸なのだろうと嘆いたりもしていた。
結婚後も関係を続けることでエミリーを守ることができる。
それと同時に、これまでジェーンがエミリーへしてきたことへの復讐をしてやろうとさえ思っていたのだ。
だけどジョッシュが知る限り、「ジェーンに大切な物を奪われる」という言葉を裏付けるはこのブローチしかなく、それは元からジェーンのものだった。
むしろ不当に奪っていたのはエミリーの方で、盗人として告発される可能性だってあったのだ。
あとは「陰でいじめられている」というエミリーからの一方的な証言しかなく、この邸の異様な有様や、ブローチのことなどからも、嘘をついているのはエミリーなのだと察せられた。
「君は、いじめていない…?」
弱々しく問いかけると、ジェーンは哀しそうに眼を閉じた。
「まったく心当たりがありません」
「そうなのか。すべて嘘だったんだな…」
今更真実を悟ったジョッシュは、項垂れるしかなかった。
「だけどブローチと聞いただけで、よくこれのことだとわかったね」
レイヴンが感心したように、隣に座るアリシアを見る。
アリシアは哀しそうな顔で微笑んだ。
「簡単なことですわ。ジェーンがエミリーに奪われたもので、ジェーンの元へ戻ったのはこのブローチだけですもの」
ジェーンは大切なものを扱う様に、そっとブローチを手に取った。
胸元で握り締める。
「このブローチをエミリーに渡すことはできません。あの子は私のものをなんでも持っていきますが、すぐに飽きてしまって、失くしてしまったり捨ててしまいます。これはルトビア公爵家の大切なブローチですから、いずれルトビア公爵家の元へ…、レオ兄さまの娘へ伝えるつもりです」
ジェーンも前公爵夫人である祖母には可愛がってもらっていた。
だけどジェーンはあくまでキャンベル侯爵家の娘である。
しっかり1人で身を立てられるようになるまで一時的に借りているのだと、ジェーンは思っていた。
レオナルドが呟いた言葉に、ジョッシュがぎょっとして目を見開いた。
感情を抑えて淡々とした声だけに凄みがある。
「あの時はお祖母様も父上も、一族内の揉め事として内々で事を治められた。だがエミリーのしたことは、歴とした犯罪だ。身内であれば物を盗んでもいい、ということはない。そもそもブローチがジェーンへ譲られたことを世間は知らなかったんだから、『ルトビア公爵家の家宝が盗まれた』と告発しても良かったんだ」
「確かにその後のことを考えたら、あの女は早い内に排除した方が良かったのかもしれないな」
レオナルドとロバートが頷き合う。
アリシアは何も言わないが、同じ考えのようだ。
ジョッシュはこれまで信じていた世界が崩れていくのを感じていた。
結婚を前にして、急にエミリーに惹かれたわけではない。
関係を持ったのはここ1年程のことだが、もう何年も前からエミリーに惹かれていたし、ジェーンにいじめられているというエミリーを信じていたのだ。
だからジェーンに冷たくすることにも抵抗がなかった。
母親が違うとはいえ、妹をいじめるような女と結婚しなければならないなんて、自分はなんて不幸なのだろうと嘆いたりもしていた。
結婚後も関係を続けることでエミリーを守ることができる。
それと同時に、これまでジェーンがエミリーへしてきたことへの復讐をしてやろうとさえ思っていたのだ。
だけどジョッシュが知る限り、「ジェーンに大切な物を奪われる」という言葉を裏付けるはこのブローチしかなく、それは元からジェーンのものだった。
むしろ不当に奪っていたのはエミリーの方で、盗人として告発される可能性だってあったのだ。
あとは「陰でいじめられている」というエミリーからの一方的な証言しかなく、この邸の異様な有様や、ブローチのことなどからも、嘘をついているのはエミリーなのだと察せられた。
「君は、いじめていない…?」
弱々しく問いかけると、ジェーンは哀しそうに眼を閉じた。
「まったく心当たりがありません」
「そうなのか。すべて嘘だったんだな…」
今更真実を悟ったジョッシュは、項垂れるしかなかった。
「だけどブローチと聞いただけで、よくこれのことだとわかったね」
レイヴンが感心したように、隣に座るアリシアを見る。
アリシアは哀しそうな顔で微笑んだ。
「簡単なことですわ。ジェーンがエミリーに奪われたもので、ジェーンの元へ戻ったのはこのブローチだけですもの」
ジェーンは大切なものを扱う様に、そっとブローチを手に取った。
胸元で握り締める。
「このブローチをエミリーに渡すことはできません。あの子は私のものをなんでも持っていきますが、すぐに飽きてしまって、失くしてしまったり捨ててしまいます。これはルトビア公爵家の大切なブローチですから、いずれルトビア公爵家の元へ…、レオ兄さまの娘へ伝えるつもりです」
ジェーンも前公爵夫人である祖母には可愛がってもらっていた。
だけどジェーンはあくまでキャンベル侯爵家の娘である。
しっかり1人で身を立てられるようになるまで一時的に借りているのだと、ジェーンは思っていた。
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