46 / 697
2章
16 招かざる客④
しおりを挟む
「…エミリー嬢を使節団から外した場合、欠員が出る。それをどう考える?」
低い声でレイヴンが問うた。
「人が足りないなら、ジェーンにやらせればいいのよ!あれは勉強するしか能がないんだから、少しは私たちの役に立てばいいんだわ!!」
「ああ、そうですね!妃殿下はよくご存知でしょう。エミリーの姉のジェーンは優秀です。これから研修に入ってもついていけると思いますよ」
「………なんですって?」
「…ジェーン嬢はもうすぐ結婚するはずだよね?後継者の婿取りだから、侯爵家としても重大事だと思うけど」
「あっ!!」
呆れたようなレイヴンの言葉に、デミオンとアンジュは「しまった」という顔をした。
その顔を見て確信する。
忘れていたのだ。
この2人は、ジェーンの結婚を忘れていた。
「王家はジェーン嬢の夫として、つまりは侯爵家次期当主としてジョッシュ・カルヴィエ殿を迎え入れる許可を出しているけど、この様子だと考え直した方がいいかもしれないな」
「とんでもありません、殿下!これはエミリーのことに気を取られていて、少し…、そう!少し忘れていただけなのです!」
侯爵家の当主がその後継者の婿入りを忘れていたとはよく言えたものである。
ただ爵位を得る為に婿入りしたデミオンは、侯爵家にも侯爵家の領地にも愛着を持っていない。
本来の後継者は亡くなったサンドラであり、デミオンは分家との付き合いもなく、侯爵家の成り立ちの歴史や家系図も学ぼうとしなかった。領地をまわったこともない。
婚家への恩義など感じるはずもない。
「私、このことはお父様に報告致します」
「そんな!妃殿下!!」
デミオンが慌てている。
実際のところキャンベル侯爵家の財政は火の車だった。
デミオンが手を出した事業はなにもかもが失敗し、領地内で起こった災害にもまともな対応をしていないので何年も農作物の不作が続いている。
今の財政状況ではまともに結婚式の準備もできない為、アリシアの父・アダムが支度金の大部分を援助しているのだ。
「…君たちがどういう人間なのかはよく分かった。エミリー嬢は使節団から除籍する」
「殿下!それは!!」
レイヴンの言葉にデミオンがうわずった声を上げた。
アンジュは事態を理解していないようで、使節団から外れることが出来たのだと顔を輝かせている。
「エミリー嬢は王より任命された公務を放棄した。当然罰せられる。許しが出るまで王宮に近づくな。キャンベル侯爵、侯爵夫人。君たちは親として、任務の重要性と責任をエミリー嬢に教えるべき立場だ。それにも拘わらず、娘を指導するどころかその愚行を後押しした。これも当然罰せられる。エミリー嬢と同様に君たちの登城も差止める。許しがあるまで王宮に出てくるな」
「殿下!!」
デミオンとアンジュの顔が青くなった。
ここでやっとアンジュは自身の置かれている状況を理解したようだ。
王宮へは王家から許可された貴族しか入ることができない。
その許可を公務放棄の罰として取り上げる。
今後は王家主催の催しに招待されることもない。
このことはあっという間に社交界で広まるだろう。夫妻やエミリーに関わろうとする貴族はいなくなる。
それは社交界から弾き出されるということであり、社会的な死でもあった。
「…エミリーの将来を案じる私の為に、レイヴン様が与えてくださったお役目を無下になさるとは思いませんでした。私はあなたたちの顔を二度と見たくありません」
震えるアリシアの肩をレイヴンが抱き寄せた。
「話は以上だ。2人とも早々に退出してくれ。僕もアリシアをこれほど悲しませる君たちの顔は二度と見たくないよ」
レイヴンは冷たくそう言うと、アリシアを支えるようにして立ち上がらせる。
そのまま2人には一瞥もくれずに部屋を出た。
背後からは2人の呼び止める声や謝罪が聞こえていたが、振り返ることはない。
低い声でレイヴンが問うた。
「人が足りないなら、ジェーンにやらせればいいのよ!あれは勉強するしか能がないんだから、少しは私たちの役に立てばいいんだわ!!」
「ああ、そうですね!妃殿下はよくご存知でしょう。エミリーの姉のジェーンは優秀です。これから研修に入ってもついていけると思いますよ」
「………なんですって?」
「…ジェーン嬢はもうすぐ結婚するはずだよね?後継者の婿取りだから、侯爵家としても重大事だと思うけど」
「あっ!!」
呆れたようなレイヴンの言葉に、デミオンとアンジュは「しまった」という顔をした。
その顔を見て確信する。
忘れていたのだ。
この2人は、ジェーンの結婚を忘れていた。
「王家はジェーン嬢の夫として、つまりは侯爵家次期当主としてジョッシュ・カルヴィエ殿を迎え入れる許可を出しているけど、この様子だと考え直した方がいいかもしれないな」
「とんでもありません、殿下!これはエミリーのことに気を取られていて、少し…、そう!少し忘れていただけなのです!」
侯爵家の当主がその後継者の婿入りを忘れていたとはよく言えたものである。
ただ爵位を得る為に婿入りしたデミオンは、侯爵家にも侯爵家の領地にも愛着を持っていない。
本来の後継者は亡くなったサンドラであり、デミオンは分家との付き合いもなく、侯爵家の成り立ちの歴史や家系図も学ぼうとしなかった。領地をまわったこともない。
婚家への恩義など感じるはずもない。
「私、このことはお父様に報告致します」
「そんな!妃殿下!!」
デミオンが慌てている。
実際のところキャンベル侯爵家の財政は火の車だった。
デミオンが手を出した事業はなにもかもが失敗し、領地内で起こった災害にもまともな対応をしていないので何年も農作物の不作が続いている。
今の財政状況ではまともに結婚式の準備もできない為、アリシアの父・アダムが支度金の大部分を援助しているのだ。
「…君たちがどういう人間なのかはよく分かった。エミリー嬢は使節団から除籍する」
「殿下!それは!!」
レイヴンの言葉にデミオンがうわずった声を上げた。
アンジュは事態を理解していないようで、使節団から外れることが出来たのだと顔を輝かせている。
「エミリー嬢は王より任命された公務を放棄した。当然罰せられる。許しが出るまで王宮に近づくな。キャンベル侯爵、侯爵夫人。君たちは親として、任務の重要性と責任をエミリー嬢に教えるべき立場だ。それにも拘わらず、娘を指導するどころかその愚行を後押しした。これも当然罰せられる。エミリー嬢と同様に君たちの登城も差止める。許しがあるまで王宮に出てくるな」
「殿下!!」
デミオンとアンジュの顔が青くなった。
ここでやっとアンジュは自身の置かれている状況を理解したようだ。
王宮へは王家から許可された貴族しか入ることができない。
その許可を公務放棄の罰として取り上げる。
今後は王家主催の催しに招待されることもない。
このことはあっという間に社交界で広まるだろう。夫妻やエミリーに関わろうとする貴族はいなくなる。
それは社交界から弾き出されるということであり、社会的な死でもあった。
「…エミリーの将来を案じる私の為に、レイヴン様が与えてくださったお役目を無下になさるとは思いませんでした。私はあなたたちの顔を二度と見たくありません」
震えるアリシアの肩をレイヴンが抱き寄せた。
「話は以上だ。2人とも早々に退出してくれ。僕もアリシアをこれほど悲しませる君たちの顔は二度と見たくないよ」
レイヴンは冷たくそう言うと、アリシアを支えるようにして立ち上がらせる。
そのまま2人には一瞥もくれずに部屋を出た。
背後からは2人の呼び止める声や謝罪が聞こえていたが、振り返ることはない。
10
お気に入りに追加
1,727
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる