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2章

16 招かざる客④

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「…エミリー嬢を使節団から外した場合、欠員が出る。それをどう考える?」

 低い声でレイヴンが問うた。

「人が足りないなら、ジェーンにやらせればいいのよ!あれは勉強するしか能がないんだから、少しは私たちの役に立てばいいんだわ!!」

「ああ、そうですね!妃殿下はよくご存知でしょう。エミリーの姉のジェーンは優秀です。これから研修に入ってもついていけると思いますよ」

「………なんですって?」

「…ジェーン嬢はもうすぐ結婚するはずだよね?後継者の婿取りだから、侯爵家としても重大事だと思うけど」

「あっ!!」

 呆れたようなレイヴンの言葉に、デミオンとアンジュは「しまった」という顔をした。
   その顔を見て確信する。

 忘れていたのだ。
 この2人は、ジェーンの結婚を忘れていた。

「王家はジェーン嬢の夫として、つまりは侯爵家次期当主としてジョッシュ・カルヴィエ殿を迎え入れる許可を出しているけど、この様子だと考え直した方がいいかもしれないな」

「とんでもありません、殿下!これはエミリーのことに気を取られていて、少し…、そう!少し忘れていただけなのです!」

 侯爵家の当主がその後継者の婿入りを忘れていたとはよく言えたものである。
 ただ爵位を得る為に婿入りしたデミオンは、侯爵家にも侯爵家の領地にも愛着を持っていない。
 本来の後継者は亡くなったサンドラであり、デミオンは分家との付き合いもなく、侯爵家の成り立ちの歴史や家系図も学ぼうとしなかった。領地をまわったこともない。
 婚家への恩義など感じるはずもない。

「私、このことはお父様に報告致します」

「そんな!妃殿下!!」

 デミオンが慌てている。
 実際のところキャンベル侯爵家の財政は火の車だった。
 デミオンが手を出した事業はなにもかもが失敗し、領地内で起こった災害にもまともな対応をしていないので何年も農作物の不作が続いている。
 今の財政状況ではまともに結婚式の準備もできない為、アリシアの父・アダムが支度金の大部分を援助しているのだ。

「…君たちがどういう人間なのかはよく分かった。エミリー嬢は使節団から除籍する」

「殿下!それは!!」

 レイヴンの言葉にデミオンがうわずった声を上げた。
 アンジュは事態を理解していないようで、使節団から外れることが出来たのだと顔を輝かせている。

「エミリー嬢は王より任命された公務を放棄した。当然罰せられる。許しが出るまで王宮に近づくな。キャンベル侯爵、侯爵夫人。君たちは親として、任務の重要性と責任をエミリー嬢に教えるべき立場だ。それにも拘わらず、娘を指導するどころかその愚行を後押しした。これも当然罰せられる。エミリー嬢と同様に君たちの登城も差止める。許しがあるまで王宮に出てくるな」

「殿下!!」

 デミオンとアンジュの顔が青くなった。
 ここでやっとアンジュは自身の置かれている状況を理解したようだ。
 
 王宮へは王家から許可された貴族しか入ることができない。
 その許可を公務放棄の罰として取り上げる。
 今後は王家主催の催しに招待されることもない。

 このことはあっという間に社交界で広まるだろう。夫妻やエミリーに関わろうとする貴族はいなくなる。
 それは社交界から弾き出されるということであり、社会的な死でもあった。

「…エミリーの将来を案じる私の為に、レイヴン様が与えてくださったお役目を無下になさるとは思いませんでした。私はあなたたちの顔を二度と見たくありません」

 震えるアリシアの肩をレイヴンが抱き寄せた。
 
「話は以上だ。2人とも早々に退出してくれ。僕もアリシアをこれほど悲しませる君たちの顔は二度と見たくないよ」

 レイヴンは冷たくそう言うと、アリシアを支えるようにして立ち上がらせる。
 そのまま2人には一瞥もくれずに部屋を出た。

 背後からは2人の呼び止める声や謝罪が聞こえていたが、振り返ることはない。




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