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2章
8 ジェーンの家庭事情と婚約者④
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「研修が始まるまでにもう日にちがないかと。既に参加者は決まっているのではありませんか?」
レオナルドが言う通り、実のところ参加者はすでに決まっていた。
だがまだ通知を出していない。通知が出されていない限り入れ替えるのはレイヴンとって難しいことではない。
だが決まっている誰かの椅子を奪うことになる。
レオナルドはそんなこと気にしない。気にするとすればアリシアだ。
そしてレイヴンもレオナルドも、そんなアリシアの気持ちを優先する。
アリシアがお妃教育で繰り返し教えられた「常に感情を制御し、悪意にも善意にも流されない」というのは、権力を乱用しないということだ。感情に流されて権力を私的に使ってはならない。
『王太子妃として相応しくあること』に何よりこだわるアリシアにとって、それは重要なことだった。
「アリシアはどうしたい?僕はアリシアが望むことなら、なんでも叶えてみせる」
レイヴンはアリシアの耳元に口づけた。
「君のためなら何でもする。だから君の望みを教えてくれ」
アリシアはしばらく答えなかった。
レイヴンはアリシアの髪を撫でながら答えを待つ。
「…エミリーをどこかへやってくださいませ」
「うん。そうしよう」
使節団に参加する者は、例年応募してきた者の中から選んでいるが、強力な推薦者がいれば推薦された者になる。
貴族社会とはそういったもので、アリシアが気にするほど特別なことではないのだ。
「さっきの話を逆手に取ろう。エミリー嬢は今年18歳だろう。18歳にもなって婚約者が決まっていないなんて普通じゃない。心優しい王太子妃は婚約者も決まらず将来が不安定な従妹を心配している。王太子妃を溺愛している王太子は妃の憂いを除いてあげたい。そこで使節団に入れることにする。使節団に加われば爵位も貰えて生活するための職も得られる。エミリー嬢の将来は安泰だ」
「…エミリーはあまり優秀ではありません」
「それこそ良いね。研修中は王宮に泊まり込んでもらうことになるけど、優秀な者は空いた時間に街に出たり、家に帰ったりしているようだ。だけど不出来な者にそんな余裕はない」
レイヴンはアリシアとする初めての悪だくみで楽しそうだ。
「今回選ばれるはずだった者は次の時に選んでもいいし、僕が彼に何か仕事を作ってもいい」
「仕事の方は僕が引き受けます。選考で選ばれる程優秀で、将来的に文官を希望している。今でも書類仕事は山程あります。僕の補佐にでもして働かせましょう」
レイヴンの側近であり、将来は宰相の座に就くだろうレオナルドは今でも大量の仕事を抱えている。
1人と言わず2人、3人と補佐を雇っても良いくらいなのだ。
「それじゃあ早速エミリー嬢に通知を出そう。研修は来週から始まるし、研修が始まったらエミリー嬢は屋敷に帰れない。ジョッシュと会う時間もなくなるよ」
レイヴンは腕の中のアリシアに囁く。
「アリシア、君の望みを叶えるご褒美にぎゅっと抱き締めてくれたら嬉しいな」
レイヴンの言葉に、アリシアは顔をレイヴンの胸に埋めたまま、背中にまわした腕にぎゅっと力を込めた。
レオナルドが言う通り、実のところ参加者はすでに決まっていた。
だがまだ通知を出していない。通知が出されていない限り入れ替えるのはレイヴンとって難しいことではない。
だが決まっている誰かの椅子を奪うことになる。
レオナルドはそんなこと気にしない。気にするとすればアリシアだ。
そしてレイヴンもレオナルドも、そんなアリシアの気持ちを優先する。
アリシアがお妃教育で繰り返し教えられた「常に感情を制御し、悪意にも善意にも流されない」というのは、権力を乱用しないということだ。感情に流されて権力を私的に使ってはならない。
『王太子妃として相応しくあること』に何よりこだわるアリシアにとって、それは重要なことだった。
「アリシアはどうしたい?僕はアリシアが望むことなら、なんでも叶えてみせる」
レイヴンはアリシアの耳元に口づけた。
「君のためなら何でもする。だから君の望みを教えてくれ」
アリシアはしばらく答えなかった。
レイヴンはアリシアの髪を撫でながら答えを待つ。
「…エミリーをどこかへやってくださいませ」
「うん。そうしよう」
使節団に参加する者は、例年応募してきた者の中から選んでいるが、強力な推薦者がいれば推薦された者になる。
貴族社会とはそういったもので、アリシアが気にするほど特別なことではないのだ。
「さっきの話を逆手に取ろう。エミリー嬢は今年18歳だろう。18歳にもなって婚約者が決まっていないなんて普通じゃない。心優しい王太子妃は婚約者も決まらず将来が不安定な従妹を心配している。王太子妃を溺愛している王太子は妃の憂いを除いてあげたい。そこで使節団に入れることにする。使節団に加われば爵位も貰えて生活するための職も得られる。エミリー嬢の将来は安泰だ」
「…エミリーはあまり優秀ではありません」
「それこそ良いね。研修中は王宮に泊まり込んでもらうことになるけど、優秀な者は空いた時間に街に出たり、家に帰ったりしているようだ。だけど不出来な者にそんな余裕はない」
レイヴンはアリシアとする初めての悪だくみで楽しそうだ。
「今回選ばれるはずだった者は次の時に選んでもいいし、僕が彼に何か仕事を作ってもいい」
「仕事の方は僕が引き受けます。選考で選ばれる程優秀で、将来的に文官を希望している。今でも書類仕事は山程あります。僕の補佐にでもして働かせましょう」
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「アリシア、君の望みを叶えるご褒美にぎゅっと抱き締めてくれたら嬉しいな」
レイヴンの言葉に、アリシアは顔をレイヴンの胸に埋めたまま、背中にまわした腕にぎゅっと力を込めた。
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