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26 身近な闇と揺れる心②

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 少数だが、恋愛結婚をした者もいる。
 親に決められた婚約者と相愛になった者もいる。
 そんな夫婦でも、男が心変わりして愛人を持っているという。

 嫁いでも婿を取っても、夫がいつ他の女を愛しだすかわからない。
 心変わりされた女は、家で使用人にも馬鹿にされながら夫の帰りを待つしかないのか。
 女も愛人を作って楽しめばいいのか。
 家の為の子どもだけを作って…?
 
 貴族の女の結婚は、こんなに立場弱く、心細いものなのか。
 考えれば考える程恐ろしさが込み上げてきた。
 子どもと2人、帰ってこない夫を待つ自分の姿を想像してぞっとする。
 それは大人になった自分と想像上の子どもだったが、サンドラとジェーンでもあった。

 その時、ふと気がついた。
 今まで傷つき、怯えていたレイヴンからのあの言葉。

「王太子妃として相応しいと認められる間は婚約者として扱うが相応しくないと思えばすぐに婚約を解消して次の者を選ぶ」

 それはつまり、王太子妃として相応しいと認められる限りは婚約者で――そして王太子妃でいられるということだ。

「貴族の結婚に感情は必要ない。王族となれば尚更だ」

 王太子としてルトビア公爵家との結びつきを選んだレイヴンなら、他の女を愛したからといってアリシアを蔑ろにすることはないだろう。
 愛した女は側妃にすればいい。
 だけど王太子妃として認められ、扱われるのは私だ――。

 この時アリシアは己の進むべき道が見えた。

 誰から見ても王太子妃として相応しく、認められる存在になる。
 私より王太子妃に相応しい者がいるなど、決して言わせない。
 
 婚約を解消されてしまったら、他の貴族に嫁ぐことになってしまう。
 それも王太子から婚約を解消された女など、軽々しく扱われるに決まっている。

 そんな未来は絶対に迎えない。

 心に決めてからは、妃教育にもより熱心に取り組んだ。
 それまで辛いと思っていた妃教育も、夫の愛情に縋る惨めな生活から逃れる為だと思えば辛いと感じることはなくなっていた。

 この時からレイヴンは、アリシアにとって最高の結婚相手となった。
 レイヴン以外の者と結婚するなど考えられない。

 だから学園で、初めて好きな男ができてもその気持ちは隠し通した。
 一時の恋愛感情でこの安定した未来を捨てるなんて愚かなことはしない。
 誰を想っていても、想っていなくても、気持ちを表さなければそれはないのと同じなのだ。

 レイヴンとは恋愛感情などではなく、互いに職務に忠実な「王太子夫妻」として結びつく。
 妻としてレイヴンの愛情に縋る必要はなく、ただ王太子妃として相応しくあればいい。
 そう思えたから安心して嫁ぐことができたのだ。

 だから今の2人の状態は、アリシアにとって想定外のことである。

 レイヴンはアリシアを愛しているという。
 では、その愛情が薄れたら?
 その愛情が他の女に向かったら?
 それでもレイヴンは、アリシアを正妃として正当に扱ってくれるだろうか――

 アリシアはレイヴンに対して持ち始めている、おかしな気持ちに気づかないふりをしていた。



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