19 / 697
1章
17 孤児院訪問②
しおりを挟む
孤児院ではやはり、これまでとは違った様子に皆戸惑っていた。
アリシアは子どもたちを怖がらせないよう、騎士たちに離れた場所で待機するよう言いつけ、距離を取っていたけれど、これまで懐いてくれていた子どもたちも、こちらをチラチラと見るばかりで近づいて来ない。
仕方がないのでまずは大人たちに最近の様子を聞いた。
老朽化が進んでいて修復が必要な場所を確認する。薬や食料は足りているようだ。
そうしている内に、子ども達も遠巻きにしている騎士たちに慣れてきたようで、1人、2人とアリシアに近づいてくる。
「アリシア様」
呼び掛けられると、アリシアはにっこりと笑った。子ども達がホッとしたように集まってくる。
それからは子ども達の宝物を見せてもらい、輪の中心で絵本を読み、1人ずつ勉強の進み具合を見て過ごした。
和やかに過ごしていたおやつの時間。そこでまたひと悶着起きた。
孤児院ではいつもシスターが作ったクッキーを食べる。
このクッキーは運営資金とする為に、孤児院が行うバザーや近くの町で開かれる青空市で売られており、それなりの売り上げを見せている。
王宮で出される上品な菓子とはまた違う素朴な味で、アリシアはいつも楽しみにしていた。
いつもの様に出されたそのクッキーを、護衛としてついて来たルースという男が毒見すると言い出したのだ。
「毒見など必要ありません」
いくらそう言ってもルースは引かない。
それが護衛の仕事だという。
「何が入っているかわからないものを妃殿下に召し上がっていただくわけにはいきません」
言い争う二人に大人たちはおろおろし、子ども達は怯えていた。
それ以上子ども達の前で争うことはできず、仕方なく受け入れた。
申し訳なさに院長へ謝ると「こちらこそ今まで気がつかず、申し訳ありませんでした」と必死に謝られた。
帰り際、大人たちはいつもの様に道に出てきて見送ってくれたけれど、子ども達は出てこない。
これまで築いてきた信頼関係が消えてしまったのだと思うと哀しかった。
だがその気持ちは王宮が近づくにつれて怒りに変わっていった。
これは全てレイヴンのせいだ。
アリシアの外出先に口出ししたことも、余計な護衛を増やしたことも腹立たしい。
これまでの13年、アリシアのすることに関心を見せたこともなかったのに、突然干渉してきてこれまで築いてきたものを壊してしまった。
王宮に帰り着くと、馬車止まりでレイヴンが待っていた。アリシアを見てホッとした表情を見せる。
レイヴンの顔を見た瞬間、怒りが爆発していた。
「あの者を外してください!あの者の顔は二度と見たくありません!」
ルースを指してそれだけ言うと、呼び止めるレイヴンを無視して一直線に自室へ向かった。
「アリシア、入ってもいいかな?」
アリシアが自室に籠ってしばらくすると、扉を叩く音がしてレイヴンの声が聞こえた。
ルースに話を聞いてきたのだろう。
「…どうぞ」
部屋へ入ってきたレイヴンは、アリシアの隣に腰を下ろすと手を取った。
「嫌な思いをさせてごめんね。だけどルースが正しいと思う。毒見をせずに出されたものを食べるのは危険だよ」
「彼女たちが私に毒を盛るなんて、そんなことあり得ませんわ」
「アリシアが孤児院の人たちを信用しているのはわかるよ。だけど孤児院は人の出入りも多いし、入れ替わりも激しい。アリシアに悪意を持つ人間が紛れているかもしれないんだ」
「私はもう何年も、何度も、あそこへ行っているのです。みんな私を信用してくれていたのに…」
子ども達の様子を思い出す。
毒見の後、これまでと同じように一緒のテーブルでクッキーを食べていたけれど、みんな一言も話さず、俯いていてアリシアの方を見ようとしなかった。
見送りに出てきた大人たちも困惑したような、恐れるような顔をしていた。
アリシアはそれを気づかないふりをして、身にしみついた笑顔で何事もなかったように振舞い帰ってきたのだ。
気がつけば涙が溢れていた。
「アリシア!」
レイヴンが慌てた様子で腰を浮かす。
アリシアは取られていた手を振りほどいて顔を背けた。
「出て行ってくださいませ。暫くお顔を見たくありません」
「…ごめんね、アリシア。あとでまた来るよ」
少ししてドアが閉まる音がする。
一人になったアリシアは涙を止めることができなかった。
アリシアは子どもたちを怖がらせないよう、騎士たちに離れた場所で待機するよう言いつけ、距離を取っていたけれど、これまで懐いてくれていた子どもたちも、こちらをチラチラと見るばかりで近づいて来ない。
仕方がないのでまずは大人たちに最近の様子を聞いた。
老朽化が進んでいて修復が必要な場所を確認する。薬や食料は足りているようだ。
そうしている内に、子ども達も遠巻きにしている騎士たちに慣れてきたようで、1人、2人とアリシアに近づいてくる。
「アリシア様」
呼び掛けられると、アリシアはにっこりと笑った。子ども達がホッとしたように集まってくる。
それからは子ども達の宝物を見せてもらい、輪の中心で絵本を読み、1人ずつ勉強の進み具合を見て過ごした。
和やかに過ごしていたおやつの時間。そこでまたひと悶着起きた。
孤児院ではいつもシスターが作ったクッキーを食べる。
このクッキーは運営資金とする為に、孤児院が行うバザーや近くの町で開かれる青空市で売られており、それなりの売り上げを見せている。
王宮で出される上品な菓子とはまた違う素朴な味で、アリシアはいつも楽しみにしていた。
いつもの様に出されたそのクッキーを、護衛としてついて来たルースという男が毒見すると言い出したのだ。
「毒見など必要ありません」
いくらそう言ってもルースは引かない。
それが護衛の仕事だという。
「何が入っているかわからないものを妃殿下に召し上がっていただくわけにはいきません」
言い争う二人に大人たちはおろおろし、子ども達は怯えていた。
それ以上子ども達の前で争うことはできず、仕方なく受け入れた。
申し訳なさに院長へ謝ると「こちらこそ今まで気がつかず、申し訳ありませんでした」と必死に謝られた。
帰り際、大人たちはいつもの様に道に出てきて見送ってくれたけれど、子ども達は出てこない。
これまで築いてきた信頼関係が消えてしまったのだと思うと哀しかった。
だがその気持ちは王宮が近づくにつれて怒りに変わっていった。
これは全てレイヴンのせいだ。
アリシアの外出先に口出ししたことも、余計な護衛を増やしたことも腹立たしい。
これまでの13年、アリシアのすることに関心を見せたこともなかったのに、突然干渉してきてこれまで築いてきたものを壊してしまった。
王宮に帰り着くと、馬車止まりでレイヴンが待っていた。アリシアを見てホッとした表情を見せる。
レイヴンの顔を見た瞬間、怒りが爆発していた。
「あの者を外してください!あの者の顔は二度と見たくありません!」
ルースを指してそれだけ言うと、呼び止めるレイヴンを無視して一直線に自室へ向かった。
「アリシア、入ってもいいかな?」
アリシアが自室に籠ってしばらくすると、扉を叩く音がしてレイヴンの声が聞こえた。
ルースに話を聞いてきたのだろう。
「…どうぞ」
部屋へ入ってきたレイヴンは、アリシアの隣に腰を下ろすと手を取った。
「嫌な思いをさせてごめんね。だけどルースが正しいと思う。毒見をせずに出されたものを食べるのは危険だよ」
「彼女たちが私に毒を盛るなんて、そんなことあり得ませんわ」
「アリシアが孤児院の人たちを信用しているのはわかるよ。だけど孤児院は人の出入りも多いし、入れ替わりも激しい。アリシアに悪意を持つ人間が紛れているかもしれないんだ」
「私はもう何年も、何度も、あそこへ行っているのです。みんな私を信用してくれていたのに…」
子ども達の様子を思い出す。
毒見の後、これまでと同じように一緒のテーブルでクッキーを食べていたけれど、みんな一言も話さず、俯いていてアリシアの方を見ようとしなかった。
見送りに出てきた大人たちも困惑したような、恐れるような顔をしていた。
アリシアはそれを気づかないふりをして、身にしみついた笑顔で何事もなかったように振舞い帰ってきたのだ。
気がつけば涙が溢れていた。
「アリシア!」
レイヴンが慌てた様子で腰を浮かす。
アリシアは取られていた手を振りほどいて顔を背けた。
「出て行ってくださいませ。暫くお顔を見たくありません」
「…ごめんね、アリシア。あとでまた来るよ」
少ししてドアが閉まる音がする。
一人になったアリシアは涙を止めることができなかった。
0
お気に入りに追加
1,724
あなたにおすすめの小説
👨一人声劇台本【日替わり彼氏シリーズ】(全7作)
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
月曜~日曜まで曜日のイメージから一話1分半ほどで読める短いシチュエーション台本を書いてみました。
あなたが付き合うならどんな男性がお好みですか?
月曜:人懐っこい
火曜:積極的
水曜:年上
木曜:優しい
金曜:俺様
土曜:年下、可愛い、あざとい
日曜:セクシー
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
物語のようにはいかない
わらびもち
恋愛
転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。
そう、言われる方ではなく『言う』方。
しかも言ってしまってから一年は経過している。
そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。
え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?
いや、そもそも修復可能なの?
発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?
せめて失言『前』に転生していればよかったのに!
自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。
夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。
【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが
Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした───
伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。
しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、
さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。
どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。
そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、
シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。
身勝手に消えた姉の代わりとして、
セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。
そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。
二人の思惑は───……
夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す
夏目萌
恋愛
レノアール地方にある海を隔てた二つの大国、ルビナとセネルは昔から敵対国家として存在していたけれど、この度、セネルの方から各国の繁栄の為に和平条約を結びたいと申し出があった。
それというのも、セネルの世継ぎであるシューベルトがルビナの第二王女、リリナに一目惚れした事がきっかけだった。
しかしリリナは母親に溺愛されている事、シューベルトは女好きのクズ王子と噂されている事から嫁がせたくない王妃は義理の娘で第一王女のエリスに嫁ぐよう命令する。
リリナには好きな時に会えるという条件付きで結婚に応じたシューベルトは当然エリスに見向きもせず、エリスは味方の居ない敵国で孤独な結婚生活を送る事になってしまう。
そして、結婚生活から半年程経ったある日、シューベルトとリリナが話をしている場に偶然居合わせ、実はこの結婚が自分を陥れるものだったと知ってしまい、殺されかける。
何とか逃げる事に成功したエリスはひたすら逃げ続け、力尽きて森の中で生き倒れているところを一人の男に助けられた。
その男――ギルバートとの出逢いがエリスの運命を大きく変え、全てを奪われたエリスの幸せを取り戻す為に全面協力を誓うのだけど、そんなギルバートには誰にも言えない秘密があった。
果たして、その秘密とは? そして、エリスとの出逢いは偶然だったのか、それとも……。
これは全てを奪われた姫が辺境地に住む謎の男に溺愛されながら自分を陥れた者たちに復讐をして居場所を取り戻す、成り上がりラブストーリー。
※ ファンタジーは苦手分野なので練習で書いてます。設定等受け入れられない場合はすみません。
※他サイト様にも掲載中。
あなたへの初恋は胸に秘めます…だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。
櫻坂 真紀
BL
幼い頃は、天使の様に可愛らしかった俺。
でも成長した今の俺に、その面影はない。
そのせいで、初恋の人にあの時の俺だと分かって貰えず……それどころか、彼は他の男を傍に置き……?
あなたへの初恋は、この胸に秘めます。
だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。
※このお話はタグにもあるように、攻め以外との行為があります。それが苦手な方はご注意下さい(その回には!を付けてあります)。
※24話で本編完結しました(※が二人のR18回です)。
※番外編として、メインCP以外(金子さんと東さん)の話があり、こちらは13話完結です。R18回には※が付いてます。
男子校的教師と生徒の恋愛事情
蒼月さわ
BL
男子校教師副島一成は、入学して一ヶ月しか経っていない教え子の桐枝伝馬から告白される。
それに対する返答はストレートパンチだった……
男子校を舞台に、個性的な教師や生徒たちがわちゃわちゃと入り乱れ、毎日が賑やかに展開する。
その中で、告白し告白された伝馬と一成はどうなっていくのか。
体育系の猪突猛進な生徒×男前な三白眼の教師。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる