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1章

プロローグ

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「愛している」
 強く抱き締められた。

「アリシア、愛してる。愛してるんだ」

 肩に顔を埋め、苦し気に――切なげに愛を告げるのはレイヴン・アナトリア。
 このアナトリア国の王太子であり、アリシアの夫である。

「殿下?どうされました?」

 アリシアは躊躇いがちに腕をレイヴンの背にまわす。
 軽く抱き締め返すとレイヴンが更にぎゅうぎゅうと抱き締めてくるので息が止まりそうだった。

「殿下、苦しいですわ」

 アリシアの抗議の声に、レイヴンは少し体を離し、左の頬に口づける。
 頬に、目尻に、額に。そして右の目尻に頬に。

 何が起きているのかアリシアにはさっぱり分からなかった。
 レイヴンと結婚してそろそろ2年。
 この結婚は国の為のもの。
 2人の間に愛情などなかったはずだ。

 腕の中のアリシアが戸惑い、動揺していることをレイヴンはわかっていた。
 レイヴンがアリシアを愛していることをアリシアは知らない。
 愛のない政略結婚だと思っている。

 アリシアから愛されていないこと――特別な感情を持たれていないこともわかっている。
 それは仕方がないことだと思っていた。

「王族の結婚に感情は必要ない」
 アリシアにそう告げたのは他でもないレイヴンなのだから――。
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