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二 魔永久と対価と大蛇の話(4)
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「うっそでしょ!? 怖いでしょ? 一歩間違えたら死ぬんだよ?」
「でも、魔永久は間違えないし、なによりオレがあんなに強かったらみんなを守れるのになってちょっとうらやましかった」
「う、羨ましいって、お、おまっ! おバカっ!」
「バカって」
「はぁ……。こんな脅し損なことある? なくない?」
「それよりもさ、魔永久っていい妖怪なの? 間違えて封印されちゃったの? 魔永久が倒したさっきの化け物たちは悪いやつら?」
「それよりじゃないよっ! ボクが悪い妖怪だろうが違う妖怪だろうが、妖怪ではなくても君ら人間とは違う存在なことに変わりないでしょ? さっきの化け物とボクは一緒。いや、ちょっと違うけど、兼ねがね一緒。君たちと相容れられる存在じゃないの。マモル、ちゃんと聞きなさい。いい? 君は一度命を差し出したと同等のことをしたわけ。契約は遂行した。ボクだってあそこに数百年ぐらい封印されて困ってたから助けて欲しかったからこれでお相子。君が……」
「ねぇ、魔永久っ! だからさっきの妖怪は悪いやつらだったの? 人間を襲う奴らなの?」
「だからぁー。……あー、もー。そうだよ。あいつらは人間を食べる悪いやつら。食べなくても、色々人間にたいして有害。だからあいつらはボクがいると困るから封印して、その封印を解かれないようにずっと監視してたんだよ。蹴ったり殴っても石が飛ばなかったのは普通の石じゃないからね、あれ。悪さをした子供たちに警告じみた嫌がらせをして二度とこさせないようにしてた。でも、マモルの弟が封印の石を取るって強い熱意で言い張って、向こうも焦ったんだろうね。あの監視していた化け物と僕しか知らないけど、実はあの封印が解ける条件があったんだ。それは、ボクを強く願うことだから」
「願う、こと?」
「そう。ボクを強く求めて望むのさ。対価が命になるぐらい、強くね。弟君のボクを望む鬼気迫るなにかがあったけど、命を差し出すぐらいの対価をまんま持っていたマモルの方が僕としては確実だったから君に声かけただけなんだよね。多分あの時弟君に声かけてもまともな返事もなかったと思うしさ」
そう言えば、優斗は封印されているなにかをとか言っていたな。
その心の強さを読み取って、包丁の化け物は優斗に狙いを定めていたのか。
「命すぐ差し出すのは珍しいって言ってた癖に。それより、なんで魔永久がいると困るの?」
「……はぁ。ボクがあいつらを倒して回っているからだよ。ボクね、さすらいの妖怪退治師なんだよね。かっこいいっしょ?」
「なんで?」
「なんでって、あいつらがお前らたち人間の敵だから」
「それって、魔永久がオレたちをずっと守ってくれてたってこと?」
「えぇ……。……まあ、そんな感じ」
それって……。
「ずごいなっ! 魔永久っ!」
オレは思わず魔永久に飛びついた。
「いや、すごいけども話が……っ」
「オレたちを助けてくれた魔永久も、さっきの魔永久もかっこよかった。オレ、魔永久みたいに強くなりたいっ」
オレの名前は守なんだ。守られる存在じゃない。守る存在になりたいんだ。
「え? はぁ?」
「魔永久はこれから妖怪退治をするんだろ? オレも協力する。できることなんらなんでも言ってくれっ! 今度はオレが強くなって魔永久を助けたいんだっ!」
「はぁぁぁぁ? お前ねぇ、ボクの話聞いてた? ボクとした契約をお前は終えたから自由だって言ってのっ! 命をかける危険をわざわざ冒すなっ」
「でも、魔永久はオレの体を借りなくなったらどうするんだよ」
「どうするって、まあ、適当に違う人を見繕ってその場で体借りるけど?」
「命をかけるリスクはオレとその人でも変わらないじゃん。だって、同じ人間なんだぜ?」
「いや、そうだけど……」
「なら、オレでいいじゃん」
魔永久の役に立ちたかった。
どうしてもオレたちを守ってくれる存在のなにかになりたかった。それはきっと、あの時弟を、優斗をオレの力だけでは守ることが決してできなかったからだ。
頭では、化け物相手に仕方がないだろ。オレは普通の小学六年生なんだからとわかっているフリをしても、心のどこがでオレはなんて不甲斐ない兄貴なのだと自分を責めていたのかもしれない。
そんな小さなプライドを取り戻すように、オレは魔永久に頭を深々と下げる。
「頼む、魔永久。オレにお前がオレたちを助けてくれた恩返しをさせてくれ。オレにも妖怪退治を教えてくれっ」
「……えー。そんなところまでおもしろいのずるくない?」
魔永久は深く深くため息をつくと、軽く刀の柄で頭をコツリと叩かれた。
「いいよ。しばらくの間はここらにボク目当てのやつらがうろつくだろうから、マモルの体を借りてあげる」
「本当かっ!?」
「でも、条件が一つ」
「条件?」
「そ。いくらボクが強くてもマモルが滅茶苦茶弱かったら意味ないの。明日から体力つける走り込みとか筋トレとかしてよね。食べるものも好き嫌いしないこと」
「ああ、わかった。けど、好き嫌いは関係なくないか?」
「おバカっ。いいか? ボクとマモルは少し前にも言ったけど、一心同体。いわば相棒なわけっ」
同じ体は確かに使ってるし、妖怪を倒して人間を守るって志も一緒になってきた。先ほどよりも一心同体という言葉の意味を理解できた気がする。
「妖怪退治をするためにはボクはマモルが、マモルはボクがいないとできないでしょ? さっきも言ったように、ボクだけ強くても意味がないんだよ。マモルも強くならないと。だからマモルは死なない努力をしなきゃダメ。強くなるには死なないで鍛えなきゃ。死なない体を作るなら食べ物も大切でしょ? 食べ物は体の本質を作るからね。好き嫌いせずになんでも食べれるようになるのは大切なことだよ」
「そういうもんか?」
オレにはやや難しすぎて、魔永久の言いたいことの半分もきっとわからなかった。
けど、これこそ先ほど言っていたそういうものではないだろうか。
理解も大事だけど、魔永久の言葉は理解できなくてもオレを思って言ってくれているのは伝わってくる。今は理解できなくてもいつかはきっと、できるはず。その時までそういうものだと思ってもいいだろう。
「……マモルらしいねぇ。でも、それでいいよ。やる覚悟はある?」
「勿論」
オレが頷くと、魔永久は大きく笑ってもう一度柄でオレの額を叩く。
「いたっ!」
「そんなことで痛がってちゃ今から先思いやられるよ。まったく、本当にバカな子だ。愚直で謙虚で、正義感が強いのにこんな妖怪に手を貸そうとしてんだから、本当におもしろい子だね」
「また悪口か?」
「まさか。今のだけは誉め言葉だよ」
そう言って、魔永久は口のない笑い声をあげるのだった。
「でも、魔永久は間違えないし、なによりオレがあんなに強かったらみんなを守れるのになってちょっとうらやましかった」
「う、羨ましいって、お、おまっ! おバカっ!」
「バカって」
「はぁ……。こんな脅し損なことある? なくない?」
「それよりもさ、魔永久っていい妖怪なの? 間違えて封印されちゃったの? 魔永久が倒したさっきの化け物たちは悪いやつら?」
「それよりじゃないよっ! ボクが悪い妖怪だろうが違う妖怪だろうが、妖怪ではなくても君ら人間とは違う存在なことに変わりないでしょ? さっきの化け物とボクは一緒。いや、ちょっと違うけど、兼ねがね一緒。君たちと相容れられる存在じゃないの。マモル、ちゃんと聞きなさい。いい? 君は一度命を差し出したと同等のことをしたわけ。契約は遂行した。ボクだってあそこに数百年ぐらい封印されて困ってたから助けて欲しかったからこれでお相子。君が……」
「ねぇ、魔永久っ! だからさっきの妖怪は悪いやつらだったの? 人間を襲う奴らなの?」
「だからぁー。……あー、もー。そうだよ。あいつらは人間を食べる悪いやつら。食べなくても、色々人間にたいして有害。だからあいつらはボクがいると困るから封印して、その封印を解かれないようにずっと監視してたんだよ。蹴ったり殴っても石が飛ばなかったのは普通の石じゃないからね、あれ。悪さをした子供たちに警告じみた嫌がらせをして二度とこさせないようにしてた。でも、マモルの弟が封印の石を取るって強い熱意で言い張って、向こうも焦ったんだろうね。あの監視していた化け物と僕しか知らないけど、実はあの封印が解ける条件があったんだ。それは、ボクを強く願うことだから」
「願う、こと?」
「そう。ボクを強く求めて望むのさ。対価が命になるぐらい、強くね。弟君のボクを望む鬼気迫るなにかがあったけど、命を差し出すぐらいの対価をまんま持っていたマモルの方が僕としては確実だったから君に声かけただけなんだよね。多分あの時弟君に声かけてもまともな返事もなかったと思うしさ」
そう言えば、優斗は封印されているなにかをとか言っていたな。
その心の強さを読み取って、包丁の化け物は優斗に狙いを定めていたのか。
「命すぐ差し出すのは珍しいって言ってた癖に。それより、なんで魔永久がいると困るの?」
「……はぁ。ボクがあいつらを倒して回っているからだよ。ボクね、さすらいの妖怪退治師なんだよね。かっこいいっしょ?」
「なんで?」
「なんでって、あいつらがお前らたち人間の敵だから」
「それって、魔永久がオレたちをずっと守ってくれてたってこと?」
「えぇ……。……まあ、そんな感じ」
それって……。
「ずごいなっ! 魔永久っ!」
オレは思わず魔永久に飛びついた。
「いや、すごいけども話が……っ」
「オレたちを助けてくれた魔永久も、さっきの魔永久もかっこよかった。オレ、魔永久みたいに強くなりたいっ」
オレの名前は守なんだ。守られる存在じゃない。守る存在になりたいんだ。
「え? はぁ?」
「魔永久はこれから妖怪退治をするんだろ? オレも協力する。できることなんらなんでも言ってくれっ! 今度はオレが強くなって魔永久を助けたいんだっ!」
「はぁぁぁぁ? お前ねぇ、ボクの話聞いてた? ボクとした契約をお前は終えたから自由だって言ってのっ! 命をかける危険をわざわざ冒すなっ」
「でも、魔永久はオレの体を借りなくなったらどうするんだよ」
「どうするって、まあ、適当に違う人を見繕ってその場で体借りるけど?」
「命をかけるリスクはオレとその人でも変わらないじゃん。だって、同じ人間なんだぜ?」
「いや、そうだけど……」
「なら、オレでいいじゃん」
魔永久の役に立ちたかった。
どうしてもオレたちを守ってくれる存在のなにかになりたかった。それはきっと、あの時弟を、優斗をオレの力だけでは守ることが決してできなかったからだ。
頭では、化け物相手に仕方がないだろ。オレは普通の小学六年生なんだからとわかっているフリをしても、心のどこがでオレはなんて不甲斐ない兄貴なのだと自分を責めていたのかもしれない。
そんな小さなプライドを取り戻すように、オレは魔永久に頭を深々と下げる。
「頼む、魔永久。オレにお前がオレたちを助けてくれた恩返しをさせてくれ。オレにも妖怪退治を教えてくれっ」
「……えー。そんなところまでおもしろいのずるくない?」
魔永久は深く深くため息をつくと、軽く刀の柄で頭をコツリと叩かれた。
「いいよ。しばらくの間はここらにボク目当てのやつらがうろつくだろうから、マモルの体を借りてあげる」
「本当かっ!?」
「でも、条件が一つ」
「条件?」
「そ。いくらボクが強くてもマモルが滅茶苦茶弱かったら意味ないの。明日から体力つける走り込みとか筋トレとかしてよね。食べるものも好き嫌いしないこと」
「ああ、わかった。けど、好き嫌いは関係なくないか?」
「おバカっ。いいか? ボクとマモルは少し前にも言ったけど、一心同体。いわば相棒なわけっ」
同じ体は確かに使ってるし、妖怪を倒して人間を守るって志も一緒になってきた。先ほどよりも一心同体という言葉の意味を理解できた気がする。
「妖怪退治をするためにはボクはマモルが、マモルはボクがいないとできないでしょ? さっきも言ったように、ボクだけ強くても意味がないんだよ。マモルも強くならないと。だからマモルは死なない努力をしなきゃダメ。強くなるには死なないで鍛えなきゃ。死なない体を作るなら食べ物も大切でしょ? 食べ物は体の本質を作るからね。好き嫌いせずになんでも食べれるようになるのは大切なことだよ」
「そういうもんか?」
オレにはやや難しすぎて、魔永久の言いたいことの半分もきっとわからなかった。
けど、これこそ先ほど言っていたそういうものではないだろうか。
理解も大事だけど、魔永久の言葉は理解できなくてもオレを思って言ってくれているのは伝わってくる。今は理解できなくてもいつかはきっと、できるはず。その時までそういうものだと思ってもいいだろう。
「……マモルらしいねぇ。でも、それでいいよ。やる覚悟はある?」
「勿論」
オレが頷くと、魔永久は大きく笑ってもう一度柄でオレの額を叩く。
「いたっ!」
「そんなことで痛がってちゃ今から先思いやられるよ。まったく、本当にバカな子だ。愚直で謙虚で、正義感が強いのにこんな妖怪に手を貸そうとしてんだから、本当におもしろい子だね」
「また悪口か?」
「まさか。今のだけは誉め言葉だよ」
そう言って、魔永久は口のない笑い声をあげるのだった。
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