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二 魔永久と対価と大蛇の話(1)
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「マモルって名前なんだ。いい名前じゃん」
「はあ……」
オレの部屋には奇妙な空間が広がっていた。
床に下の押し入れから借りてきた座布団をひいて、その上に日本刀、えっと、名前は『魔永久』と言うらしい。本当か嘘かは知らないけど。が座っていると言うか、寝そべっていると言うか、置いているというか……。
「あの、立てかけた方がいいか?」
どっちが顔かわからないけど。
「え? いいよ、いいよ。お気になさらず。それより弟君はどう?」
「優斗?」
冷たい麦茶とオレの分のお菓子を魔永久に出しながら、オレは短くああ、とだけ呟いた。
今からたった一時間前、俺たちが関柴の家の墓にいて、包丁を持った化け物に襲われそうになったあの時。
あの墓場に封印されていた魔永久がオレの命と引き換えにオレたちを助けてくれたんだ。
正直、いつまに日本刀を持っていたのかもわからないし、日本刀を持った後に魔永久に体を乗っ取られたのも、自分の身にそんなことが起きたのかと言う感覚は未だにないし、なによりもあんな強そうな化け物をオレの体で簡単に倒せたなんて嘘みたいだ。
化け物を倒した魔永久はさっさとオレに体を返すと家までつれてけと行けと言うし、腰が抜けて泣き叫んでる優斗はどけだけ宥めても泣き止むことはなかった。
幸いかは知らないけど、住職にきづかれることなくオレは二人を担いで寺を出たけど、優斗は家に帰るなりオレを突き飛ばして自分の部屋に籠ってしまうし、魔永久は自分は命の恩人でかつ、客人なんだけどと言い出すし。二人とも本当に自由で誰がここまで連れてきたか悪れてるんじゃないだろうな?
特に優斗の態度だ。いつもよりもひどい。
あんな怖い体験をしたんだから仕方がないかもしれないけど、もう少し……。いや、やめよ。いつも考えてもろくな答えにたどり着いた試しがないんだから。
「このお菓子おいしいねっ!」
「えっ!? 魔永久お菓子食えんの!?」
俺が少し考えことをしている隙に、魔永久はオレが差し出したせんべいを食べている。お客様ってことで一応出したけど、本当に食べるとは思いもしなかった。
「え? 口は?」
「くちぃ? そんなもん魔永久様には必要ないんだよねぇー。だって口がなくてもボク、喋れちゃってるでしょ?」
ふわふわと浮いては魔永久の近くで消えていくせんべいを不思議そうに見ながら、確かに口がなくても喋れている不思議な日本刀を改めてみる。
口がないわけじゃない。手も足もない。
ぱっと見ると、本当に博物館に飾ってあるような刀だ。長さは、百センチぐらい? いや、もっと長いかも。
戦っていた時になかった黒っぽい紫の鞘は、いつの間にか魔永久についていて本人曰く「服ぐらい着るでしょ? それともずっと裸でいろって? マモルのえっち~」とからかわれたのでもう二度と鞘について突っ込むものかと心に決めている。思い返しただけでも腹が立つ。
しかし、オレはこの喋る刀が気にならないわけじゃない。鞘が抜かれている状態って裸なのかとか、お菓子を食べるってことはトイレに行くのかとか。
あの包丁の化け物はとても怖かったと言うのに、目の前の刀の化け物への怖さはちっぽけもなかった。
でも、魔永久も化け物、いや、妖怪なんだよな?
「魔永久って、妖怪なの?」
「妖怪? ボクが?」
オレは頷く。
「悪い妖怪たからあそこに封印されてたんじゃないの?」
封印されるぐらいの悪い奴。
「ボクがぁ? マモル君にはそう見えちゃうわけ?」
「んー……」
オレかぁ。
「正直に言えば魔永久は強いんだろうけど、怖さはあの包丁を持った化け物の方が怖かったかな。だから、悪い妖怪も向こうの方が悪い妖怪っぽく思う」
「そりゃね。だって彼、話通じないからね。話ができない攻撃性のあるものって、人間怖がっちゃうからねぇ」
「……魔永久なんて攻撃性特化じゃん」
なんせ日本刀だ。
侍の武器だぞ?
「まーね。でも、ボクは話せれるでしょ? なんならボクのトーク力にマモルはちょっと心許してる。人間って攻撃性よりも話ができることに重視を置きがちだよねぇ。ま、悪いことじゃないと思うよ。話し合いで解決できるならするべきだねってボクも思うわけだし。話さなきゃわかんないこともあるよね」
「なんか魔永久って……」
「なに? 大人っぽいって?」
「いや、じいちゃんっぽいなって」
「じいちゃんかーい」
なんか、話の飛び方がじいちゃんっぽい。説教っぽいっていうか、話長そうって言うか。
「でも、マモルのおじい様なら若い方か? ここはボクは喜ぶべきとか?」
「いや、じいちゃん今年で六十五才だよ?」
決して若いと言われる分類ではない。友達の中には五十台のじいちゃんもいるけど、そのじいちゃんだって若いとかオレは思わないけどな。
「はぁ? 百歳超えてないとか、わっか。ピチピチじゃん」
「ピチピチって、魚じゃないんだから……」
「違う違う。滅茶苦茶若ってこと。新手の赤ちゃんじゃん」
「じいちゃんが赤ちゃんならオレはどうなるんだよ」
「はは、確かに。赤ちゃんの赤ちゃんになっちゃうな」
「そんなこと言う魔永久は何才なの?」
「ボクぅ? 若いと言いたいけど、結構才食ってるんだよねぇ」
「妖怪だし、百才とか?」
「マモルの中でボクは妖怪決定なんだね。あと、百才ではない」
「三百才?」
「まさか」
「なら、二百才」
「あ、そっちいく? じゃ、ヒントね。ボクね、藤原鎌足と話たことあるよ」
ふじわらのかまたりって……。
「え、誰それ」
「知らんのかーい。ま、マモルは勉強できそうなタイプじゃないもんね。いいよいいよ、忘れてくれて」
「失礼なやつだな。テストの点数はいい方だぞ?」
「へー」
「信じてないな?」
「いや、マモルの頭がいいとか悪いとか、正直今からは関係ないなって思っただけよ」
急に、魔永久の声が冷たい刃先のように変わっていく。
自分のなかから温度が奪われるみたいだ。
「今から?」
あ、そうだ。
オレ、魔永久に。
「オレの命を今からもらうから?」
約束したんだった。
魔永久は約束どおりにオレと優斗を助けてくれた。魔永久がいなかったらオレは兎も角、優斗もあの化け物にやられていたことだろう。
今度はオレたちが魔永久との約束を守らなきゃいけない。
「なにかしたいこと、ある? やりのこしたこととか」
「わかんない。おもいつかない」
嘘だ。
色々あるよ。まだ終わってないゲームに友達に借りた漫画だって最後まで読み終わっていない。
母さんと父さんになにも言ってない。
優斗と最後ぐらい昔みたいに話したい。
けど、あげたらあげただけ、やったらやっただけ、オレはきっと怖くなって死にたくないって言っちゃうと思うんだ。
魔永久はオレをちゃんと説得してくれて、根気よく待ってくれるかもしれない。
魔永久の言葉とおりじゃないけど、話が通じるからそんなにひどいやつじゃないかもしれないってどこかで思ってしまう。
けど、魔永久だって封印されるぐらい悪いことをした妖怪だ。もしかしたら、オレがいやだと言ったらわかったと言って優斗の命を持って行ってしまうかもしれない。
それはダメだ。
あげると言い出したのはオレの方なんだから。
優斗に迷惑をかけるのはおかしい。
「本当? 後悔はない?」
「ない。あ、でも一つだけ」
「なぁに? お父様お母様に手紙一つでも残しておきたくなった?」
「ちがうよ」
オレは魔永久に深く頭を下げる。
「魔永久、オレたちを助けてくれてありがとう」
まだ魔永久にお礼を言うのを忘れていたから。
「……マモル、君ってやつは……」
「はあ……」
オレの部屋には奇妙な空間が広がっていた。
床に下の押し入れから借りてきた座布団をひいて、その上に日本刀、えっと、名前は『魔永久』と言うらしい。本当か嘘かは知らないけど。が座っていると言うか、寝そべっていると言うか、置いているというか……。
「あの、立てかけた方がいいか?」
どっちが顔かわからないけど。
「え? いいよ、いいよ。お気になさらず。それより弟君はどう?」
「優斗?」
冷たい麦茶とオレの分のお菓子を魔永久に出しながら、オレは短くああ、とだけ呟いた。
今からたった一時間前、俺たちが関柴の家の墓にいて、包丁を持った化け物に襲われそうになったあの時。
あの墓場に封印されていた魔永久がオレの命と引き換えにオレたちを助けてくれたんだ。
正直、いつまに日本刀を持っていたのかもわからないし、日本刀を持った後に魔永久に体を乗っ取られたのも、自分の身にそんなことが起きたのかと言う感覚は未だにないし、なによりもあんな強そうな化け物をオレの体で簡単に倒せたなんて嘘みたいだ。
化け物を倒した魔永久はさっさとオレに体を返すと家までつれてけと行けと言うし、腰が抜けて泣き叫んでる優斗はどけだけ宥めても泣き止むことはなかった。
幸いかは知らないけど、住職にきづかれることなくオレは二人を担いで寺を出たけど、優斗は家に帰るなりオレを突き飛ばして自分の部屋に籠ってしまうし、魔永久は自分は命の恩人でかつ、客人なんだけどと言い出すし。二人とも本当に自由で誰がここまで連れてきたか悪れてるんじゃないだろうな?
特に優斗の態度だ。いつもよりもひどい。
あんな怖い体験をしたんだから仕方がないかもしれないけど、もう少し……。いや、やめよ。いつも考えてもろくな答えにたどり着いた試しがないんだから。
「このお菓子おいしいねっ!」
「えっ!? 魔永久お菓子食えんの!?」
俺が少し考えことをしている隙に、魔永久はオレが差し出したせんべいを食べている。お客様ってことで一応出したけど、本当に食べるとは思いもしなかった。
「え? 口は?」
「くちぃ? そんなもん魔永久様には必要ないんだよねぇー。だって口がなくてもボク、喋れちゃってるでしょ?」
ふわふわと浮いては魔永久の近くで消えていくせんべいを不思議そうに見ながら、確かに口がなくても喋れている不思議な日本刀を改めてみる。
口がないわけじゃない。手も足もない。
ぱっと見ると、本当に博物館に飾ってあるような刀だ。長さは、百センチぐらい? いや、もっと長いかも。
戦っていた時になかった黒っぽい紫の鞘は、いつの間にか魔永久についていて本人曰く「服ぐらい着るでしょ? それともずっと裸でいろって? マモルのえっち~」とからかわれたのでもう二度と鞘について突っ込むものかと心に決めている。思い返しただけでも腹が立つ。
しかし、オレはこの喋る刀が気にならないわけじゃない。鞘が抜かれている状態って裸なのかとか、お菓子を食べるってことはトイレに行くのかとか。
あの包丁の化け物はとても怖かったと言うのに、目の前の刀の化け物への怖さはちっぽけもなかった。
でも、魔永久も化け物、いや、妖怪なんだよな?
「魔永久って、妖怪なの?」
「妖怪? ボクが?」
オレは頷く。
「悪い妖怪たからあそこに封印されてたんじゃないの?」
封印されるぐらいの悪い奴。
「ボクがぁ? マモル君にはそう見えちゃうわけ?」
「んー……」
オレかぁ。
「正直に言えば魔永久は強いんだろうけど、怖さはあの包丁を持った化け物の方が怖かったかな。だから、悪い妖怪も向こうの方が悪い妖怪っぽく思う」
「そりゃね。だって彼、話通じないからね。話ができない攻撃性のあるものって、人間怖がっちゃうからねぇ」
「……魔永久なんて攻撃性特化じゃん」
なんせ日本刀だ。
侍の武器だぞ?
「まーね。でも、ボクは話せれるでしょ? なんならボクのトーク力にマモルはちょっと心許してる。人間って攻撃性よりも話ができることに重視を置きがちだよねぇ。ま、悪いことじゃないと思うよ。話し合いで解決できるならするべきだねってボクも思うわけだし。話さなきゃわかんないこともあるよね」
「なんか魔永久って……」
「なに? 大人っぽいって?」
「いや、じいちゃんっぽいなって」
「じいちゃんかーい」
なんか、話の飛び方がじいちゃんっぽい。説教っぽいっていうか、話長そうって言うか。
「でも、マモルのおじい様なら若い方か? ここはボクは喜ぶべきとか?」
「いや、じいちゃん今年で六十五才だよ?」
決して若いと言われる分類ではない。友達の中には五十台のじいちゃんもいるけど、そのじいちゃんだって若いとかオレは思わないけどな。
「はぁ? 百歳超えてないとか、わっか。ピチピチじゃん」
「ピチピチって、魚じゃないんだから……」
「違う違う。滅茶苦茶若ってこと。新手の赤ちゃんじゃん」
「じいちゃんが赤ちゃんならオレはどうなるんだよ」
「はは、確かに。赤ちゃんの赤ちゃんになっちゃうな」
「そんなこと言う魔永久は何才なの?」
「ボクぅ? 若いと言いたいけど、結構才食ってるんだよねぇ」
「妖怪だし、百才とか?」
「マモルの中でボクは妖怪決定なんだね。あと、百才ではない」
「三百才?」
「まさか」
「なら、二百才」
「あ、そっちいく? じゃ、ヒントね。ボクね、藤原鎌足と話たことあるよ」
ふじわらのかまたりって……。
「え、誰それ」
「知らんのかーい。ま、マモルは勉強できそうなタイプじゃないもんね。いいよいいよ、忘れてくれて」
「失礼なやつだな。テストの点数はいい方だぞ?」
「へー」
「信じてないな?」
「いや、マモルの頭がいいとか悪いとか、正直今からは関係ないなって思っただけよ」
急に、魔永久の声が冷たい刃先のように変わっていく。
自分のなかから温度が奪われるみたいだ。
「今から?」
あ、そうだ。
オレ、魔永久に。
「オレの命を今からもらうから?」
約束したんだった。
魔永久は約束どおりにオレと優斗を助けてくれた。魔永久がいなかったらオレは兎も角、優斗もあの化け物にやられていたことだろう。
今度はオレたちが魔永久との約束を守らなきゃいけない。
「なにかしたいこと、ある? やりのこしたこととか」
「わかんない。おもいつかない」
嘘だ。
色々あるよ。まだ終わってないゲームに友達に借りた漫画だって最後まで読み終わっていない。
母さんと父さんになにも言ってない。
優斗と最後ぐらい昔みたいに話したい。
けど、あげたらあげただけ、やったらやっただけ、オレはきっと怖くなって死にたくないって言っちゃうと思うんだ。
魔永久はオレをちゃんと説得してくれて、根気よく待ってくれるかもしれない。
魔永久の言葉とおりじゃないけど、話が通じるからそんなにひどいやつじゃないかもしれないってどこかで思ってしまう。
けど、魔永久だって封印されるぐらい悪いことをした妖怪だ。もしかしたら、オレがいやだと言ったらわかったと言って優斗の命を持って行ってしまうかもしれない。
それはダメだ。
あげると言い出したのはオレの方なんだから。
優斗に迷惑をかけるのはおかしい。
「本当? 後悔はない?」
「ない。あ、でも一つだけ」
「なぁに? お父様お母様に手紙一つでも残しておきたくなった?」
「ちがうよ」
オレは魔永久に深く頭を下げる。
「魔永久、オレたちを助けてくれてありがとう」
まだ魔永久にお礼を言うのを忘れていたから。
「……マモル、君ってやつは……」
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