期間限定の仮初婚約者ですがなぜか国王陛下に愛されています。（私はひっそり生きたいのに）

出稼ぎします

09

　私は無事住み込みで食事付きの職場をゲットすることができた。
　兄には一人で王都に出てきたことを泣きながら怒られたが、家の状況を伝えると頭を抱えていた。
　そんなわけで、今は王城の寮から毎日職場に歩いて通っている。徒歩5分なんてとっても素晴らしい！
　朝の満員電車を経験した身としては、歩いて職場に行けるって天国だよ（電車なんてないけど）　

　しかも文官の制服を貸与してもらったので着るものにも困らない。洗い替え用に３着も借りた。
　おまけにとっても生地がとてもいい。デザインもシンプルで色は落ち着いた濃紺に銀の刺繍が入っている。かっこいい。ロングスカートで足捌きもいいしポケットもあるのでハンカチとペンは収納できる。

　「ルナリア、おはよう！」

　働き始めてあっという間に一週間が経った。
　朝八時。与えられた執務室で仕事をしていると兄が顔を出した。
　私は書類の山から顔を上げてにっこりと微笑む。

　「おはようございます。お兄様もお仕事頑張ってください」
　「今日も妹がかわいい。ぐぇ」

　ほのほのとする兄の後ろから制服の襟を軽く引っ張る男性がいた。
　フィリクス・ルーウェン卿。兄の上司でこの国の宰相様である。
　あの日はまさか、と思ったけど、そのまさかだった。

　「さっさと自分の執務室に行きなさい」
　「まだ就業時間じゃないのに…」
　「何か？」
　「いえ！では失礼します。ルナリア、今夜は一緒に食事を」
　「早く行きなさい」

　（お兄様にはいい上司がいて安心だわ）
　
　このやりとりは毎朝の恒例行事である。
　いつも早くに登城するルーウェン様はあの日はたまたま朝から所用があり、遅めの登城だったらしい。
　そう思うととても幸運だった。あのまま門前で追い返されると兄からの返事をじっと待つことしかできなかったから。