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12.2度目のダンジョン

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「…行くか」

 追加で薬草を買い、三日分くらいの携帯食料をアイテムボックスに詰めて、ダンジョンキーを手に取る。

 人通りのないひっそりとした裏路地に入り、壁に鍵の先端を押し付ける。
 ある程度力を込めると、スルッと壁の中に鍵が入った。
 回すと、ゲートが出現する。

「ふう」

 一呼吸おく。
 入ると多分、クリアするまで出られない。
 前回は神器を取って少し経つと、自動的にゲートを出した場所に戻された。

 一層目から強い魔物が出てきたら、もう死ぬかもしれない。

 そう思うと躊躇しかけるが、その恐怖心を落ち着かせ、意を決してゲートに足を入れた。
 冒険者になるって決めたんだから、これくらいのリスクは背負わないとな。


 ◇ ◇ ◇


 …まぶしい。

 目を開けると、ダンジョンに入ったっていうのに、光に満ちた草原が広がってる。

「前回とは全く違うな…」

 前みたいに一本道にはなっておらず、ただただ草原のど真ん中に放り出された感じ。
 進むべき方向がはっきりしてない。

「まあ、テキトーに歩くしかないか」

 この隠しダンジョンに地図があるはずもないので、とりあえず入ってきた時点で向いてた方に歩き出した。

 2、3分歩くと早速、自分以外の生物を発見する。

 真っ白なモコモコした毛皮を身にまとった四足歩行の魔物。
 一見すると羊だけど、顔はかなり凶悪でツノが生えてる。


『ステータス』
 
《種族》 ツノヒツジ
 
《HP》 90/90
《MP》 80/80
《物攻》 80
《物防》 90
《魔攻》 70
《魔防》 70

《スキル》なし


 お、このステータスなら勝てるな。
 いきなり詰むとかじゃなくてよかった。

 そう考えた矢先だった。

 ゆっくりと動いていた羊が、突然ものすごい勢いで俺に突進してきた。

「…ぐっ」

 油断してた俺は、その突進をモロに受け、羊の頭に生えた二本のツノが腹にめり込む。
 ツノの周りに血が滲む。
 結構な痛みが走る。

 なおも押し込もうとする羊の首元を、持っていた短剣で斬り、なんとか距離をとる。

 くそっ、気を抜きすぎた。
 昨日のウサギの時といい、最近楽に倒せてきてるから、調子に乗ってんのかもな。
 引き締めてかないと。

 羊の方は、また最初のゆっくりとした動きに戻ってる。
 そして一瞬止まったと思うと、さっきの高速突進を繰り出してきた。

 緩急をつけて避けにくくしてるみたいだ。

 しかし、速いとはいえ動きは直線的。
 分かってれば避けられる。

 人一人分だけ左にずれ、最小限の動きでかわし、何もない空間に突っ込んでくる羊の前に、短剣を地面と平行に振る。

 ザクッ。

 羊は減速することもなく短剣に突進。
 俺の攻撃に羊自身のスピードがのり、大ダメージ。
 そしてその勢いのまま吹っ飛んだ。

 すぐさま振り返って、飛んで行った羊の位置を確認する。

 すると、右半身に大ダメージを受けた羊は、倒れたまますぐには起き上がれない様子。
 脚が空回ってる。

「今だっ」

 左手を前に構え、倒れた羊に向かって、毒弾を発射する。
 放たれた毒弾が羊の体を捉えた。

 羊の毛が紫色に染まる。
 やったか?

 しかし、とどめには至っていなかったらしく、ヨロヨロと立ち上がった。

 またもや俺の方に向かってくる。
 が、明らかに動きが遅い。

 追い討ちをかけるように、インターバルの終わった毒弾を再度羊めがけて撃つ。

 これも命中。
 
 それでもまだ息のあった羊だったが、その後の毒の継続ダメージでやっとHPが0になった。

 

 ◇ ◇ ◇



 広大な草原をひたすら歩き続ける。
 いつまでたっても終わりが見えない。

 気がつくと、時間的にはもう夜になってた。
 もっとも、ダンジョン内はずっと昼間みたいに明るいから、夜になった感覚はないけど。
 
「階段があるわけじゃないのかな」

 ダンジョンってことで、無意識に下に向かう階段があるもんだと思ってたけど、そうとも限らないのかも。
 こんなに晴れ渡ってる時点で、常識なんて通じないのは明らか。

 そんなことを考えてると、後ろから物音が聞こえた。

「また羊か…」

 呆れたようにつぶやく。

 なんせ、これでもう大台の100体目だ。
 もうあの怖い顔を見るのはこりごり。
 
 まあそれでも、無視して顔を背けてるわけにはいかないんだけどね。
 そんなことしたら後ろから攻撃され放題。

「はあ」

 憂鬱な気持ちで振り返る。

「……!?」

 しかし、そこにいたのは想像してた魔物ではなかった。
 
 凶悪な顔とモコモコのフォルムは同じ。
 ただ色が全く違った。

 真っ黒。
 顔も毛も全てが黒く、尖った歯だけが白く目立ってる。


『ステータス』
 
《種族》 ブラックツノヒツジ
 
《HP》 135/135
《MP》 140/140
《物攻》 100
《物防》 125
《魔攻》 120
《魔防》 130

《スキル》電纏


 
 …おう。
 しっかり強いぞ。

 まあでもこれで、こいつが何かしらの先に進むための手がかりだってことは、ほぼ確定した。

 ちょうどキリのいい100体目に、特異体らしくて、しかも強い魔物。
 これで何でもないってことはないだろう。

「さっさと倒して次行くか」

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