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7.フュジ島

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 ドスン。

 衝撃で目を覚ます。
 
 窓の外に目をやると、一面に広がる草原が見えた。
 どうやら着いたようだ。

 早々と飛行船を降り、大きく伸びをする。
 座りっぱなしで体が痛い。

「お前さん、一人でいると危ないぞ。ほれ、こっちに来なさい」

 突然後ろから声をかけられた。
 
 振り向くと、そこには杖をついたおじいさん。
 知らない人だ。

 俺のいたサブル島とは別の島から乗ってきた人だと思う。

「この辺りにも魔物は出るんじゃ。安全なところに着くまでは、用心棒の人の近くにおらんと危険じゃぞ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 町まで飛行船専属の用心棒が守っていってくれるらしい。

 随分サービスいいんだな。
 まあ確かに戦闘職の人いないと危ないか。

「全員揃ってますかー?そろそろ行きますよー」

 ちょうど、その用心棒の声が聞こえてきた。
 周りには乗客20人くらいが全員集まってる。

 一応いっしょに行っておくことにするか。
 変に目立ちたくないし。


 ◇ ◇ ◇


 道中はめちゃくちゃ安全だった。
 誰も魔物から攻撃を受けるどころか、攻撃範囲にすら入ってない。

 結構な頻度で魔物が見えたけど、近くに来る前に用心棒が全部瞬殺した。
 背の低い草原で見晴らしが良かったから、奇襲されることもない。

 最初は一人でこの人数守りきれるのか疑問だったけど、杞憂だったみたい。

 そんなわけで、何の問題もなく町に到着。

「賑わってるなあ」

 町は活気に溢れてた。
 
 入り口からすでに、大通りの両脇には店がズラリと並んでる。
 しかもどの店にも客が入ってる。

 俺のいた島とは大違いだ。

 ド田舎だったから、人口も少ないし、店なんてポツポツとあるだけ。
 だから、この人の多さには衝撃をうけた。

 ただ黒目の人が多いのは同じだ。

 この辺りの島みたいに、弱い魔物ばかりの地域には、必然的に非戦闘職が集まる。
 戦闘職はほとんどが子供。
 
 そんな島にしかいたことないと、未だに非戦闘職が5%しかいないことが信じられない。
 
「じゃあ私はこの辺で」

「ああ、ありがとうございました」

 用心棒の人だ。
 全員を送り届けたのを確認し終わったので、飛行船に戻るらしい。

 俺も外行くか。
 パッパと条件達成しないとね。

 用心棒が見えなくなったのを確認して、さっきの草原にまた出ていった。


 ◇ ◇ ◇


 町に行くのに歩いてきたのとは別の方向に進んできた。

 遠くにさっきも見た、鹿の魔物が見える。

「とりあえず条件確認しとくか」


『入手条件(フュジ島)』

《アルムディアー討伐》 0/30
《アルムラビット討伐》 0/30
《アルムラット討伐》  0/40


 多分あれがアルムディアーなはず。

 アルムっていうのは、この辺の島がある地域の名前。
 故郷のサブル島もアルム地域。

 ま、だからアルム地域の鹿ってことでアルムディアーじゃないかな。


『ステータス』
 
《種族》 アルムディアー
 
《HP》 40/40
《MP》 40/40
《物攻》 40
《物防》 40
《魔攻》 40
《魔防》 40

《スキル》なし


 やっぱり。
 じゃ、条件の魔物ってことね。

 そーっと近づく。

 気づかれるギリギリまで来て、神器である指輪のついた手を鹿の方に向ける。
 
「…毒弾!」

 声に出すと、その手の前に小さい魔法陣みたいのが出てきて、そこから毒の弾が飛び出す。

 どちゃっ。

 当たったっ。
 鹿のHPが10減り、ステータスに

 《状態異常》 毒 

 が追加された。

 よし、成功。
 ずっと試してみたかったんだよね。

 こちらに気づいた鹿が、ジグザグに跳ねるように近づいてくる。

 行動を読みづらくするために意図的にやってるのか、そういう習性なのかは知らないけど、狙いは絞りにくくなってる。
 この状態でもう一回当てるのは無理。

 ただそれは慣れてない毒弾に限るけどね。

 普通に短剣で斬るのは話が別。
 そんな小細工は通用しない。

 鹿をよく観察して、攻撃してくるタイミングを見計らう。

 …来たっ。
 ザシュッ。

 突進を避けながら斬りつける。
 13ダメージ。

 余裕だね。
 これまで自分と同じかそれ以上のステータスの相手と、気を抜いたら殺される状態で戦ってきたんだ。 
 大した知能のない魔物の動きを読むのなんて、それほど難しくも無くなってきた。
 
 もう一撃も難なく入れて、あとは毒のダメージでお陀仏。
 完全勝利。

 もうスライムに手間取ってた時からしたら、俺もだいぶ強くなったなあ。
 神器のおかげだ。

 ◇ ◇ ◇

 その後も草原をブラブラしてたけど、出てくるのは鹿ばっかり。
 
 おかしいなあ。
 飛行船から町まで来るときは、ウサギも何体か見たんだけど…。

 結局、ウサギを見ることないまま30体目の鹿を倒し終わってしまった。
 このまま探してても埒があかないから、一旦町に戻って情報収集だ。


 ◇ ◇ ◇

 
 やっぱり魔物のことを聞くならギルドかな。
 てことでギルドを目指す。

 あんまり冒険者がいなさそうな島だけど、一応ギルドはあるらしい。
 まあ受付一人とオーナー一人だけの、こじんまりしたところらしいけど。

 お、あったあった。
 本当にちっちゃいな。
 
 受付は建物の外にあって、建物の中は全部裏方。
 タバコ屋って感じ。

 看板のところが「冒険者ギルド」になってなかったら、タバコ屋と勘違いしそう。

 その景気の悪そうなギルドの奥に向かって声をかける。

「すいませーん。聞きたいことあるんですけどー」

「はーい、少々お待ちください」

 30秒くらい待つと、中からおばちゃんが出てきた。
 オーナーの人かな?

「どうしましたか?」

「あの、アルムラビットってどこにいますか?」

「アルムラビットでしたら、町のすぐ外の草原に出ますよ。ただ昼の暑い時間帯は巣にこもってるので、見られるのは朝か夜だけですねー」

「あ、そうなんですね。ありがとうこざいます!」

「いえいえ。でもどうしてそんなことを?」

「あっ、ちょっと気になっただけです」

 そう言って、逃げるようにその場を離れた。
 よく考えたら、非戦闘職が魔物について聞くっておかしいのか。

 それにしても、時間限定で出てくるとは。
 来るときは朝だったからいたのか。
 
 そのまま外にいなくて良かった。
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