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ハムハム楽しむ日々
余韻の後に
しおりを挟む唇から微かな熱が離れた時、お互いに閉じられていた瞼を開け瞳と瞳を合わせた。
少し驚いてるいる彼。彼の蜂蜜色の綺麗な瞳からは驚きの色が浮いて見えた。
かく言うわたしも、先ほどの自分の行動に驚愕し動揺が手にとってわかるであろう程に狼狽えていた。
「エル、あの…」
「ラティ、あの…」
二人同時に口を開き先ほどの言い訳を探すかの様に言いよどみ、目線だけで「お先にどうぞ」と相手を促す。
「その、えっと今のは」
「今のはえっと、その」
お互いが高揚とした顔とは打って変わって少し掠れた声を出して相手の出方を伺う。
わたしだって、さすがのわたしだって動揺しすぎて迷子になった思考は、もうどの答えも探し当てていない。
いつも7歳児よりも大人っぽいラニエルも今は年相応に動揺を隠し切れていない。
そもそも彼はキスと言う行為にどんな意味があるのか分かっているのだろうか。わたしは前世の記憶でそれなりの経験はあるはずなので、意味自体には理解がある。でも、それを今この体で、この状況での、この失態は理解しきれていない。それよりもハッキリと頭の中にあるのは「婚前交渉」という不穏な漢字四文字。あーまだ漢字を思い出せるのね。そんなどうでもいいことを考え、迷子の思考を迎えに行かないでいる。
だが、彼のこの動揺からにして理由は分からないにしろ、行動の意味自体は分かっているらしい。
それに伴う感情が本当にあるかどうかは、幼いわたしたち(たちと言わせてほしい)にはまだ分からないはずだ。
「気持ちは落ち着きましたか?」
「え?あ、はい、そうですね…落ち込んでたのは、どこかに行きました」
「それは何よりです」
名付けて作戦名「ザ・スルー」である。さっきの行動には触れないで、とりあえずハムハムは満足できたかと質問してみる。疑問に思う問いかけだった様だけど、そこは紳士。キチンとわたしの問いに答えて頷いてみせる。
にっこりと微笑んだわたしは、そっと彼の手に手を添えて優しく応える。
「また何かありましたら、わたしが出来ることがありましたらお応え致しますわ」
「…はい、その時はまたよろしくお願いします」
無難な挨拶を終えて最後の行動はお互いにスルーを決め込む。
そしてまたハムハムの約束を取り付ける(そこはブレない)そうだ、今度はこうやって待っててもらうのではなくて、きちんと約束をしよう。
「エル、今度何かあった時、落ち込んだ時は手紙をよこしてください。そしたらその約束を辿ってわたしはまたこちらに参ります」
「はい。あ、いえ、あの」
「はい?」
「明日も会えませんか?」
「え?」
(え?明日も?まさかこれからまた落ち込む予定が待っているのかしら?)
そんなに毎日落ち込む事があるなんて、おまじないってすぐ効果なくなっちゃう程に、そんなに?
こんなに小さい子供が毎日そんなに耐えなきゃいけないことって。冷遇されているのかな、きちんとお布団で寝れてないとか?いじめが毎日?顔には傷なんて見受けられないけど、もしかして洋服で隠れたところに体罰の跡があったり!?
(そんなの辛すぎる!)
「はい、ではまた明日同じ時間にこちらで。お約束を致しましょう」
「ありがとうございます!」
(ーー!!天使ーーーー!!)
花がほころぶよに、少しの儚さを残しつつ優しい暖かい笑顔がこちらに向けられた。
「明日もまたおまじないをお願いいたします」
「え、はっはい」
「ではまた一日頑張ってまいります。ラティ今日もありがとうございました」
ふんわりと、わたしの鼻にたどり着いたのはベリーの香り。優しい可愛い笑顔。甘い囁きにその場でわたしは膝を落とし座り込んでしまった。
そんな様子は見えなくなった彼には伝わらなくてよかった。
(腰が、力が入らない…動けそうもないや)
羞恥だセクハラだ虐待だ、いろんな言葉がわたしをめぐる。迷子を探した思考の旅はまだ、終わりそうもない。
そっと自身の唇に指先を添えてみる。さっき一瞬でも触れ合ったラニエルの唇。柔らかく、これまたプックリとしたあの可愛い艶やかな唇が、わたしの、ここにーー
「きゃーー!やってしまったーー!セクハラだ!犯罪だ!幼児虐待だ!」
(アーーーーーー!)
「(キャーーーー!!)」
最後の叫び声は、一応国の持ち物である森で上げてはならないだろう叫び声なので、一応、まぁ一応、今更だけど、口を手で隠して叫んだ。
お陰でわたしが叫んだ後も、落ち着いた綺麗な雰囲気のまま木々たちは、小鳥と戯れ風に身を任せ木漏れ日を落として静かんでいた。
(ハムハムだけを楽しむつもりが!彼を味わってしまったなんて!強制猥褻罪だわーー!)
草の生えた地面にわたしを拳を何度も何度も振り落とす。ダンダンダンっと地面が揺れるがわたしの心だって揺れているのだ。地面はそのままわたしの攻撃を耐えているがいい!
これは自分の気持ちも迷子になり掛けている、そんなラティファナの5歳のある日の記憶だった。
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