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ラティファナの日常

パパ様に聞いてみた

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 わたしは朝食を終えたあと、クライエル伯爵邸執務室ーーお父様の所へとお邪魔していた。
 お父様は机へ向かい、お母様は1人掛け用のソファに掛けながら、優雅にティータイム。
 
 自身の両親は仲が良く、父のところへ向かえば母がいて、母の所に行けば父がいる。まぁ、つまりは所構わず二人はずっと一緒にいるのだ。


「お父様、ジファーソン家のラニエル様と仲良くなりました。彼のお家はこの領地から近いのですか?」

「ラティ、お父様じゃないだろ?」

「ーーっパパ様」

「なんだい!僕のかわいい天使!」



(25歳の成人男性が、しかも貴族なのに…色々残念すぎる)




 カスタート・クライエル伯爵。
 わたしの実父であり王家に使える年若い文官である。もちろん領主様である。
 色素の薄い青色の髪の毛に、グレーみのかかった薄い色素の瞳。眉は生まれつきなのかハの字を書くように眉尻は下がって見える。
 優しい雰囲気に甘い笑顔。それに少し困ったような眉が印象的な、やんわりお色気紳士だ。

 わたしの外見はお母様に似たのだろう。

 ラニエルとの逢瀬から次の日、わたしはお父様に彼について少し聞いてみることにした。
 手紙の配送時間から行けばそんなに離れているような所ではないし、かといってお隣という程近いとも思えない。
 いつも逢瀬で使う森は、領地と王家が管理する王領の狭間にあるところ。どちらかといえばあそこは"国民のもの"的なフリーダムなん森だと思っていたけれど。
 本当のところは国の管轄なので、王族所有の土地であるのに間違いない。

 今わたしが生きる時代、マロニエル王国は日本でいう江戸時代といったところだろうか。戦争自体は何年も前に終わり、近隣国とも良好な関係を築いている。それに謀反を試みる輩は今は居ないという。
 王族に対しての絶対的な信頼がある、そんな時代なのだ。


「ジファーソン家とは、突然どうしたのかな天使様。その領地なら山向こうの、泉と放牧地で有名なところかな」

「放牧ですか?」

「ジファーソン侯爵領はね、王都からは距離はあるけれど、緑に囲まれたそれは綺麗な領地だと聞いているよ」

「お父様はーー」

「ラティ」

「(めんどくさいなぁ)パパ様はその領地に行ったことはないのですか?」


 聞いた話だと、となれば、行ったことがないのは当たり前なのだが、お父様ーーパパ様からのお話を聞きたくおもい、とりあえず子供らしく色々聞いてみることにする。


「そうだね、僕はジファーソン卿とはそんなに親しいわけではないからね、彼はさほど社交界に顔は出さないし、子息殿もあまり顔出しをされてないそうだよ」

「でも最近ご子息のラニエル様はわたしのお散歩する森によく足を運ばれていますわ」

「僕の天使はまた独りであそこに行っているのかな?」

「あ、はい…」


 パパ様には「伯爵令嬢なんだからあまり独りで行動してはいけない」と何回か注意をされていたけれど、でも頭ごなしに叱って来るわけでもない。
 ママ様からの「少しお転婆の方が女の子は良いのよ」という助言をもらい、最近のパパ様は柔軟になってきている。

 今世で前世を思い出したからといって憧れのラノベの様に、今までのラティファナと180度違った性格になることはなかった。



(だって思い出しただけであってわたしの性格がそれに取り憑かれた訳でもないし…)



 感覚的なことは思い出したけれど、されどそれは結局のところ"その程度"なのだ。
 この国での常識や、今まで学んだことは当たり前に身に付いているし。
 誰かのように「フラグを叩き折る!」と奮闘する必要もない。
 だってここにはフラグというよりも、なにかの物語というわけでもないのだ。わたしの人生をわたしが楽しむだけで、あとは過去の思い出として、知識として持っているだけで良いのだ。

 

(若干の偏りを感じるけどね)



 煩悩のみに固執した記憶なのか、またはラティファナとして元から持っていた感情なのか。とりあえず、今はそれが楽しいと思うのだから仕方ないと思う。


「そのジファーソン卿のご子息と仲良くなったのなら、こちらから一度ご挨拶のお手紙書かないといけないね」

「お手紙をパパ様はーーお仕事が忙しいのに、わたしのために…お時間あるのですか?ちゃんと寝られていますか?」

「あーー!僕の天使は今日も尊い!」



(厨二病なのかな…ママ様は白い目で呆れてるし)



 父は文官であまりやしきには帰ってこれない。王都から馬車で1時間程なので仕事が終わればちゃんと帰ってこられる距離だけど。
 母はそんな父の代わりに伯爵領の切り盛りを担当している。
 ナイスミドル執事のマランツと共に、毎日せっせと書類とにらめっこをしているのをよく目にする。

 そんな両親だから娘と遊ぶという状態には程遠い環境なのだ。
 寂しくもあるけれどそれでも不満に思うこともない。侍女のナルミアと執事のマランツ、他の邸内の使用人たちはとても良くしてくれた。
 父と母は相思相愛で、どんな時も相手を思い、そして相手を敬う。さっきまで喧嘩してたと思っていたら、気がついたらママ様からハムハムしているのだ。



(ハムハムはママ様譲りだったのね)



 今思い出してもママ様の"旦那様"に対してのハムリングはすごい。事あるごとにハムハムしているのだ。たとえ娘が隣で一生懸命マナーレッスンをしていようとも、所構わずハムハムしているのだ!

 そりゃわたしもこんな性格になるわ!言わせてもらいたい。このような痴女になったのは確実にママ様のせいです!とーー


「僕の天使がお世話になっているなら最優先で手紙くらいかかせてもらうよ」

「ありがとうございます、パパ様!」

「あーー!かわいい!」


 伯爵の執務室にて優雅なティータイムは、パパ様のデレデレ甘々な娘への賛辞をツマミにまだまだ続くようです。


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