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自意識過剰系男子の日常①

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「遥陽くんおつかれー!」
「おつかれユキちゃん」


スマホから顔を上げてニコッと微笑む。
この講義は知り合いの誰とも被らなかったから最初のオリエンテーションのときに数人とになった。


「ユキちゃんのおかげでレポート助かったマジありがとう」
「全然いいよーよかったよかった」
「後で飲み物奢らせて~」
「よしゃースタバねー」


こういう時に頼みやすいように、予め話しやすい環境を整えておく。貸し借りはなし。その場で精算。
ユキちゃんが他の人と話し始めたのを見届けてから再度スマホに目を落とす。
DM欄にはたくさんの女の子の名前。
その中でも1か月前くらいからDMで話すようになってきた女の子のトークを開く。


『えーやば‪‪‪w‪w‪』
『まじでエビサワゆるせねぇ』
『災難だったね‪‪‪w‪w‪w』
『あーあまた彼女つくるタイミング見逃したぁ』
『なんでハルヒくんが彼女できないのかマジでわかんない』
『それな?こんなにイケメンで優しいのに』
『じぶんでいうな‪‪‪w‪w‪w‪‪‪w‪w‪w‪‪‪w‪w‪w』


(いや原因なんて本当はわかってるけど)

顔が良くて当たり障りのない優しさを持っているやつは、友達以上恋人未満、よくてキープだろう。
本命になれるわけがない。

(なにより誰かと付き合っている自分が想像できない。)

それでも遥陽はこういった『恋愛ごっこ』がやめられない。

彼女がほしい。自分だけを見てくれる子が側にいてほしい。
『仲良くなる』のは簡単だ。相手の欲しがっている言葉を並べるだけでいい。
そうしていって、自分に気持ちが傾いてきてくれるのが分かると嬉しい。
でも明らかに好意が透けて見えてくるとそれ以上近寄って欲しくない。
途端に自分の心と身体に触れてくる手が気持ち悪く感じる。
そうやって手繰り寄せたりやんわり距離を離したりしていくうちに、落ちないと思った相手はこちらに見切りをつけて、いつの間に他に相手を作っている。


遥陽のお決まりパターンである。


そうして、安心するのだ。自分を好いてくれる人間なんていないということを確認して。
自分で試して、距離をとって、勝手に傷つく。
好かれないけど嫌われないように振る舞う。

今苦しんでいるのは自業自得、薄々わかっているけど見ないようにしている。
自分がどうしようもない人間だと、開き直っている方が楽だから。
環境や自分の過去、性格のせいにしていた方が楽だから。
変わろうとしない今の自分のせいだなんて気づきたくないから。

(この子はもうダメだな。経済学部の男と付き合ってるらしいし)

横恋慕も浮気も誰かが傷つくからダメ。
誰かが傷つくということは誰かに憎しみを向けるということだから。
嫌われたくない。失敗したくない。減点方式の人生。

(そもそも最初から好きでも何でもなかったし。都合がいいだけの女。)

こうして遥陽は悲劇のヒロインのように一人心の劇場で泣き崩れるのだ。





●●●





「はるちゃん」
「あれ、真守、今日午後バイトって言ってなかった?間に合うのか?」
「それ明日の事だったみたい~」
「もーだからちゃんとシフトはアプリで管理しろって言ったじゃん」


昼時のカフェテリア。
サークルの友達数人と話していた遥陽のもとへ真守がトレーを持って近づいてきた。


「でた~真守くんのおっちょこちょい」
「西山も世話焼きだなーまじで」
「うーごめんはるちゃん…夕飯当番今日変わるから明日お願い」
「おっけーりょーかいりょーかい。じゃあレポート今仕上げてから帰るから。」
「ハルヒくんまたギリギリに課題やってんのー?懲りないねぇ」
「うっせぇ。俺はギリギリにやんのが好きなの!」


真守も加わった友達集団は今日もわちゃわちゃ。


「あ!でも待った。俺明日学祭の実行委員あるわ…夜まで。明日の夕飯別々でいい?」
「あそっか…分かった。でもどの道今日やることなくなっちゃったから今晩は僕がつくるね」
「……正直助かりますっっ」
「真守くんやさし~良妻すぎる」
「ええっ僕たち結婚してないよ!」


真っ赤になって慌てる真守。一同は爆笑し、遥陽はバンバン背中を叩かれる。
その様子をぽかんと見て自分の勘違いに気づいたのか、真守は恥ずかしがりながら控えめに笑う。

これがいつもの流れ。

遥陽は真守をバカにするようなつまらない人間とは付き合わない。
みんな真守のおっちょこちょいまで愛でられる心の広い信頼のおけるやつらばかりだ。
心地いい距離感と会話テンポが楽しい、本当の友達たち。
この中できっと心の底から笑えてないのは遥陽だけだろう。
天然行動を嫌悪してる訳じゃない、けれど寛容でいられる訳じゃない。

そしてそんな心の狭さに対する自己嫌悪。


異質なのは、遥陽。
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