檸檬色に染まる泉

鈴懸 嶺

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変化した表情

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「ようやくお客さん引いたね?」

「ええ、そろそろ閉店の準備しましょうか」

 いつもと変わらないドラッグストアーでの維澄さんとの会話。

 ただでもこうして一緒にアルバイトができる日もあとわずかだ……

「維澄さんはいつまでシフト入れているの?」

「31日まで入れてるよ?」

「え!?ギリギリまで!?なんで?」

「店長に懇願されちゃって……」

「あ~。まったくあの店長ときたら図々しいよね?いままで散々安給料でこき使っておいて」

「まあ、でもお世話になったも確かだし」

「維澄さんはお人好しすぎるのよ」

「それが大人の対応なの」

「え~?維澄さんが大人ぶっても説得力ないんですけど?」

「ほら!またバカにして!」

 年齢は7つも年上の大人の女性。私にとっては世界一美しいと思う女性。でも性格は少女のように無垢な女性なのだ。

 だから彼女をリードしているのはいつも私。

 でも本人も少しづつ成長しようと前向きになっているのは……一連の”試練”を私と一緒に乗り越えた影響と思いたい。

「それにしてもこれから大変だろうなあ~この店。私と維澄さんという二人の美人店員がいななったらヤバイでしょ?」

「そうかしら?」

「店長言ってましたよ?私と維澄さんが二人でいる時の男性客が圧倒的に多いって」

「そんなことはないんじゃないの?」

「あるんだって!それだから維澄さんはつけこまれるんだよ?……現実に維澄さんにちょっかい出した気持ち悪い男いたじゃない?」

「ああ……あったね、そんなことが。檸檬がカッコよく懲らしめた人だよね……フフフ」

「そう!あいつ!思い出しただけでムカつく!!……結局、あの男がストーカーの犯人だったんだよね?」

「そう。警察から顔の確認したいからって呼びだされた時に確かにあの人だった」

「ほらっ!!気をつけて下さいよ?私の大切な維澄さんなんだから」

 私は少しおどけてそう言ってみた。

「いいの、そんな時は檸檬がちゃんと護ってくれるから」


 少し前の維澄さんなら真っ赤になって俯きそうなところだが、最近はこんな風に軽口で返してくる。随分と成長したものだ。

 まあ、そうだよね。だって私達は恋人同士だから。

 いやいや、それを通り越して婚約者か……

「それにしても、店であの男性を押さえ込んだ時といい、私がつけられた時といい……檸檬はいつもカッコ良かったよね?」

「え?そう?もしかしてあれがきっかけで私を意識し始めたとか?」

「意識?意識なら最初からしてたよ?」

「ええ!?そんなわけなんでしょ?」

「ホントよ?はじめて店に来た時、すごく綺麗な娘だなってドキドキしたもの」

「う、嘘だ……最初、凄くやな顔してたよね?」

「だってあんないきなり文句言われてやな顔しない人なんていないでしょ?」

「そ、それはそうだけど……」

「でも次の日、また檸檬が来た時は、困ったとなぁって思う半面、少し嬉しい気持ちもあったんだよ?」

「嘘だぁ!……私なんか維澄さんにどう嫌われまいかとメチャ悩んでたのに!!!」

 今更、とんでもないカミングアウトをされて私は真っ赤に赤面してしまった。

 なんなのよ?そうだったの?……まったく、ニヤけがとまらなくなるじゃないか!




「ちょっと!!店でそんなにイチャイチャしないでよね?!」

 スタッフルームから二人の女子高生が入ってきた。

「あ、美香!……それから、え~っと」


「益川杏奈ですよ。酷くないですか?いいかげん私の名前覚えてくださいよ?私、神沼先輩に告白したんですよ?酷くないですか?」

「ああ……ゴメン」

「杏奈?最近、檸檬はしょっちゅう告白されているからいちいち覚えてないの」

「え?そうなの?」

 急に維澄さんが話に入ってきた。

「あ、維澄さん、心配しなくていいですよ?この浅沼美香以上のライバルは今のところいないから」

「何のライバルなのよ?」

 私はまた美香が余計な暴走しないかと不安になって口を挟んだ。

「だって檸檬言ったじゃない?維澄さんの身体に飽きたら私の相手もしてくれるって?」

「ば、ばかっ!なに言ってんのよ!!」

 やばい維澄さんが本気の怒りモードになる。

「維澄さん?こんな冗談信じないでね?」

「え?その話し私も聞いたよ?」

 杏奈がいけしゃあしゃあという。

 案の定維澄さんの目が本気になっている……ヤバイよ!これは?

「そんな嘘を信じるわけないでしょ?」

 維澄さんの顔は辛うじて笑顔をキープしつつも目はつり上がって全く笑ってない。

「……檸檬が私の以外の身体に触れるなんてありえないから」

 何をいきなり維澄さんは言いだすの?触れる?私が維澄さんの身体に?

「わ、私……維澄さんに触れましたっけ?」

「ふ、ふ、触れてないことはないでしょ?」

「れ、檸檬!止めて、それ以上は止めて。」

 美香が急に制止に入った。

 ふう……全く維澄さんも何言い出すのやら。

 でも以前の維澄さんならこんな話をしたら過呼吸起こして救急搬送してるだろうな。

 こんな冗談を話せるようになったんだから、きっと維澄さんの精神的なトラウマは完全に解消していると見ていい。

 証拠に私が原因で過度な嫉妬を抱かないところをみると心の奥に不安感はもないのだろう。

「でもゴメンね。無理言ってバイトを二人に頼んじゃって……店長の話しは終わったの?」

「ええ、店長ったら二人がいなくなるのは冗談抜きでヤバイから頑張ってほしいって懇願されたよ」

 そう。私と維澄さんの「抜け」を補充するために美香と杏奈に無理にアルバイトのお願いをしていたのだ。

 そうでもしないと真面目にこの店潰れそうなんで、見栄えのいい二人にお願いしたという訳だ。

「まあ、さすがに檸檬と維澄さん抜けるとこの店潰れるよね?私も結構この店使うから潰れられると困るんだよね。だから仕方なく」

美香はきっと口ではそういいつつも、実際に部活で忙しい身だ。無理に引き受けてくれたことをホントに嬉しく思う。

「でも私と美香さんじゃ二人の代わりとしては役不足だよね?」

 杏奈が苦笑しながらそう言ったが、二人とも普通の女子高生の中では相当カワイイレベルだと思う。

 そう維澄さんが異常なだけだから、比較する相手が悪すぎるのだ。

「そんなことないわよ?二人とも可愛いと思うよ?」

「維澄さん?そんなフォローは嫌味にしか聞こえないからやめてね?」

 美香が”ジト眼”で維澄さんを見据えると、維澄さんは居心地悪そうに目を逸らしてしまった。どうも維澄さんは美香が苦手らしい……

「でもさ”あの映像”見せられた時は信じられなかったよ」

 美香の言う”あの映像”とは……

 少し前まで”大事件”として多くのマスメディアに報じられた”あのオーデション”で起こった事件のことだ。




 あのオーデションで、上條社長はとんでもないことをやってくれたのだ。

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