36 / 78
時が止まる
しおりを挟む
維澄さんはようやく私がモデルになるためのアドバイスをしてくれるようになってきた。
「維澄さんから見て私の容姿ってモデル的に見るとどんな評価になるんですか?」
私はそもそも、自分がモデルとしてどのレベルにいるかすら把握していいないのでまずは”そこのところ”を聞いてみた。
すると維澄さんは例によって私の身体をしばらくジ~ッと見つめてから答えてくれてた。
もちろん私はその視線で汗だくになってしまったのは言うまでもないんだけど……
「檸檬は身長が平均より高いのが強いと思う。でも普通の女子高生よりも十分痩せ気味だけどモデルやるならもう少し絞ってもいいかも。」
モデルの話しになるといつもの頼りない口調から急に説得力のある口調に変わるので未だに面喰う。
「あと姿勢がいいのが凄いプラスだね」
「え?姿勢ですか?私そんな姿勢いいですか?」
「檸檬は空手……だっけ?武道経験があるからか、姿勢がとってもいいと思う」
「そんなもんですかね?」
「あら、姿勢ってすごく大事なんだよ?肉のつき方がかわってくるんだから」
「え?肉?なんで肉の話し?」
「肉って筋肉の話し。姿勢が違うと全身の筋肉の付き方が全然違うんだから」
「へえ~」
と言ってみたものの、全くピンとこない。
「日ごろから意識しないとダメだよ?歩き方とかポージングはいくら誤魔化そうにも普段から姿勢が良くないと見る人が見れば一発でバレるから」
「そうなんだ……」
「それにもっと言うとその人の肉のつき方見れば、その人が普段から綺麗な姿勢が取れてるかどうかまで分る人だっている」
はは~ん、なるほど。
「例えば上條社長とかね」
そう返すと維澄さんは一瞬だけキョトンとしたが、なぜか微笑んで答えた。
「そう、あの人は凄いよ」
ほらね。やっぱり。今の話し全部、上條さんからの受け売りだな。
「ヘイヘイ、良く知ってますよ」
私は急に微笑んだ維澄さんに嫉妬してそんな生返事をしてしまった。
「なによ、さっきから人の話ちゃんと聞いてる?」
「聞いてますよ。上條さんのこと思い出すとそうやってすぐ嬉しそうな顔するのにムカついただけです。」
「なによそれ?」
「嫉妬にきまってるでしょ!」
そう私が言うと、また維澄さんは少し照れた顔をしたもののいつものようにソッポを向いてしまった。
あ~あ、また逃げた。
維澄さんに言わせると、まあ実際には上條さんからの受け売りなんだろうけど……人間は本能的に”一番身体にいい姿勢”をとっている人を”綺麗と感じる”らしいのだ。
つくべきところにしっかり筋肉がついていて無駄な脂肪はない。そんなプロポーション。これは食事を制限したり筋肉トレで簡単にどうにかはならないらしい。日常の姿勢が一番大事だとか。
さすがだな上條さんって人は。
でもそうか。
維澄さんは十代で上條さんに会って以来ずっと、そしてモデルを辞めた後も”その姿勢”が身体に染みついているんだ。
だから今だにこんなにも隙のないプロポーションを保っていられるんだ。
年季が違うよね。私とは。
このセンスないドラッグストアーの制服だって維澄さんが着ると凄いセンスのいいファッションに見えてしまうってのはそんなところに秘密があったんだ。
着るものとか、その人の骨格とか体形ではどうにもならない領域がきっとあるに違いないと思った。
いやもっと色々ノウハウはあるんだろうが、とりあえず今日のところの感想としては。
この後、維澄さんは実地で私の姿勢を手取り足とりまではいかないが、色々見てくれた。
私が維澄さんの指示通りの姿勢をとると維澄さんは遠慮がちに私の肩とか腰を触りながら微妙に姿勢を修正してくれたりした。
やっぱりこの辺はブランクが長いとはいえさすがだと思う。
でも急にやれと言われても素人の私が簡単に出来る訳もない。
だから思い切って維澄さんに言ってみた。
「ちょっとお手本見せてくださいよ?」
「え?私が?」
「そうですよ。まずは元スーパーモデルのIZUMIのポージングを見せてよ」
「スーパーモデルにはなってないから」
「なに謙遜してるんですか?じゃあスーパーモデルになり損ねたIZUMIでもいいですよ?」
「また、そんな意地悪な言い方して……」
維澄さんはそんなこと言いながらも、渋々簡単なポーズをとって見せてくれた。
そして……
止まった。
時が。
「れ、檸檬?どうしたの?」
私は維澄さんに、そう声を掛けられてようやく意識を取り戻すことが出来た。
なに?今の?
私はほんとに簡単なポーズをとっただけの維澄さんを見た瞬間、あまりに美しすぎて異世界に意識が飛んでいってしまったかのような錯覚を起こした。
維澄さん本人だけが美しいのではない。その周りにある全ての風景まで、そう目の前にある世界が変わってしまった。
そうか、こ、これがカリスマモデルのIZUMIか……
違う。
私も実際のモデルになんか維澄さん以外に会ったことはないが、きっと違う。
次元が違う。
なるほど、上條さん程の人が維澄さんで世界を夢見たしまった訳だ。
私は”現実世界”にようやく戻ることができたのだが、その後はあまりに意識がフワフワしてしまって全てが上の空になってしまった。
維澄さんのポーズはそれぐらいのインパクトがあった。
…… …… ……
私はその日、家に着いてから洗面所にある少し大きめの鏡の前で早速姿勢のチェックをしてみた。
あ~あ、残酷なまでに維澄さんとは大違い。
まあ、あたりまえなんだけど。
でもその鏡に映る自分の姿を見ていると、今日維澄さんが同じポーズでやってくれた姿が思いだされてまた気持が高揚する。
今、ほとんど半裸でいる自分の姿がそのまま維澄さんの半裸の姿で思いだされてしまい……ショック死するかと思った。
最近ちょっとエロすぎだなわたし……自重しよう。
その時、ガチャリと洗面所のドアが開いて弟の翔が入ってきてしまった。
「檸檬?何やってんの?」
私はいくら弟の前だとは言え半裸で妙なポーズをとってニヤニヤしている自分が恥ずかしくなり、既に維澄さんの想像で真っ赤になっていた顔をさらに赤らめてしまった。
「ノックぐらいしなよ!いやらしい!」
「え?いまさら?」
「将来のモデルなんだから、これからは気易く姉の裸を見れると思うな!」
「バッカ!今だって気楽に見ようなんて思わないから。それぐらいのデリカシーはあるから」
「だったらいきなり入ってこないでよ?」
「まあ、悪かったよ……で、本気でモデルになる気なの?」
「ええ、そうよ。今度オーディションも受けるし」
「マジで?……」
「なによ?無理だと思ってる?」
「いや、いけるんじゃないの?」
「そ、そう?……わかってるじゃない」
翔はそんな耳触りのいいセリフを吐きつつも、私の半裸にまったく関心もないかのように私の横で全裸になって浴室に入ってしまった。
まったくどうせ私なんか半裸でいたってなんの魅力なんかないわよ……
あ~あ、維澄さんに敵うわけないのは分ってるけどさ……
さすがにいろいろ落ち込むよ。
「維澄さんから見て私の容姿ってモデル的に見るとどんな評価になるんですか?」
私はそもそも、自分がモデルとしてどのレベルにいるかすら把握していいないのでまずは”そこのところ”を聞いてみた。
すると維澄さんは例によって私の身体をしばらくジ~ッと見つめてから答えてくれてた。
もちろん私はその視線で汗だくになってしまったのは言うまでもないんだけど……
「檸檬は身長が平均より高いのが強いと思う。でも普通の女子高生よりも十分痩せ気味だけどモデルやるならもう少し絞ってもいいかも。」
モデルの話しになるといつもの頼りない口調から急に説得力のある口調に変わるので未だに面喰う。
「あと姿勢がいいのが凄いプラスだね」
「え?姿勢ですか?私そんな姿勢いいですか?」
「檸檬は空手……だっけ?武道経験があるからか、姿勢がとってもいいと思う」
「そんなもんですかね?」
「あら、姿勢ってすごく大事なんだよ?肉のつき方がかわってくるんだから」
「え?肉?なんで肉の話し?」
「肉って筋肉の話し。姿勢が違うと全身の筋肉の付き方が全然違うんだから」
「へえ~」
と言ってみたものの、全くピンとこない。
「日ごろから意識しないとダメだよ?歩き方とかポージングはいくら誤魔化そうにも普段から姿勢が良くないと見る人が見れば一発でバレるから」
「そうなんだ……」
「それにもっと言うとその人の肉のつき方見れば、その人が普段から綺麗な姿勢が取れてるかどうかまで分る人だっている」
はは~ん、なるほど。
「例えば上條社長とかね」
そう返すと維澄さんは一瞬だけキョトンとしたが、なぜか微笑んで答えた。
「そう、あの人は凄いよ」
ほらね。やっぱり。今の話し全部、上條さんからの受け売りだな。
「ヘイヘイ、良く知ってますよ」
私は急に微笑んだ維澄さんに嫉妬してそんな生返事をしてしまった。
「なによ、さっきから人の話ちゃんと聞いてる?」
「聞いてますよ。上條さんのこと思い出すとそうやってすぐ嬉しそうな顔するのにムカついただけです。」
「なによそれ?」
「嫉妬にきまってるでしょ!」
そう私が言うと、また維澄さんは少し照れた顔をしたもののいつものようにソッポを向いてしまった。
あ~あ、また逃げた。
維澄さんに言わせると、まあ実際には上條さんからの受け売りなんだろうけど……人間は本能的に”一番身体にいい姿勢”をとっている人を”綺麗と感じる”らしいのだ。
つくべきところにしっかり筋肉がついていて無駄な脂肪はない。そんなプロポーション。これは食事を制限したり筋肉トレで簡単にどうにかはならないらしい。日常の姿勢が一番大事だとか。
さすがだな上條さんって人は。
でもそうか。
維澄さんは十代で上條さんに会って以来ずっと、そしてモデルを辞めた後も”その姿勢”が身体に染みついているんだ。
だから今だにこんなにも隙のないプロポーションを保っていられるんだ。
年季が違うよね。私とは。
このセンスないドラッグストアーの制服だって維澄さんが着ると凄いセンスのいいファッションに見えてしまうってのはそんなところに秘密があったんだ。
着るものとか、その人の骨格とか体形ではどうにもならない領域がきっとあるに違いないと思った。
いやもっと色々ノウハウはあるんだろうが、とりあえず今日のところの感想としては。
この後、維澄さんは実地で私の姿勢を手取り足とりまではいかないが、色々見てくれた。
私が維澄さんの指示通りの姿勢をとると維澄さんは遠慮がちに私の肩とか腰を触りながら微妙に姿勢を修正してくれたりした。
やっぱりこの辺はブランクが長いとはいえさすがだと思う。
でも急にやれと言われても素人の私が簡単に出来る訳もない。
だから思い切って維澄さんに言ってみた。
「ちょっとお手本見せてくださいよ?」
「え?私が?」
「そうですよ。まずは元スーパーモデルのIZUMIのポージングを見せてよ」
「スーパーモデルにはなってないから」
「なに謙遜してるんですか?じゃあスーパーモデルになり損ねたIZUMIでもいいですよ?」
「また、そんな意地悪な言い方して……」
維澄さんはそんなこと言いながらも、渋々簡単なポーズをとって見せてくれた。
そして……
止まった。
時が。
「れ、檸檬?どうしたの?」
私は維澄さんに、そう声を掛けられてようやく意識を取り戻すことが出来た。
なに?今の?
私はほんとに簡単なポーズをとっただけの維澄さんを見た瞬間、あまりに美しすぎて異世界に意識が飛んでいってしまったかのような錯覚を起こした。
維澄さん本人だけが美しいのではない。その周りにある全ての風景まで、そう目の前にある世界が変わってしまった。
そうか、こ、これがカリスマモデルのIZUMIか……
違う。
私も実際のモデルになんか維澄さん以外に会ったことはないが、きっと違う。
次元が違う。
なるほど、上條さん程の人が維澄さんで世界を夢見たしまった訳だ。
私は”現実世界”にようやく戻ることができたのだが、その後はあまりに意識がフワフワしてしまって全てが上の空になってしまった。
維澄さんのポーズはそれぐらいのインパクトがあった。
…… …… ……
私はその日、家に着いてから洗面所にある少し大きめの鏡の前で早速姿勢のチェックをしてみた。
あ~あ、残酷なまでに維澄さんとは大違い。
まあ、あたりまえなんだけど。
でもその鏡に映る自分の姿を見ていると、今日維澄さんが同じポーズでやってくれた姿が思いだされてまた気持が高揚する。
今、ほとんど半裸でいる自分の姿がそのまま維澄さんの半裸の姿で思いだされてしまい……ショック死するかと思った。
最近ちょっとエロすぎだなわたし……自重しよう。
その時、ガチャリと洗面所のドアが開いて弟の翔が入ってきてしまった。
「檸檬?何やってんの?」
私はいくら弟の前だとは言え半裸で妙なポーズをとってニヤニヤしている自分が恥ずかしくなり、既に維澄さんの想像で真っ赤になっていた顔をさらに赤らめてしまった。
「ノックぐらいしなよ!いやらしい!」
「え?いまさら?」
「将来のモデルなんだから、これからは気易く姉の裸を見れると思うな!」
「バッカ!今だって気楽に見ようなんて思わないから。それぐらいのデリカシーはあるから」
「だったらいきなり入ってこないでよ?」
「まあ、悪かったよ……で、本気でモデルになる気なの?」
「ええ、そうよ。今度オーディションも受けるし」
「マジで?……」
「なによ?無理だと思ってる?」
「いや、いけるんじゃないの?」
「そ、そう?……わかってるじゃない」
翔はそんな耳触りのいいセリフを吐きつつも、私の半裸にまったく関心もないかのように私の横で全裸になって浴室に入ってしまった。
まったくどうせ私なんか半裸でいたってなんの魅力なんかないわよ……
あ~あ、維澄さんに敵うわけないのは分ってるけどさ……
さすがにいろいろ落ち込むよ。
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【本編完結】アイドルの恋愛事情~アイドルカップルの日常~
奏
恋愛
同じアイドルグループ所属の陽葵と美月はファンに大人気のカップリング。
Q.公認状態だけれど、実際の関係は……?
A.恋人同士
甘えたな年上キャプテン×クールな年下後輩
基本的にバカップルがイチャイチャしているだけで鬱展開はありませんので、安心してご覧下さい。
*小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
*本編完結しました。今後は番外編を更新します
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。
一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか?
おすすめシチュエーション
・後輩に振り回される先輩
・先輩が大好きな後輩
続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。
だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。
読んでやってくれると幸いです。
「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195
※タイトル画像はAI生成です
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる