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第十三話 冗談か?真実か?
③「ねえ、あなた、みんな話して終いなさいよ」
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食事も中程になると、瑠偉は酔いが回って良い気分になって来た。啓司も燥いで彼女の太腿を突いたり撫でたりした。瑠偉は次第に羞恥心が薄れ、勝手にしゃべり始めた。頬は火照り、眼差しは輝きを増してとろんと潤んで来た。
「ねえ、あなた、みんな話して終いなさいよ。良いでしょう?・・・あたし、何もかも知りたいの」
「何をさ?」
「うん・・・そんなこと言えないわよ」
「構わないよ、何のことだ?言ってみなよ」
「あなた、女が居た?・・・大勢?・・・あたし以前に・・・」
啓司はハタと詰まった。己の女歴を秘すべきか、それとも、自慢すべきか、判断しかねて迷った。
瑠偉が再び言った。
「ねえ、お願いよ。言ってよ、沢山在って?」
「それは、数人は在ったさ」
「何人?幾人?」
「判らないよ、俺には。誰にだってそんなこと、判らないさ」
「じゃ、あなたは数えなかったのね」
「当り前だよ、そんなこと、誰も数えないよ」
「あら、そう。じゃ、沢山在ったのね?」
「まあ、それは、在ったよ」
「大体何人?・・・大体で良いから」
「無理だよ、君。大勢在った年も有れば、少ない年も有るんだから」
「年に幾人?・・・ねえ」
「十人以上の時も有れば、僅か二、三人の時もあったよ」
「まあ、そうすると五十人以上になるじゃないの?」
「大体、そう言う計算になるかな」
「まあ、いやらしい!」
「何故、いやらしいんだよ?」
「だって、いやらしいわ。考えても見てよ・・・それらの女が、皆、裸で・・・それが、何時でも同じことをするなんて・・・まあ!やっぱり、いやらしいわ、五十人以上なんて・・・」
瑠偉がそれをいやらしいと言ったことが、啓司の気に障った。彼女が馬鹿を言っているということを彼女に理解させる為に、彼は優越的態度で答えた。
「それは変だろう!五十人の女を所有するのがいやらしいのなら、一人を所有するのだって、やっぱりいやらしいよ」
「いいえ、全然違うわ」
「何故、違うんだよ?」
「だって、女ひとりだったら、それは関係だわ。男と女を結ぶ恋愛だわ。ところが、五十人となると、それは不潔だわ、不品行だわ。あの汚らしい商売女なんかに、どうして男は接触するのか、あたしには解らないわ」
「それは違うよ。彼女たちは極めて清潔なんだ」
「自分の営んでいる商売としてやって居て、それで清潔などと言うことは有り得ないわ」
「それは逆だよ。商売だからこそ、彼女たちは清潔なんだよ」
「まあ、いやだ!前の晩にその女は他の男とやって居たと考えただけでも・・・ああ、汚らわしい!」
「汚らわしくなんか無いさ。何処の誰が飲んだか判らないこのグラスで飲む方が、余程、汚らわしいよ。それにな、洗い方にしたって、このグラスの方が遥かに手を省いているよ」
「まあ、良い加減にしてよ!呆れてしまうわ・・・」
「じゃ、何故、女が何人居たかなんて聞くんだよ?」
「それじゃ、聞くけど、あなたの女は商売女なの?みんな?五十人が五十人ともみんな?」
「まさか、そんなことは無いよ」
「じゃ、何なの?」
「女優や歌手の卵あり・・・ホステスあり・・・OLあり・・・それから・・・家庭の奥さんありさ」
「人妻は何人?」
「四人か・・・」
「たったの四人?」
「そうだよ」
「みんな良かった?」
「良かったね」
「商売女より良かった?」
「否」
「一体あなたは何方が好きなの?商売女と人妻と」
「そりゃ、商売女だね」
「まあ、汚らしい!どうしてよ?」
「俺は素人の性技は好きじゃないよ」
「まあ、愕いた!あなたって呆れた人ね。ねえ、そんなにして、女から女へ渡り歩いて面白かった?」
「面白かったね」
「とっても?」
「とても」
「何が面白いのよ。どの女だって似たり寄ったりじゃないの?」
「ところが違うんだな」
「まあ、女は同じじゃないの?」
「全然違うよ」
「全然?」
「全然だとも」
「あら、可笑しい!どんなところが違うのよ?」
「全部だよ」
「肉体が?」
「肉体も、だよ」
「肉体がすっかり違うの?」
「すっかりさ」
「その他にどんなところが?」
「やり方だよ、仕方だよ。抱いたり触ったり撫でたり・・・他愛も無いことを言ったり・・・その仕方だよ、やり方だよ」
「替えるのがそんなに面白いの?」
「面白いよ」
「あのう・・・男も違うのかしら?」
「それは、俺には判らないよ」
「判らないの?」
「ああ」
「男だって違う筈だわね」
「うん、恐らく、な」
瑠偉は手にシャンパンのグラスを持ったまま、暫し、物思いに沈んだ。グラスには並々と注がれていた。瑠偉はそれを一気に飲み干した。継いで、グラスをテーブルの上に置くと、いきなり、啓司の首玉にしがみ付いて、口の中で呟くように言った。
「ねえ、あなた、大好きよ!」
啓司も瑠偉を必死の如くに抱き締めた。
その時、ドアがノックされて部屋へボーイが入ろうとしたが、彼はたじたじとなってドアを閉めた。
改めて、五分後に、ボーイが勿体ぶった様子で食後のデザートを持って現れた時、瑠偉は新たに並々と注がれたグラスを手にしていた。そして、黄色い透明な液体をしみじみと眺めながら、夢見るような声で囁いた。
「そうね、きっと、そうよ!男だって、やっぱり面白いに違いないわ!」
啓司が話を繋いで言った。
「そうだよ、男だってみんな違っていて、面白いんだよ、きっと・・・さあ、今度は君の話す番だよ」
「あたしには話すことなんか何も無いわ」
「何言っているんだよ。俺の前に交際していた男が居たじゃないか?あの真面目な男・・・」
「ああ、あの人・・・小林繁さん?」
「そうだよ、その男だよ」
「ねえ、あなた、みんな話して終いなさいよ。良いでしょう?・・・あたし、何もかも知りたいの」
「何をさ?」
「うん・・・そんなこと言えないわよ」
「構わないよ、何のことだ?言ってみなよ」
「あなた、女が居た?・・・大勢?・・・あたし以前に・・・」
啓司はハタと詰まった。己の女歴を秘すべきか、それとも、自慢すべきか、判断しかねて迷った。
瑠偉が再び言った。
「ねえ、お願いよ。言ってよ、沢山在って?」
「それは、数人は在ったさ」
「何人?幾人?」
「判らないよ、俺には。誰にだってそんなこと、判らないさ」
「じゃ、あなたは数えなかったのね」
「当り前だよ、そんなこと、誰も数えないよ」
「あら、そう。じゃ、沢山在ったのね?」
「まあ、それは、在ったよ」
「大体何人?・・・大体で良いから」
「無理だよ、君。大勢在った年も有れば、少ない年も有るんだから」
「年に幾人?・・・ねえ」
「十人以上の時も有れば、僅か二、三人の時もあったよ」
「まあ、そうすると五十人以上になるじゃないの?」
「大体、そう言う計算になるかな」
「まあ、いやらしい!」
「何故、いやらしいんだよ?」
「だって、いやらしいわ。考えても見てよ・・・それらの女が、皆、裸で・・・それが、何時でも同じことをするなんて・・・まあ!やっぱり、いやらしいわ、五十人以上なんて・・・」
瑠偉がそれをいやらしいと言ったことが、啓司の気に障った。彼女が馬鹿を言っているということを彼女に理解させる為に、彼は優越的態度で答えた。
「それは変だろう!五十人の女を所有するのがいやらしいのなら、一人を所有するのだって、やっぱりいやらしいよ」
「いいえ、全然違うわ」
「何故、違うんだよ?」
「だって、女ひとりだったら、それは関係だわ。男と女を結ぶ恋愛だわ。ところが、五十人となると、それは不潔だわ、不品行だわ。あの汚らしい商売女なんかに、どうして男は接触するのか、あたしには解らないわ」
「それは違うよ。彼女たちは極めて清潔なんだ」
「自分の営んでいる商売としてやって居て、それで清潔などと言うことは有り得ないわ」
「それは逆だよ。商売だからこそ、彼女たちは清潔なんだよ」
「まあ、いやだ!前の晩にその女は他の男とやって居たと考えただけでも・・・ああ、汚らわしい!」
「汚らわしくなんか無いさ。何処の誰が飲んだか判らないこのグラスで飲む方が、余程、汚らわしいよ。それにな、洗い方にしたって、このグラスの方が遥かに手を省いているよ」
「まあ、良い加減にしてよ!呆れてしまうわ・・・」
「じゃ、何故、女が何人居たかなんて聞くんだよ?」
「それじゃ、聞くけど、あなたの女は商売女なの?みんな?五十人が五十人ともみんな?」
「まさか、そんなことは無いよ」
「じゃ、何なの?」
「女優や歌手の卵あり・・・ホステスあり・・・OLあり・・・それから・・・家庭の奥さんありさ」
「人妻は何人?」
「四人か・・・」
「たったの四人?」
「そうだよ」
「みんな良かった?」
「良かったね」
「商売女より良かった?」
「否」
「一体あなたは何方が好きなの?商売女と人妻と」
「そりゃ、商売女だね」
「まあ、汚らしい!どうしてよ?」
「俺は素人の性技は好きじゃないよ」
「まあ、愕いた!あなたって呆れた人ね。ねえ、そんなにして、女から女へ渡り歩いて面白かった?」
「面白かったね」
「とっても?」
「とても」
「何が面白いのよ。どの女だって似たり寄ったりじゃないの?」
「ところが違うんだな」
「まあ、女は同じじゃないの?」
「全然違うよ」
「全然?」
「全然だとも」
「あら、可笑しい!どんなところが違うのよ?」
「全部だよ」
「肉体が?」
「肉体も、だよ」
「肉体がすっかり違うの?」
「すっかりさ」
「その他にどんなところが?」
「やり方だよ、仕方だよ。抱いたり触ったり撫でたり・・・他愛も無いことを言ったり・・・その仕方だよ、やり方だよ」
「替えるのがそんなに面白いの?」
「面白いよ」
「あのう・・・男も違うのかしら?」
「それは、俺には判らないよ」
「判らないの?」
「ああ」
「男だって違う筈だわね」
「うん、恐らく、な」
瑠偉は手にシャンパンのグラスを持ったまま、暫し、物思いに沈んだ。グラスには並々と注がれていた。瑠偉はそれを一気に飲み干した。継いで、グラスをテーブルの上に置くと、いきなり、啓司の首玉にしがみ付いて、口の中で呟くように言った。
「ねえ、あなた、大好きよ!」
啓司も瑠偉を必死の如くに抱き締めた。
その時、ドアがノックされて部屋へボーイが入ろうとしたが、彼はたじたじとなってドアを閉めた。
改めて、五分後に、ボーイが勿体ぶった様子で食後のデザートを持って現れた時、瑠偉は新たに並々と注がれたグラスを手にしていた。そして、黄色い透明な液体をしみじみと眺めながら、夢見るような声で囁いた。
「そうね、きっと、そうよ!男だって、やっぱり面白いに違いないわ!」
啓司が話を繋いで言った。
「そうだよ、男だってみんな違っていて、面白いんだよ、きっと・・・さあ、今度は君の話す番だよ」
「あたしには話すことなんか何も無いわ」
「何言っているんだよ。俺の前に交際していた男が居たじゃないか?あの真面目な男・・・」
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「そうだよ、その男だよ」
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