半欠けの二人連れ達

相良武有

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第五章 宮大工と二人連れ

第12話 帰着した二人は夏の京名物「鱧料理」を食した

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 翌日の帰路はフライト便を使った。
亮介が新潟空港から入れた電話口には兄嫁の真澄が出た。
「今、皆、田圃に出ているのよ」
「そうか、解かった。皆に宜しく伝えて置いて下さい」
「了解です。其処に良美さんは居るの?居たら一寸替わって欲しんだけど」
「はい、替わりました、良美ですが・・・」
「遠い所をわざわざご苦労さんじゃったわね。また機会を見て是非来てね。何かあったら電話頂戴よ。お義父さんもお義母さんも、家の人も私も、みんな力になるからね。元気でいるのよ」
「はい、有難うございます」
良美は胸が熱くなって涙を溢しそうになった。
新潟空港からJALと空港バスを乗り継いで、伊丹空港経由で京都に帰り着くのに、時間にして、三時間足らずだった。
 
 京都駅八条口の空港バス停車場に降り立った二人が最初に口にしたのは、暑い!の一言だった。
「それにしても京都はやっぱり暑いわね」
辟易するほどの高温多湿の蒸し暑さだった。
「時間も時間だし、晩飯でも食って帰ろうか?」
「そうね、良いかもね」
「何か食いたいものはあるか?」
「そうね、新潟で美味しい郷土料理をたっぷり頂いたから、今日はあなたに夏の京都でしか食べられないものをご馳走するわ」

 二人が入った割烹と現代料理の店「ふじ半」で、直ぐに運ばれて来たのは京都の夏の逸品である鱧料理だった。
鱧は京料理には欠かせない高級の白身魚で、捌くには知識と経験が必要とされ、将に、職人技の領域と言えるものである。
「鱧は意外と脂質が多いので濃厚な味わいがあるんです。雌雄で言えば雌の方が美味いと言われています。雄は脂質が少ないのであっさりしているんですね。どうです?体の表面が輝いて透明感があるでしょう、これが旨いんですよ」
 そう言って、店主の修二が最初に、二人に提供したのは、鱧の「刺身の薄造り」だった。
京都生まれの良美が言った。
「へえ~、鱧のお刺身なんて珍しいですね。普通は“湯引き”とか“落とし”で食べることが多いですものね」
「そうですね。ただ、今日の鱧は大きかったので、小骨を避けて身を削ぎ取ったんです。棒状になる為、かなり薄くはなりましたが・・・」
店主の修二が速妙に答えた。
 次に出て来たのは「はもちり」だった。それは、鱧を一度霜降りして水分を切ってから、梅肉で食べる料理だった。
「霜降りと言うのは、魚を熱湯に浸けた後、流水で血液や汚れを洗い流すことを言うの。所謂“湯引き”や“落とし”の工程なのね」
良美が薀蓄を披露して説明した。
 それから、鱧の「煮つけ」と「天ぷら」が提供された。
「この煮つけも多くのお客さんに喜ばれる料理です。骨切りした鱧に塩を少し振りかけて十分ほど置いておき、表面の水気を拭き取ります。鍋に水を沸かして、出汁醤油と砂糖と薄切りにした生姜と鱧を加えて煮つけます。味が浸み込んだら完成です」
店主が簡単に作り方を説明した。
「天ぷら」は、骨切りした鱧に軽く塩を振りかけて暫く放置し、水溶きした天ぷら粉を付けて油で揚げたものだった。抹茶塩と山椒の二つが付いて居た。
「何方でもお好きな方をつけてお召し上がり下さい」
亮介は両方の調味料を試してみたが、両方ともに将に絶品の美味だった。
二人は京都ならではの鱧尽くし料理を堪能した。
「どう?美味しい?」
「うん、最高に旨いね」
二人は顔を見合わせて笑い合った。
「今回の旅行は、二人にとって、将に記念すべき旅だったな。遠い処まで一緒に来てくれて有難うな」
「うう~ん、私の方こそ・・・」
亮介の思いが良美にも伝わって、彼女は言葉に詰まった。 
「有難う・・・」
最後にお茶漬けを啜って二人の晩餐は終わった。二人は居心地の良い快適な空間で食事も酒もじっくり味わって、至福のひと時を過ごした
 「ふじ半」の店を出た後、歩きながら亮介が無造作に言った。
「一緒に住むのは結婚式を挙げてからにしような」
「えっ?」
「俺は同棲などと言うケジメの無いことは嫌やなんだ、なんか犬畜生みたいで・・・だから」
「うん、解かった」
良美が亮介に腕を絡ませたが、それはもう二人にとってごく自然な仕草だった。
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