半欠けの二人連れ

相良武有

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第二章 運命の賜物

第5話 その翌日、二人は琵琶湖までドライブした

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 翌日、小高は好美が二カ月間借りているマンスリー・マンションへ彼女を迎えに行って滋賀県の琵琶湖までドライブした。
彼は先ず鴨川を渡って東山方面へ車を走らせ、古都京都のシンボルである清水寺で琵琶湖ドライブの安全を祈願した。朝が幾分早かった所為か、観光客は少なめだった。音羽山の断崖に立つ本堂からは京都の全景が見渡せた。
「うわ~っ、将に絶景のビューだわね」
早速に好美が感嘆の声を挙げた。
北白川から山越えで三十分ほど走ると比叡山ドライブウエイの「田の谷峠ゲート」が見えて来た。比叡山の自然と京都や大津、琵琶湖の絶景を楽しめる観光道路へのインである。
ドライブウエイの沿道には木々が立ち並び、まるで人間が自然の中へ溶け込んで行く回廊のようだった。
ゲートインから五分足らずで「夢見が丘」に着いた二人は車を降りて雄大な琵琶湖の眺望と新鮮な空気を満喫した。サイクルモノレールやエキサイティングなスーパースライダーなどの遊具が有って、多くの家族連れで賑わっていた。
好美が頬を綻ばせて言った。
「これは子供達には絶好の遊び場ね」
「あのスーパースライダーは高低差三十五米の斜面に造られているんだって」
バーベキューコーナーでは早くも昼食の準備をする家族も何組か見受けられた。
 「夢見が丘」から五分足らずで「比叡山延暦寺」に着いた。
歴史と文化の香に満ちた清澄な空間が広がる中で、二人は自然溢れる山々と荘厳な雰囲気に圧倒され、日本の仏教文化のルーツを実感した。
延暦寺は天台宗の総本山で、東塔と西塔それに横川の三地域から成り、京都と滋賀の県境に跨る比叡山全体がその寺域であった。西塔の本堂である転法輪堂に参拝しながら小高が言った。
「この釈迦堂は延暦寺に現存する建築の中で最も古いものらしいよ」
「そうかも、ね。相当の古相だもんね」
有名な“横川の紅葉”には未だ少し早かったが、毎年、十一月の中旬から下旬に「比叡のもみじ」と言う行事が行われるとのことだった。
 ぶらぶらと銀杏の下を散策した先に、十年かけての大改修工事が行われている国宝の根本中道と重要文化財の廻廊が見えて来た。近づいて見上げると、本堂の銅板葺きと廻廊のとち葺きを葺き直し、全体に塗装彩色を施すのが主な修理内容のようであった。
「これだけの工事をしながらでも参拝が出来るなんて凄いわね」
「次の世代へ文化財と共に祈りと伝統が継承されるように、という強い思いの表れだろうね、きっと」
「見て、見て!何?今のあの作業?あんな作業、普段滅多に見られるものじゃ無いわよね」
「将に国宝や重要文化財の改修ならではの作業なのだろうね」
延暦寺には毎年「比叡山から発信する言葉」と言うものが有り、今年のそれは「憶和敬」~和して敬うを憶う~だった。世の全てが掛け替えの無い存在だと憶い至る時、尊敬の念で心が充たされる、という意味だと修行僧に教わった。
「自分の心を穏やかに慎み深く保って、相手を敬いなさい、と言うことなのね」
「こんな今の世の中だからこそ、いつも心に留めておきたい言葉だね」
比叡山の頂上には陶板に再現された絵画と季節の花が咲き誇る 「ガーデンミュージアム比叡」が在った。車から降り立ったその瞬間に二人の心は解きほぐされた。
 
 比叡山から一時間ちょっと走ると、焼き物で有名な信楽の山中に美術館が見えて来た。
美しい並木道を走り、弧を描くトンネルを進むと、谷に架かる橋の向こう側に入母屋型の屋根をしたエントランスが姿を現した。
落ち着いた佇まいの入口に一歩足を踏み入れると、ガラスの屋根から降り注ぐ光と優しいベージュ色のライムストーンの壁面に包み込まれ、彼方まで穏やかな山々が連なる大空間が拡がっていた。屋根全体の構造体であるスペースフレームは最もシンプルな形の三角形を幾何学的に組み合わせて構成され、其処から生まれる大空間は将に構造美の極みだった。
丁度、秋の特別展として「ニューヨーカーが魅せられた美の世界 ジョン・C・ウェバー・コレクション」が開かれていた。それは、トライアスロンの世界チャンピオンが集めた日本美術の名品の数々だった。
「うわ~っ、此処でこんな物に出逢えるなんて、最高の幸せだわ」
好美が又も感嘆の声を挙げた。
 東西文明の作品を楽しみながら展示室を出ると、其処には大自然とスカイライトが溢れていて、二人は自然の中に佇んでいるような感覚を覚えた。
小高が絵描きらしい感想を口にした。
「自然の中に同化した逢物の姿を意識的にデザインした結果、こう言う内観的な空間になったんだろうね、きっと」
此処は、ルーブル美術館のメイン・エントランス前に在るガラスのピラミッドで知られる中国系アメリカ人建築家I,M,ペイの設計によるものだった。
「ペイの建築はワシントン・ナショナルギャラリー東館や香港の中国銀行など彫刻的でシンボリックなものが多いんだけど、此処は環境を保護する為か、全体の八割は地中に埋設されていて、山に溶け込んでその全容を見せることは無いんだよ」
「へえ~、そうなの。画家さんだけあって、建築についても流石に良く知っているのね」
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