愛の讃歌

相良武有

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第七話 命の恩人はストリッパー?

⑤「ただで泊めて貰うんだもの、お返しをしなきゃ、ね」

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 健二のマンションは京都の西郊に拡がる新興住宅地に在った。四階建ての小さなマンションだが建って未だ日が浅く、バス停が近くて通勤には便利だった。そのマンションに健二はこれまで一度も女性を伴って帰ったことは無いし、女が訪ねて来たことも無かった。
タクシー代は揚羽蝶が払った。彼女はハンドバッグにしては大ぶりの箱型のバッグを持っていて、その中から財布を取り出して支払った。
 部屋はマンションの二階で、洋風のリビングにダイニング・キッチンが隣接し、バスとトイレが付いて居た。健二は直ぐにエアコンのスイッチを入れた。
「良い部屋じゃないの」
彼女は物珍しそうに室内を見回していたが、やがて、エナメルのシャツを脱ぐと隅のベッドの上に腰掛けた。ブラジャーからはみ出しそうなバストが揺れた。
「灰皿、有るかしら?」
健二が灰皿を脇のテーブルに置くと、直ぐに、彼女はタバコに火を点けて一息大きく吐き出した。
「まあ、少し落ち着きなさいよ」
主客転倒の按配である。
「あんた、なかなか物持ちね。コンポは在るしパソコンも在る。テレビも在るし洗濯機や乾燥機も或る。車も持って居るんじゃないの?」
「車は無いよ。東京や京都のような大都会では車は必要無いからね。電車やバスなどの交通網は整備されているし、よほど車が必要な時には何時でもタクシーが拾えるし、電話一本で直ぐに来てくれる。だからマイカーは持っていない」
 健二は気持が落ち着かなかった。出来るだけ間隔を置いて座ったのだが、それでも彼女は眼の前に居る。然も、眩い蛍光灯の下である。彼女の胸の隆起が目について彼は視線のやり場に困惑した。
ストリッパーだけあって流石に素晴らしい肢体だった。膨らむべきところは惜しみ無く膨らみ、締まるべきところはキュッと締まっている均整の取れた体形だった。顔立ちも彫りの深いメークアップの効く貌だった。
「どう?良い女でしょう?」
彼女はそう言って胸を反らせた。
「ねえ、お酒無いの?」
「有るよ」
健二はほっとして酒とグラスを取りにキッチンへ行った。
「ウイスキーでなくて悪いけど、これで我慢してくれよ」
彼は焼酎のボトルとグラスを差し出した。
「なんだ、こんなもん、飲んで居るの?」
「こんなもん、ってことは無いだろう」
彼は少しムッとした。
「俺にはこれが一番良いんだよ。強いし後に残らないし、それに安いし、な」
「コーラか何かで割って飲むんでしょう?ホワイト・リカーなんて気取っちゃってさ。それも甲類のね」
「何を呑もうと俺の勝手だよ」
「あたしも焼酎は好きよ。けど、甲類は飲まないわ。あんた、未だ酒の味を知らないわね」
彼女は二つのグラスに六分目ほど焼酎を注いだ。
「良いこと教えて上げる。おなじ焼酎を呑むんなら乙類が良いわよ。ホワイト・リカーなんて言うけど、これはアルコールそのものよ。乙類なられっきとしたお酒だわ。コクは在るし丸味は在るし、難しいことは分らないけど、昔ながらのやり方で造っている地酒よ。九州の物が美味しいわね。お湯で割って柚子を浮かして飲むのよ、下手な日本酒よりも余程良い味だわ」
健二は焼酎に甲乙の二種類が在ることを知らなかったので、つい話に引き込まれた。
「君は九州出身なのか?」
「さあね。旅から旅の渡り鳥には故郷なんて無いわよ」
旅回りの彼女が九州の焼酎について詳しいのは別に不思議なことではなかった。
「あんた、健二さんって言ったわよね。何処の出身なのよ?」
「俺は米子の出身だけど・・・此方の名前を知っているのは良いけど、君は何と言う名前だよ?」
「あたしの名前は、きんきらきんの揚羽蝶よ」
「然し、それは本名じゃないだろう?」
「ストリッパーには、芸名さえ有ればそれで良いのよ」
「然し、あんな凄いショーをやっていて、気がおかしくなることは無いのか?」
「女は女性の裸を見ても欲情することは無いから、それは無いわ。でも、見せたくも無いものを奥の奥まで覗かせて、それでお金を稼いでいるんだもんねぇ・・・どう?もう一度、差しでじっくり見せて上げようか?」
健二は狼狽えた。
「ただで泊めて貰うんだもの、それ位のお返しをしなきゃ、ね」
「ふざけるなよ」
「ふざけてなんかいないわよ。大真面目よ、あたしは。でも、お酒はあんまり呑まない方が良いよ、呑み過ぎると肝心の時に泣きを見るからね」
そう言って立ち上がるとブラジャーを外し、ロングスカートとパンティを一緒に脱ぎ下した。健二は眼前に立ちはだかる揚羽蝶の舞う全裸に眼を射られて、やにわに彼女をベッドに押し倒した。
「もう、そんなに慌てちゃって・・・」
彼女はそう言いながら、健二のズボンとパンツを引き摺り下ろし、シャツを毟り取った。そして、健二の頭を両腕で抱きかかえながら、彼の腰を大きく開いた両脚で強く挟んだ。
彼女はこの上なく激しく健二を求め、また、この上ない優しさを彼に示した。二人は幾度か温かい波間を漂い、浮きつ沈みつしながら次第に高みへと登って行き、怒涛の潮の如き満ちたり退いたりを繰り返しつつ、最後は極まって一緒に果てた。暫くの間、二人は躰を重ねたまま身動き出来なかった。
 やがて、躰の奮まりが薄れ、放心から冷めた彼女が気だるげに言った。
「シャワーを使わせて貰っても良いかしら?」
「ああ、良いよ」
「どう?一緒に浴びる?」
「いや、止めておくよ。ダブルになったらヤバいからな」
「そう?あたしなら構わないけど・・・何ならトリプルでも良いわよ」
「はっはっはっは・・・」
健二は笑い出した。
「いいよ。先に使ってくれよ」
「じゃあ、お先にね」
「ああ。バスタオルは棚に畳んである黄色い方を使えば良いから・・・」
「うん、有難う」
彼女はベッドから降りると、素っ裸のまま白い尻を左右に振りつつ浴室へ消えて行った。
 暫くして、浴室から戻った彼女はするりとバスタオルを落として、箱型バッグから取り出したショーツに脚を通した。透け透けのパンティの中に黒く光る濃い恥毛が透いて見えた。
「へえ~、下着をいつも持ち歩いているんだ?」
彼女は秘所を指しながら答えた。
「そうよ、此処はお金を稼ぐ武器だからね。常に綺麗に清潔にしておかなきゃいけないの」
「ストリッパーの誇り、って訳か」
「そんな大げさなもんじゃないけど、でも、あたしは、裸は売っても性は売らないからね」
「なるほど・・・」
「さあ、あんたも早くシャワーを浴びて来たら?」
 健二が浴室から戻ると、彼女はベッドの上に仰向いて、放心したように天井を見上げていた。彼が貸し与えた大きなTシャツが彼女の上半身を隠していたが、太腿から下の長い脚は蛍光灯に照らされて白く光っていた。
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