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第六話、さそり座の彼女、故郷へ帰って高校の先生になる
②イブの夜、二人は抱き合った
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十二月の中頃だった。健一が麗奈に訊ねた。
「今年のクリスマスの予定はもう決まっているのかい?」
「特には未だ決まっていないけど、学生時代の親しい仲間たちと久し振りに逢えたら良いなぁ、って思っているわ」
「それなら、僕と一緒にクリスマスを過ごさないか?京都には素晴らしいクリスマススポットが幾つも在るからね」
イブの晩に健一が麗奈を伴ったのは京都駅ビルのクリスマス・イルミネーションだった。駅前広場からが既にときめきのイルミネーション・スクエアだった。光と音の演出で広場をクリスマスムード一色に染めていた。東広場のカーニバル・ガーデンは樹々に装飾が施されたシンプルでエレガントなイルミネーションだったし、室町小路広場には高さ二十二メートルの巨大なツリーが立っていた。心に響く音楽と演出のスローガンは「感謝」と「未来」を表現したものだと言うことだった。中央コンコースの地上四五メートルに架かっている空中経路には流れ星型のイルミネーションが三十基以上も並んでいて、二人は京都市内北側の街並を一望し乍らスカイウォークを楽しんだ。
「凄いわね、素晴らしい眺めだわ!」
「此処は京都のクリスマス・イルミネーションでランキング一位に選ばれている最高のスポットなんだよ」
それから健一はイブの夜に相応しいディナーに麗奈を誘った。
それは駅ビルホテルの最上階、夜空が煌めく十五階のスタイリッシュなビュー・ダイニングで、豪華食材が特別な表情を見せている京キュイジーヌ・ディナーだった。
クリスマス・リースに見立てたオマール海老の前菜に始まり、濃厚な焼雲丹と一緒に味わう黒鮑や京料理に欠かせない甘鯛が続いた。メインディッシュは、パイ生地の中に黒毛和牛フィレとフォアグラを閉じ込め、トリュフが香るソースをあしらったシェフ渾身の一皿だった。雪化粧したもみの木をモチーフにしたデセールまで、聖夜に相応しい至福の時間を二人は存分に楽しんだ。
その間、ディナーが後半にさしかかった辺りからライブ演奏がスタートし、珠玉のクリスマスソングが二人の気分をロマンチックに盛り上げた。今夜の出演は、西日本を中心に活動する実力派アカペラグループの「ビー・イン・ヴォイセス」だった。その高い音楽性と洗練されたハーモニーに麗奈は温かみと親しみを感じた。
健一が演出したクリスマス・イブの最後の締め括りは、大人の為の隠れ家風カクテルバーだった。都会の喧騒を忘れ、バーテンダー熟練の技によって生み出されたカクテルが二人を至福の時へと誘った。健一は柿のミモザを、麗奈は苺のシャンパンカクテルをそれぞれ注文し、フードはビーフジャーキーとミックスナッツを分け合って摘まんだ。
これまでに無いイブの夜を心行くまで十分に満喫した二人は、タクシーに同乗して京都駅ビルを後にした。
川端四条のマンション前でタクシーを降りた麗奈が健一に言った。
「モンクのCDが手に入ったの。どう?ちょっと寄って聴いて行かない?」
セロニアス・モンクと言うのは、パーカー、ガレスビー、ローチなどと並んで今でも愛されている健一の好きなジャズ・ミュージシャンだった。
「えっ、良いのか?」
「うん」
麗奈の部屋に上がった二人は横長のソファーに並んで腰かけて、モンクのCDに耳を傾けた。暫くして、麗奈が首を傾げて健一の肩に頭を乗せた。
短い沈黙があった。
健一が麗奈を見詰め、その肩に手を回した。麗奈は照れ臭そうに微笑ったが、直ぐに真顔になって顎を上げた。眼が訴え、唇が赤く膨らんでいた。健一は軽く唇に触れ、それから強く抱き締めた。麗奈は眼を閉じて健一に身体を預け、二人は縺れるように崩れて重なり合った。麗奈は見えない処も小麦色だった。二人は身体を起こし、麗奈が誘って隣の寝室へ移った。CDはモンクのジャズをムーディーに奏でていた。
一度抱き合ってしまうとそれがデートの習慣になる。逢う度に抱き合う訳ではなかったが、それは以心伝心、コーヒーを飲んで居ても一緒に街を歩いていても、お互いが求め合う時は、その態度や素振り、顔の表情や眼の色で判った。麗奈は性の仕草も情熱的で、果敢に自ら登り詰めて行った。
「今年のクリスマスの予定はもう決まっているのかい?」
「特には未だ決まっていないけど、学生時代の親しい仲間たちと久し振りに逢えたら良いなぁ、って思っているわ」
「それなら、僕と一緒にクリスマスを過ごさないか?京都には素晴らしいクリスマススポットが幾つも在るからね」
イブの晩に健一が麗奈を伴ったのは京都駅ビルのクリスマス・イルミネーションだった。駅前広場からが既にときめきのイルミネーション・スクエアだった。光と音の演出で広場をクリスマスムード一色に染めていた。東広場のカーニバル・ガーデンは樹々に装飾が施されたシンプルでエレガントなイルミネーションだったし、室町小路広場には高さ二十二メートルの巨大なツリーが立っていた。心に響く音楽と演出のスローガンは「感謝」と「未来」を表現したものだと言うことだった。中央コンコースの地上四五メートルに架かっている空中経路には流れ星型のイルミネーションが三十基以上も並んでいて、二人は京都市内北側の街並を一望し乍らスカイウォークを楽しんだ。
「凄いわね、素晴らしい眺めだわ!」
「此処は京都のクリスマス・イルミネーションでランキング一位に選ばれている最高のスポットなんだよ」
それから健一はイブの夜に相応しいディナーに麗奈を誘った。
それは駅ビルホテルの最上階、夜空が煌めく十五階のスタイリッシュなビュー・ダイニングで、豪華食材が特別な表情を見せている京キュイジーヌ・ディナーだった。
クリスマス・リースに見立てたオマール海老の前菜に始まり、濃厚な焼雲丹と一緒に味わう黒鮑や京料理に欠かせない甘鯛が続いた。メインディッシュは、パイ生地の中に黒毛和牛フィレとフォアグラを閉じ込め、トリュフが香るソースをあしらったシェフ渾身の一皿だった。雪化粧したもみの木をモチーフにしたデセールまで、聖夜に相応しい至福の時間を二人は存分に楽しんだ。
その間、ディナーが後半にさしかかった辺りからライブ演奏がスタートし、珠玉のクリスマスソングが二人の気分をロマンチックに盛り上げた。今夜の出演は、西日本を中心に活動する実力派アカペラグループの「ビー・イン・ヴォイセス」だった。その高い音楽性と洗練されたハーモニーに麗奈は温かみと親しみを感じた。
健一が演出したクリスマス・イブの最後の締め括りは、大人の為の隠れ家風カクテルバーだった。都会の喧騒を忘れ、バーテンダー熟練の技によって生み出されたカクテルが二人を至福の時へと誘った。健一は柿のミモザを、麗奈は苺のシャンパンカクテルをそれぞれ注文し、フードはビーフジャーキーとミックスナッツを分け合って摘まんだ。
これまでに無いイブの夜を心行くまで十分に満喫した二人は、タクシーに同乗して京都駅ビルを後にした。
川端四条のマンション前でタクシーを降りた麗奈が健一に言った。
「モンクのCDが手に入ったの。どう?ちょっと寄って聴いて行かない?」
セロニアス・モンクと言うのは、パーカー、ガレスビー、ローチなどと並んで今でも愛されている健一の好きなジャズ・ミュージシャンだった。
「えっ、良いのか?」
「うん」
麗奈の部屋に上がった二人は横長のソファーに並んで腰かけて、モンクのCDに耳を傾けた。暫くして、麗奈が首を傾げて健一の肩に頭を乗せた。
短い沈黙があった。
健一が麗奈を見詰め、その肩に手を回した。麗奈は照れ臭そうに微笑ったが、直ぐに真顔になって顎を上げた。眼が訴え、唇が赤く膨らんでいた。健一は軽く唇に触れ、それから強く抱き締めた。麗奈は眼を閉じて健一に身体を預け、二人は縺れるように崩れて重なり合った。麗奈は見えない処も小麦色だった。二人は身体を起こし、麗奈が誘って隣の寝室へ移った。CDはモンクのジャズをムーディーに奏でていた。
一度抱き合ってしまうとそれがデートの習慣になる。逢う度に抱き合う訳ではなかったが、それは以心伝心、コーヒーを飲んで居ても一緒に街を歩いていても、お互いが求め合う時は、その態度や素振り、顔の表情や眼の色で判った。麗奈は性の仕草も情熱的で、果敢に自ら登り詰めて行った。
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