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1話 発覚の刻
しおりを挟むこの世はなんて理不尽なんだ。
あゝ、あいつがどうしようもなく憎い。あいつの全てを壊したい。
「おーい! ヴァレント様ーー!」
ダンジョンの視察を終え帰路に就いていると、遠くから聞き慣れた声がおれの耳に届いた。手を振りながら小走りでこちらへとやってきたのは黒魔導士のアジュダだった。
「おおアジュダ。おまえも今帰りか?」
「はいな! 今日はずっと討伐会議で疲れたー。今から同僚達とご飯行くけどヴァレント様も来る?」
「残念ながらおれには愛する妻が待ってるんでな。それよりいい加減、様と呼ぶのをやめてくれ」
「えーだって国を救った勇者様だよ? 呼び捨てなんかしたら不敬罪で切られちゃう」
いたずらっ子のように舌をぺろりと出しながらアジュダは笑う。それに釣られおれも笑い返した。やはり苦楽を共にした仲間というのはいつになっても気兼ねなく笑い合える。
「今日の視察は愛する奥様は一緒じゃなかったの?」
「ああ。今日は城に呼ばれたようで朝から出掛けてたぞ。城で見なかったか?」
ほんの一瞬、アジュダが目を反らした。瞳がわずかに下を向いたが、すぐにおれと視線が合った。
「今日は本当にずっと会議で缶詰めだったの。麗しのレベリオちゃんには会えなかったなぁ。今度ご飯に行きましょって伝えておいてよ」
「わかった。その時はもちろんおれも一緒に行っていいんだよな?」
「えー、折角だけどご遠慮ください」
「お、おいっ! 昔みたいにたまにはいいじゃないか。元勇者パーティーの仲間だろ?」
「女同士、積もる話もいろいろあるのよ~。じゃそういうことで。レベリオによろしく~」
会った時と同じようにアジュダは手を振りながら去って行った。やれやれと小さく言葉を吐き出しながら、おれは彼女の背中を見送った
家に帰るとすでに食卓にはディナーの準備がされていた。おれが席につくと給仕がおれのグラスにワインを注いだ。
「レベリオはまだ帰ってないのか?」
ワインを一口飲んだ後、おれがそう尋ねると若い給仕が答えた。
「先程お戻りになりました。間もなくいらっしゃるかと」
その時食堂の扉が静かに開き、レベリオがにっこりと微笑みながらおれの方に歩いてきた。そして少し身をかがめるとおれの頬に軽く口づけをした。
「遅くなってごめんね。先に食べててよかったのに」
「おれもついさっき席についたとこだよ。さあ、食べよう」
テーブルの向かい側にレベリオが座ると料理が運ばれてきた。前菜を食べながらおれは彼女に話しかけた。
「今日城にはなんで呼ばれたんだ?」
彼女は前菜を一口食べるとフォークを置いた。
「聖具の点検でした。今度のダンジョンはアンデッド系の魔物が多いのでしょう? 本当に私が行かなくても大丈夫?」
「まあ大丈夫だろう。階層もそれほど深くないし、魔物の数もそんなに多くはなさそうだ。聖女様自らエンチャントしてくれた聖具もあるしな」
おれがそう言って笑いかけると彼女も軽く笑い返した。腹をすかせていたおれは運ばれて来る料理を次々に平らげた。一方レベリオは前菜以降なにも食べようとはしなかった。
「食欲ないのか?」
「ええ、実は今日、城でアジュダにばったり会ってさっきまで軽く食事をしながらお喋りしてたの。だからあまりお腹が減ってなくて……」
アジュダという言葉におれは思わず手を止めた。取り繕うような笑顔で固まったままのレベリオにおれは笑いかけながら話した。
「女同士、積もる話もあったんじゃないか?」
「……ええそう! ついつい話し込んじゃって遅くなってしまったの。今度はあなたも誘って欲しいって彼女言ってたわ」
「それは楽しみだ!」
おれは最後に残った肉の一切れを口へと放り込んだ。
しばらく子作りはしないという約束をしていたが、その夜は珍しく彼女の方から求められた。
「いいのか? 国が落ち着くまでは妊娠は避けようと言ってたじゃないか」
「新しい聖女候補が見つかったらしいの。だから気にしなくていいのよ。来て、ヴァレント」
彼女はおれの頭を両手で抱きかかえ、そしてその豊かな胸で包み込んだ。激しい吐息がおれの耳元まで届いた。
「ああ! ヴァレント! 愛してるわ!」
絶頂を迎えた彼女が一瞬背中を反らしたかと思うと、そのまま気を失うかのように脱力した。二人の乱れた呼吸だけが部屋に響いている。
「おれも愛してるよ、レベリオ……」
彼女の胸に顔をうずめながら、おれはぽつりと呟くようにそう言った。彼女は一度だけおれの頭を撫でるとそのまま深い眠りについた。
翌日、おれは地下街にある古びた屋敷を訪ねた。重厚な鉄の扉の前に立つと、おれの手が伸びる前にその扉はひとりでに開いた。屋敷の奥まで進むと薄暗い部屋の中でこちらに背を向けて座っている男がいた。
「こんな所に勇者様がくるなんて、明日はドラゴンでも降ってくるのか?」
黒い眼帯をはめた男がくるりと振り向きながらにやっと笑った。流石は元勇者パーティーの斥候。気配だけでおれだとわかったようだ。
「久し振りだなアンクバート。今日はおまえに頼みたい事があってきた」
「ほう。そりゃ国の依頼かい? それとも個人的に?」
「おれ個人からの依頼だ。とある人物の動向を探ってほしい」
「いいぜ。あんたには恩がある。誰を探ればいいんだ?」
おれは彼の目の前の椅子に腰を下ろすと、ゆっくりと深く息をはいた。
「我が妻、聖女レベリオだ」
その名前を聞いたアンクバートの片方の眉がピクリと動いた。
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