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【第二章】セレイム王国へ

今夜の宿は…

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「マールズさん、ケイリー。ご馳走様。美味しかったです」
「ご馳走さまでした」
「店主、なかなか美味かったぞ」
 料理を食べ終えたカインたち三人は個々に、マールズとケイリーに感想を伝えていく。
「喜んでもらえて何よりだよ!また来てくれな!」
「お待ちしております!」
「はい、また食べに来ます」
 そうしてレイたちはマールズたちに挨拶をし、ペガサス亭を後にした。

「あ、団長さん、さっきのご飯代。私たちの分返すわ」
 ペガサス亭を出てすぐ、レイはカインに食事代を払うと切り出した。
「助けたてもらった礼をしたいと言っただろう」
「でも、やっぱり悪いわよ」
 食事代を出すことを食い下がるレイ。
「……だったら、食事代の代わりに。今度この街で祭りが行われるんだ、それに一緒に行かないか?」
 カインは、レイに二人で出かけることを提案した。所謂、デートというやつだ。
 レオンは、静かにその行く末を見守っている。
「お祭り?」
「ああ。花まつりという祭りなんだが。セレイム王国の領地で育った花たちを集めて、家族や友人、恋人に送る伝統ある祭りだ。出店も少し出る。色とりどりの花に囲まれた街はとても綺麗なんだ。レイ殿が良かったら、一緒に参加してほしい」
「それは、ぜひ見てみたいわね」
 森で育ったレイは、植物には目がない。そんな彼女はカインの提案に素直に乗った。
「良かった。詳しいことは、また改めて伝える」
「ええ」
 二人は花まつりに行くことになった。

 木組みの家やレンガ調の家が連なる街中をカインに続きながらしばらく歩いていると、ある家に着いた。
「ここが私の実家だ」
「立派な家ね」
 そう、着いたのはカインの実家だった。
 外観は、アーチ型の門が建てられ、その門の奥には両脇に花が植えられた石畳の道と庭が見え、その道の先には邸宅が伺える。
「どうぞ」
「お邪魔します」
「失礼する」
 カインが門を開け、レイたちは彼に続いて門をくぐった。

 玄関の扉を開けたカイン。
 すると、
「カイン!あぁ、無事だったのね……」
 扉を開けると同時に、中から一人の女性が現れカインに飛びついた。
 彼女は、カインに抱き着いたまま、大粒の涙を流す。
「母さん。心配をかけた、俺は無事だ」
「ちゃんと、生きているのよね?夢じゃない?」
 カインが母さんと呼ぶその人は、セシル・アルバート。
 小柄な女性で、ミルクティー色の髪に、オニキスの瞳が特徴的だ。

「ああ。俺は生きている。この方が助けてくれたんだ」
 カインは、レイをセシルの前に立たせた。
「貴女が……。私の息子を助けてくれて、ありがとう」
 彼女は、レイの両手を握り涙を溜め、感謝を伝える。
「いえ。(この人は、自分の子どもをとても大切に想っている母親なのね)」
「カインが、戦いの最中に墜落したって聞かされてから、今の今まで、生きた心地がしなかったのよ」
 ケイリーは、まだ少し混乱している様子。

「これ、セシル。すまないお客人。立ち話もなんだ、中にお入り」
 と彼女の後ろから、カインに似た男性が現れた。
「そうね、中に入って頂戴!」
 セシルは泣いていたかと思えば、今度は可愛らしい笑顔を見せた。
 彼女はよく表情が変わる人のようだ。
「…父さん。ただいま戻りました」
「ああ。カイン、よく戻ってきてくれた」
 とても穏やかに笑う彼は、ルーカス・アルバート。
 カインの父だ。
 端正な顔立ちに、ブルーアッシュの髪、ラピスラズリのように鮮やかな蒼い瞳は光に照らされれば、まるで小宇宙だ。
 カインの髪色は、父親譲り、瞳は母親譲りのようだ。

「レイ殿、レオン殿。中にどうぞ」
 カインが家の中へ入るよう促した。
「お邪魔します」
「失礼する」
 そうしてレイとレオンは、アルバート邸に入っていった。
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