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【第二章】セレイム王国へ

夕飯

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「レイ殿たちは、いつも何を食べるんだ?」
「そうね。フェンが狩ってきた魔獣を料理することが多いわ。豪勢なものは作れないけど、今日みたいにシチューにしたり、焼いてソースで食べたりって感じかしら」
「レイの作る料理は絶品だ」
 竜の間を出た三人は、王城の門へ向かうため長い廊下を歩きながら、夕飯について会話をしていた。
 レオンは彼女の作る料理をべた誉めする。
「私も、もっとレイ殿の料理が食べてみたいな」
 カインは、レイの顔を見ながら笑顔でいう。その笑顔はまるで、夜に浮かぶ太陽だ。
「暗闇の森に来れたら作ってあげてもいいけど」
 レイは、顔を少し赤らめて答える。彼女は何処までも不器用だ。レオンは、そんな彼女を優しい瞳で見つめている。

「……それより、レオン。貴方がフェンリル族の王だって知らなかったわ。それに国王と知り合いってことも。いつからの知り合いなの?」
 話題を変えたレイ。
「ああ。私が王だったことについては、レイと会った時には王座は譲っていたからな。特にいう必要もないと思って、言わなかった。……セルビスとは、お前に会う二十年ほど前からだったか。私がフェンリル族の王として、フェンリル国を統治していた時にセルビスとは出会ったのだ」

【フェンリル国】セレイム王国から南東へ海を渡ると、そこに、ある一定の時期以外は雪が降り注ぐ山が広がる。その山こそがフェンリル国であり、フェンリル族が暮らしている。

「私が生まれるずっと前から知り合いだったのね」
「セレイム王国は、フェンリル国と昔から親交があると一度聞いたことがあります」
「ああ。私は長く王座に就いておったから、これまでのセレイムの王とも知り合いだ。その中でもセルビスとは、とても馬が合ってな。よくフェンリル国に足を運んでくれたわ」
「そうだったのね。長い歴史があるのね」
「レイ殿、王都にある図書館に行けば、セレイム王国とフェンリル国の歴史を詳しく知れるぞ」
「そうなの?」
「ああ。王都図書館は、膨大な数の歴史書を保管しているんだ。よかったら利用してみてくれ」
「ぜひ、そうするわ」
「ああ。……門が見えた」
 レイたちは話に夢中になっていたが、門の前まで来ていたようだ。
「団長!」
 レイたちが通った時の者と交代したのか、先ほどとは異なる門番がカインたちに気付き声を掛けた。
「ご苦労。門を開けてもらえるか?」
「はい!」
 門が開き、三人は王城を後にした。

「カインのすすめる店は、何が美味いんだ?」
「ケルウという草食の二本の角を持つ動物の肉を使ったステーキが人気です。食べ応えがあって美味いですよ」
「ケルウか。食べたことは無いな」
「私も無いわ」
「二人は食べた事は無いのですね。楽しみにしていてください。喜んでいただけると思いますよ」
「そうか。なら、楽しみにしよう」
 王城を出てレイたちは今、街灯に照らされた城下町を歩いている。街は夜ということもあって、とても賑わっていた。
 踊り子を見る者、酒を酌み交わす者たち、食事をしながら世間話に花を咲かせる者たち、様々に夜を過ごしている。

 そんな人々を見て、レイはある事に気が付いた。
「団長さん。この国は、獣人族も暮らしているの?」
「ああ、そうだ」
 セレイム王国は、人間だけでなく、獣人と呼ばれる、人と魔獣の混血の種族も暮らしている珍しい異種族国家だ。二百年ほど前のセレイムの国王が、ある獣人の一族を迎え入れたことから、この異種族国家の歴史が始まったそうだ。また、このことが各国へ伝わり、セレイム王国は様々な種族の国から信頼のおける国と認められた。
「さっきは気付かなかったけど、こうやって種族関係なく生活することもできるのね」
「ああ。セレイムの強みの一つだ」
「そうなのね。それにしても、とても賑わっているわね。こんなにも人で溢れる夜を過ごすのは初めてだわ」
 レイは、辺りを興味津々に見回している。

「今日はレイ殿にとって、初めてのことが多くなりそうですね」
「ええ」
「二人とも、あれが私がおすすめの店の、〝ペガサス亭〟です」
 話をしていると、カインの薦めるご飯処に着いたようだ。
「ペガサスってあの中位種の聖獣の?」
【ペガサス】翼を持つ白い馬のような姿をした中位種の聖獣。体長は、普通の馬とあまり変わらない。
 密漁により数はとても少なくり、出会うのはとても稀な生き物だ。

「ああ。店主が昔に冒険者として過ごしているときにある森で偶然、ペガサスに出会ったらしく」
「それで、店の名前を?」
「そういうことらしい」
「へえ」
 店の看板を見上げながら、会話をする二人。
「……入らないのか?」
 レオンがまだかという目で二人を見た。
「そうですね、入りましょうか」
 そう言って、カインはペガサス亭の扉を開けた。
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