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【第一章】出会いの始まり

少し賑やかな昼食

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「今日は庭で作るのか?」
 庭に出てきたレイにフェンが尋ねた。
「ええ。たまには外で、と思って。今日はクリームシチューと、さっき釣ってきた魚の塩焼きよ」
「シチューは肉多めだぞ」
「ふふ。わかってるわ。この間、貴方が捕ってきてくれたブラックボアを使おうかしら」
 【ブラックボア】最大五メートルに及ぶ、中位種の魔獣。名の通り黒い毛を纏っている。
 冒険者も討伐にそこそこ苦労されられるような魔獣だ。
「ブラックボア!?この森はそんな魔獣も住んでいるのか」
 レイたちの会話に驚きカインが会話に入る。
「結構美味しいわよ。今出すわ。―魔法収納マジックボックス
レイがそう言うと何もない空間が歪み、解体されたブラックボアの肉が現れた。
魔法収納マジックボックス
 空間を歪めてあらゆるものを収納できる魔法の一つ。この中の時間は止まっているため、生肉を保存するのに最適だ。収納量は使用者の魔力によって変わる。

「この量は、相当な個体数じゃないのか」
 カインは現われた肉の量に、驚きを隠せない。
「私ともなれば、ブラックボアを狩るなど容易いものだ」
「さすがは、フェン殿です」
 すっかり馴染んだ様子のカインとフェン。
 そんな二人のさておいて、レイは料理の準備のため薪を組んでいる。
「団長さん。魚を焼くのを手伝ってくれないかしら」
 彼女はカインに手を貸してもらおうと声を掛けた。
「ああ。分かった。火はこの薪につければいいか?」
 カインは快く二つ返事をした。
「ええ」
「任された。―着火イグナイト
 カインが魔法を唱えると、薪に火が着いた。
着火イグナイト
 火属性の初級魔法。小さな火をおこす魔法。
 この魔法が使えれば、野営での火の心配はない。

「ありがとう。次にこの串刺した魚を薪の周りに刺してもらってもいい?」
「了解だ」
 カインは彼女の指示通りに作業を手伝う。
「早く食べたいよ~」
 コハクが待ちきれないと言わんばかりに尻尾を揺らしている。
「コハク、もう少し待って。それかあなたが自分で捕ってきた方が、料理を待つより早いわよ?」
 少し意地悪を言ったレイ。
「それは嫌だ!レイのご飯が食べたい!」
 彼はまるで、五歳児だ。
「分かったわ。シチューに入りきらないお肉があるから、フェンたちとそれで少しお腹を満たしてて」
 そう言って、レイはコハクに肉を分ける。
「は~い。師匠、リリィ!これ食べていいって!」
 コハクはその肉を咥えて、フェンたちのもとへ駆け寄っていった。

「ハハッ。コハク殿は相当、空腹だということが、言葉は分からないが伝わるものだな」
 コハクの様子にカインは楽しそうに笑った。
「コハクは確かに分かり易いわ。あの子はああ見えてもまだ子供だから」
「そうなのか。君の背丈くらい大きいのに」
「年齢は十二歳くらいかしら?」
「へぇ。見かけによらないものだな」
「そうね」
 二人は、フェンたちの方を見てほほ笑んだ。 
「そういえば、リリィの好きな食べ物ってあるかしら。シチューが口に合うかわからないし」
「そうだな。リリィはよく果物を好んで食べるな。特にリンゴが好きだ。もちろん肉も食べるぞ」
「リンゴなら、たくさんあるわ。デザートリンゴを使ったものにしましょう」

「レイ。今日は、いつもより張り切っているな」
 コハクたちといたフェンが、レイのもとへやってきた。
「そう?そう見えるなら、聖竜に会えたからじゃないかしら」
「聖竜に会うのは初めてなのか?」
 カインが話に入る。
「会ったことはあるけれど、こんなに近くで言葉を交わしたのは初めてよ」
「だったら、助けてもらった礼も兼ねて、昼食後リリィに乗って飛んでみるか?」
「……いいの?」
「大丈夫だ。な、リリィ」
 カインはリリィのもとに行き、彼女に問いかけた。リリィは、彼の言葉にすぐ頷いた。
「ええ、もちろん。私たちの命の恩人ですので、いくらでも乗せさせていただきますよ」
「ふふっ。そんな畏まられるほどのことはしてないと思うけれど、せっかくなら、お言葉に甘えて乗せてもらおうかしら」
 そう言って微笑んだレイは、吹いたそよ風に黒髪を揺らし、優しい日差しに照らされた。
「(……っ!)」
 カインの目には、そんなレイがとても綺麗な女性として焼きついた。
 またしても、レイに見惚れたカイン。

「(これから面白くなりそうだな)」
 彼の様子を見たフェンは心の中で一人、これからの展開を楽しんでいたのであった。
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