愛してるんだけど

沢麻

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大輔(万恵パパ)②

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 可愛いお母さんと遊べる、という軽いノリで楽しみにしていた大輔だが、よく考えると新居に親戚以外を呼ぶのは初めてだし、万恵も友達と遊ぶのは初めてだし、結構な大イベントなのではないかと思い付いたのが土曜日だった。とりあえず掃除。玄関、リビング、トイレと順に片付けて、次に買い出しだ。昼御飯はピザに決まったのだが、大輔は生地から捏ねて美穂ちゃんを喜ばせようと思ってその材料を一式買う。具材の仕込みを夕飯の後にやっていたら、愛子が冷ややかな視線を向けながら万恵を風呂に入れていることに気付いた。風呂はだいたい大輔が入れている。しまった。愛子の目に「自分の仕事を放り出して可愛い女の為に時間を割いている自分勝手な男」と写ってしまった可能性がある。でももてなすのは大輔だし、仕方がないじゃないか。だいたいもともと大輔は料理が好きなのに、栄養素などに異常な拘りがある糖尿かぶれの愛子に料理担当を取られてしまっている。たまの料理に精を出したっていいじゃないか。
 明日は十時に来てくれるとのことだった。美穂ちゃんの家は残念ながら学区は離れるが、車で十分もかからない所だ。同じ小学校に行ければよかったのに。
 ニヤニヤしていると、背後に愛子が立っていることに気付いた。愛子は小柄なのに、なんだかものすごい存在感である。
 「あ、ふ、風呂ありがとうねー」
 「うん」
 「あ、明日は、愛子も昼御飯いるもんね?」
 「うん、ピザ取っておいてね」
 「勿論」
 愛子はにっこり笑うと、万恵の髪を乾かしに行った。なんだろう。怖いと感じるのは大輔に後ろめたい気持ちがあるからだろうか。
 まさか美穂ちゃんに焼きもちを焼いて、大輔への気持ちが再燃し、レス解消なんていい結果に転じないだろうか。
 いや、焼きもちじゃなくて「風呂入れろよテメー」って心情かもしれない。こんなことを色々考えて大輔は、好きなお母さんはたくさんいても結局愛してるのは愛子なんだなと妙に納得した。
 「洗い物忘れないでね」
 愛子が声をかけてきた。はいはい、わかってますよ。
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