愛してるんだけど

沢麻

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沙織(駿斗ママ)①

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 ビールを飲みながら洗い物や掃除を終えると二時になっていた。エリーは売り上げを渋い顔で数え、沙織に日当を払った。領収書を書く。沙織は金曜日だけ、スナックで働いているのだ。ママのエリーとは昔からの付き合いで、三歳年上のエリーは姉のようだ。駿斗はすぐ近くのエリーの家で預かってもらっている。エリーには小五の娘がいて、二人で寝ていてもらい、今までは朝に迎えに行っていた。いつも朝川と過ごしていたのだが、この度別れてしまった。朝川は妻がいて、バレそうだということだった。そんなに妻が大事なら、他の女に手など出さなければいいのに。女を傷付けるのがそんなに楽しいのか。男という生き物は本当に勝手だ。まぁそういうことで、駿斗を迎えに行くタイミングをどうしようかと悩む。
 「せっかく寝てるの、起こすことないんじゃない? 沙織もうちで寝ていったら?」
 エリーが言った。一度甘えてしまったら、この先ずっとそうなってしまいそうな気がして、沙織は断った。駿斗は起こそう。起きなかったら、抱っこしてタクシーに乗ればいい。駿斗は十五キロだ。背は高いが、偏食で細い。
 エリーと二人で歩いてエリーの家に行った。エリーもシングルマザーで、沙織のようにまだ子供が赤ちゃんの時に離婚したタイプだ。エリーの娘はしっかり者。駿斗もこんな風になれるとは思えない。男女の違いだろうか。
 「結婚したいなぁ、いい人いないかな」
 エリーが言う。同感だった。一人での子育ては気楽だがとても不安なものなのだった。母子家庭が優遇されるのは子供が小さいうちだけだし、沙織もいつも再婚を夢見ている。
 駿斗は意外にもすんなり起きた。「おつかれ」と、目を擦って言う。可愛い。恋愛体質の沙織が、朝川と別れても平気なのは駿斗がいるからだ。母親になるということは、全く違う人間になったように色々変わる。
 しかし毎週夜中に起こすのもかわいそうだし、スナックの仕事もそろそろ潮時かもしれない。日々の暮らしは昼の仕事の給料だけで十分回る。しかし沙織は、着飾っていないと不安になるのだ。夜の仕事は仕事でチャラチャラできるのが楽しい。だから昼でも着飾れるアパレルに転職したい。馬鹿馬鹿しいと言われるかもしれないが、女はお洒落をしてなんぼだと思う。敦子や亜希子のように女を諦めたおばさん達は醜い。生きていても価値がないとすら思う。沙織はまだ二十七歳だし、まだ彼氏も欲しい。
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