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大輔(万恵パパ)①
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スイミングスクールは時間帯によって様々なクラス分けがなされていて、コーチたちは時間割によって仕事が割り振られている。大輔の場合、月曜日は午前中の一時間目は巡回、二時間目はシニアコースの指導、昼は休み、午後の一時間目、二時間目はジュニアコースの指導、三時間目の巡回を挟んで四時間目にジュニアの指導で六時上がりだ。午前中は比較的楽なのだが、やはり大変なのが子供達の指導である。話が通じるか微妙な幼児も、悪ふざけが始まる小学生も大変だ。早い時間帯は幼児が多く、遅くなるにつれて年齢層が上がるのが平日の特徴なのだが、この日は午後の四時間目に体験で見たことのある男の子が入ってきた。大輔はこの時間は一番初歩のグループと体験を担当している。先ほど資料を見ていたときには気付かなかったが、男の子に「あっ万恵のパパだ」と言われた。佐藤駿斗。万恵のクラスだ。
「おう、今日はよろしくな。ここでは大輔コーチと呼んでくれ」
緊張していたと思われる駿斗だが、大輔を見ると安心したのかリラックスして体験できていた。ところが大輔のほうは緊張して仕方なかった。何故なら駿斗のお母さんもけっこう好みであるもんだから、今閲覧席でお母さんが自分の半裸の姿を見ていると思うと気が気じゃない。筋肉質ではあるが年齢的に若干腹がたぷついているのは否めない。引っ込めろ自分。
体験の子の親には、終了後に声をかけることになっている。いわゆる営業である。大輔は更衣室にすっとんで行ったら、居た居た。美人の駿斗のお母さん。
「駿斗くんのお母さん、今日はどうでしたか? とても馴染んで体験できていたし、水も怖がらないし、楽しんでいましたよ」
自分が万恵の父親であることは敢えて言わずに今日の駿斗の様子を伝えた。駿斗のママも全然そのことには触れずに「そうですか。前向きに入会検討します」とか言う。
「母ちゃん、大輔コーチは万恵のパパだよ」
駿斗がそこへ割り込んできた。お母さんは「えっ?」とびっくりしてまじまじと大輔を見た。なんだよ気付いてなかったのかよ。というか水着姿をまじまじと見ないでくれ。
「えっ、まじで。全然気がつかなかった! 万恵ちゃんのパパってプールの先生だったんだ!」
「あはは、実はね。というわけで駿斗も喜んでくれたし、入会待ってまーす」
駿斗のお母さんはクールなイメージだったが、けっこう喋る人なのかもしれない。どちらにしろ会話できてなんとなくルンルン気分になり、もう一度体験の資料に目を通した。保護者のところには「佐藤沙織」と書いてあった。沙織ちゃん。なんだか今日は本当に、ママ達との距離が縮まった一日だった。
「ねえ愛子、今度どっかの水曜日か、どっかの日曜日で結ちゃんちと遊ばない?」
大輔は帰宅するなり愛子に相談した。鶏むね肉のピカタと思われる夕食を頬張っていた万恵が「えーっ! 遊びたい遊びたい、遊びたいよぉー」と席を立って踊り出した。
「いいんじゃない? この様子だもん。ほら座ってー」
「そしたら勝手に俺が約束取り付けるね! よーし万恵、任せろ」
「やったぁー」
大輔はその場でスマホを取り出し美穂ちゃんにラインした。これで堂々と美穂ちゃんとラインができる。やれない愛子とのセックスのことを考えるより、可愛いママ友と楽しくラインしているほうが健全だ。よし、今後はママ友付き合いを楽しもう。大輔は心に決めた。
「……結ちゃんのお母さんて、あの髪の毛お団子にした大ちゃんの好みの感じの彼女だよね?」
愛子がぼそっと呟いた。
……さすが愛子。大輔のことは、何でもわかっているのだった。
「おう、今日はよろしくな。ここでは大輔コーチと呼んでくれ」
緊張していたと思われる駿斗だが、大輔を見ると安心したのかリラックスして体験できていた。ところが大輔のほうは緊張して仕方なかった。何故なら駿斗のお母さんもけっこう好みであるもんだから、今閲覧席でお母さんが自分の半裸の姿を見ていると思うと気が気じゃない。筋肉質ではあるが年齢的に若干腹がたぷついているのは否めない。引っ込めろ自分。
体験の子の親には、終了後に声をかけることになっている。いわゆる営業である。大輔は更衣室にすっとんで行ったら、居た居た。美人の駿斗のお母さん。
「駿斗くんのお母さん、今日はどうでしたか? とても馴染んで体験できていたし、水も怖がらないし、楽しんでいましたよ」
自分が万恵の父親であることは敢えて言わずに今日の駿斗の様子を伝えた。駿斗のママも全然そのことには触れずに「そうですか。前向きに入会検討します」とか言う。
「母ちゃん、大輔コーチは万恵のパパだよ」
駿斗がそこへ割り込んできた。お母さんは「えっ?」とびっくりしてまじまじと大輔を見た。なんだよ気付いてなかったのかよ。というか水着姿をまじまじと見ないでくれ。
「えっ、まじで。全然気がつかなかった! 万恵ちゃんのパパってプールの先生だったんだ!」
「あはは、実はね。というわけで駿斗も喜んでくれたし、入会待ってまーす」
駿斗のお母さんはクールなイメージだったが、けっこう喋る人なのかもしれない。どちらにしろ会話できてなんとなくルンルン気分になり、もう一度体験の資料に目を通した。保護者のところには「佐藤沙織」と書いてあった。沙織ちゃん。なんだか今日は本当に、ママ達との距離が縮まった一日だった。
「ねえ愛子、今度どっかの水曜日か、どっかの日曜日で結ちゃんちと遊ばない?」
大輔は帰宅するなり愛子に相談した。鶏むね肉のピカタと思われる夕食を頬張っていた万恵が「えーっ! 遊びたい遊びたい、遊びたいよぉー」と席を立って踊り出した。
「いいんじゃない? この様子だもん。ほら座ってー」
「そしたら勝手に俺が約束取り付けるね! よーし万恵、任せろ」
「やったぁー」
大輔はその場でスマホを取り出し美穂ちゃんにラインした。これで堂々と美穂ちゃんとラインができる。やれない愛子とのセックスのことを考えるより、可愛いママ友と楽しくラインしているほうが健全だ。よし、今後はママ友付き合いを楽しもう。大輔は心に決めた。
「……結ちゃんのお母さんて、あの髪の毛お団子にした大ちゃんの好みの感じの彼女だよね?」
愛子がぼそっと呟いた。
……さすが愛子。大輔のことは、何でもわかっているのだった。
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