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世話好きです!
④
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出来上がった色を見て紗耶香はやはり黒にしなくてよかったと思った。一見黒のようだが透き通っていて軽い。おしゃれである。だいたいさっきからシャンプーやブローでスギさんに頭をずっと触られてうっとりモードだったものだから、余計に満足した。
「街中に浮気しないで、また戻ってらっしゃいよ」
店長が言う。浮気って……。
というか、スギさんがここに勤めている限り通いそうな自分がいる。
カラーの間にけっこう喋ったが、スギさんは紗耶香の二個下で、エリーザが初めての就職先で一年目だという。二個下か……弟と同じ。弟がいるせいで、何故か年下の男と見るとひいてしまう。一応中学や高校もリサーチしたが、弟と接点はなさそうだった。
でもだめ。年下だし、エリーザは給料が安そうだし。紗耶香が求めているのは結婚を前提に付き合える彼氏だ。セックスありで、なんとなくときめく相手としては猫山がいるわけだし、余計な男を確保する必要はない。と、自分に言い聞かせていたが、美容室にいる間はばっちりときめいてきたわけだ。
せっかく可愛くなったことだし誰かに会いたくなった。金がないので誰とも何も約束していない。
あ、そうだ。藤川をフォローするんだった。紗耶香は藤川智也にラインすることにした。藤川の家は職員の中では保育園近ナンバーワン物件で、園から徒歩三分のアパートであることは知っている。
「体調どう? 落ち込んでない?」
すぐに既読がつき、「大丈夫」とまったく可愛いげのない返事がきた。まだ具合悪いのだろうか。
紗耶香は美容室の隣のケーキ屋で個包装一個七十円の焼き菓子を五つほど買い、藤川の家に行くことにした。別に上がり込んで話したいとかいうんじゃないが、今回の件、藤川が気にしていないわけがないということに気づいたからだ。ちょっぴり励まして、これからも一緒に頑張ろうって言おう。紗耶香が育てなくては。
ピンポーン。
チャイムを鳴らすと、暫くして戸が開いた。
「はーい」
……女だ。
女も紗耶香を見て固まっている。あれ? これって彼女? ってことは勘違いされてる系? やば。
「ふふふふ藤川先生はいますか? 私同僚の佐藤紗耶香っていうんですけど」
紗耶香は慌てて弁解すると、彼女もはっとして作り笑いを浮かべ、あ、お待ち下さい……と奥へ行った。すぐに藤川が飛んで来た。スウェット上下で無精髭。こんなに髭生えてるんだ、と余計なことを考えてしまった。
「あれ佐藤先生どうしたの? びっくりしたよ」
「お見舞いだよお見舞い! ほらお菓子!」
「えっ。あ、ありがとう」
藤川は驚いたようだが、いつもののんびりした笑顔を見せた。
……。
「ごめんね」
「ごめんね」
間をおいて、二人同時に同じ事を言った。あれ?
「いや、あ、じゃあ俺から。あの、土曜日行けなくてごめん。大変だったよね?」
「ん? あ、ああ。面談ね。なんとかなった! 大丈夫大丈夫! まぁ今後は同じことがないようにさ、連絡報告しっかりやっていこう!」
「うん、気を付けます。ごめんなさい」
藤川はしおらしく謝った。紗耶香はそのまま菓子を押し付けて、自分のごめんねの理由も言わず「じゃっ」と退散した。
「……」
……彼女がいるなんて、来てるなんて聞いてないよ!
あのぼさっとした藤川ですら彼女がいるってのに、紗耶香は一体なんなんだ?
「街中に浮気しないで、また戻ってらっしゃいよ」
店長が言う。浮気って……。
というか、スギさんがここに勤めている限り通いそうな自分がいる。
カラーの間にけっこう喋ったが、スギさんは紗耶香の二個下で、エリーザが初めての就職先で一年目だという。二個下か……弟と同じ。弟がいるせいで、何故か年下の男と見るとひいてしまう。一応中学や高校もリサーチしたが、弟と接点はなさそうだった。
でもだめ。年下だし、エリーザは給料が安そうだし。紗耶香が求めているのは結婚を前提に付き合える彼氏だ。セックスありで、なんとなくときめく相手としては猫山がいるわけだし、余計な男を確保する必要はない。と、自分に言い聞かせていたが、美容室にいる間はばっちりときめいてきたわけだ。
せっかく可愛くなったことだし誰かに会いたくなった。金がないので誰とも何も約束していない。
あ、そうだ。藤川をフォローするんだった。紗耶香は藤川智也にラインすることにした。藤川の家は職員の中では保育園近ナンバーワン物件で、園から徒歩三分のアパートであることは知っている。
「体調どう? 落ち込んでない?」
すぐに既読がつき、「大丈夫」とまったく可愛いげのない返事がきた。まだ具合悪いのだろうか。
紗耶香は美容室の隣のケーキ屋で個包装一個七十円の焼き菓子を五つほど買い、藤川の家に行くことにした。別に上がり込んで話したいとかいうんじゃないが、今回の件、藤川が気にしていないわけがないということに気づいたからだ。ちょっぴり励まして、これからも一緒に頑張ろうって言おう。紗耶香が育てなくては。
ピンポーン。
チャイムを鳴らすと、暫くして戸が開いた。
「はーい」
……女だ。
女も紗耶香を見て固まっている。あれ? これって彼女? ってことは勘違いされてる系? やば。
「ふふふふ藤川先生はいますか? 私同僚の佐藤紗耶香っていうんですけど」
紗耶香は慌てて弁解すると、彼女もはっとして作り笑いを浮かべ、あ、お待ち下さい……と奥へ行った。すぐに藤川が飛んで来た。スウェット上下で無精髭。こんなに髭生えてるんだ、と余計なことを考えてしまった。
「あれ佐藤先生どうしたの? びっくりしたよ」
「お見舞いだよお見舞い! ほらお菓子!」
「えっ。あ、ありがとう」
藤川は驚いたようだが、いつもののんびりした笑顔を見せた。
……。
「ごめんね」
「ごめんね」
間をおいて、二人同時に同じ事を言った。あれ?
「いや、あ、じゃあ俺から。あの、土曜日行けなくてごめん。大変だったよね?」
「ん? あ、ああ。面談ね。なんとかなった! 大丈夫大丈夫! まぁ今後は同じことがないようにさ、連絡報告しっかりやっていこう!」
「うん、気を付けます。ごめんなさい」
藤川はしおらしく謝った。紗耶香はそのまま菓子を押し付けて、自分のごめんねの理由も言わず「じゃっ」と退散した。
「……」
……彼女がいるなんて、来てるなんて聞いてないよ!
あのぼさっとした藤川ですら彼女がいるってのに、紗耶香は一体なんなんだ?
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