隣の庭

沢麻

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 慣れないアウトドアに俺は辟易し、ひたすら肉と野菜を焼くことにした。娘はコースケと仲良く遊び、妻はコースケの父親すなわちGT-Rの持ち主と何やら盛り上がっている。バーベキューを食べていると思いきや畑の方に行ったり、落ち着きのないことこの上ない。今更だが妻はこういうのが好きなんだなと、そして俺は年齢のせいかこういうのがめんどくさくなってしまったのだなと思う。
 「焼けたよ」
 俺はコースケの母親に焼けたものをひたすら勧め、コースケの母親もまたひたすら食べている。あれ? おかしいぞ、俺はあまり食べていないのに食材の減りが……
 「ていうかすごい食べるね」
 「えっ」
 コースケの母親は顔を赤らめる。可愛い。可愛いが、男の俺でもびっくりする食べっぷりである。
 「実は私、フードファイターだったことがあって」
 「はぁぁ?」
 「大食い選手権とかに出てたことがあって……でもあれですよ、テレビに出るほどではなかったんですけど」
 「そ、そうなんだ……」
 この美しいお母さんがフードファイターとか言われても頭が混乱するばかりである。他人は見かけによらない。
 「じゃあけっこう料理とかも詳しいんじゃない?」
 そうだ。きっとうちみたいに野菜炒めばかりではなく、お洒落な料理も作るに違いない。
 「……食べる専門なので、そちら側からすると詳しいですけど、自分では作らないですね」
 「えっ作らないの? じゃあ家のご飯は旦那さんが?」
 「そうです。食べるのは得意だしなんでも食べれるのですが、作るのはどうも苦手で……」
 「へぇー」
 喋りながらも彼女は食べるペースが変わらない。うーん、このままじゃ俺の分がなくなっちまう。
 俺は焼きながら食べる方式に転換した。俺が思う普通は、こういう場ではレディファーストで盛り付けてやったとしても途中で「もうお腹がいっぱいです」とかいう言葉が女側から出て、そこから男たちが食べ始めるというものだった。なかなかの裏切りである。
 「コースケくんのママは、何の仕事してるの?」
 俺は話題を変えた。俺のイメージでは美しい彼女は受付嬢とか、花屋とか、歯科衛生士さんとかそんな感じだった。
 「私ですか? SEです」
 「えっ」
 俺はその言葉を知らない。
 「システムエンジニアです。今はQRから読む受付機とかを担当してます」
 「……へぇー……」
 全然よくわからないが、とりあえず難しい仕事のようだった。システムエンジニア、という響きは俺の中で男性的だった。そういえばフードファイターという響きも……。
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