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スマホ育児って何? 今の子育てはこんなに手抜きなの?
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道子は燃えなかった荷物を和馬の車に積んで、和馬の家にやってきた。和馬の家は新築一戸建てだが庭が全くなく、塀もないので落ち着かない。ただアスファルトのスペースと、物置があるだけで花の一本すら入り込む余地はない。中の造りはものすごく洒落ているが、何せ散らかっていて悪い予感が的中した。
杏奈は掃除をしていない。
二人がまだ寝ている間にこっそり全ての部屋を拝見したが、まだ引っ越した時の段ボールが山積みになっている部屋さえあった。道子は今のところソファーで寝ているのだが、ちゃんとした寝具がないと寝た気にならない。布団の一式くらい来客に備えてあるだろうと思っていたのが甘かった。来客などないのだ。だから客間もないし、布団もない。道子の布団以外にも、調理器具や調味料を始めほうきとちりとりなど色々足りない。しかし杏奈は買ってきてくれる様子もなければお金を出してくれるつもりもない。なんと気遣いの出来ない嫁なのだろう。何しろ道子は現在無収入で、貯金の切り崩しと子供達からの仕送りで生きているのである。火災保険が幾分入る予定だが、後始末などで使うので本当に金がない。これはあとで和馬が帰宅したら言わねばならないだろう。
杏奈はというと先程からパジャマのような服のまま、ずっとスマホをいじっている。同じ家の中に道子という人間がいるというのに、会話をする様子もなく、赤ちゃんを床に転がしてずーっとスマホだ。道子はガラケーなのでスマホの何がいいのか全く理解できないが、楽しいものであるようなことは娘たちも言っていたからそうなのだろう。それにしても赤ちゃんの世話をしていて家事が疎かになるというならまだしも、あれでは到底世話をしているとは言えないのではないか。
「杏奈さん、買い出しに行きたいのだけれど」
道子は諦めずに声をかけた。この辺りの店もわからないし、何しろ金がない。
「え、何を買うんですか?」
「いや、だから私の布団と、ほうきとちりとりと、食品なんかを買いたいと思うんだけど。車がないと無理だわ。私瑠璃夏ちゃんを見ているから杏奈さんが行ってきてくれてもいいし、みんなで行ってもいいけれど」
杏奈は怪訝な顔をした。そしてまたスマホをいじり始めたではないか。
「ちょっと杏奈さん?」
「食べ物とかはネットスーパーで買ってるので、もうすぐ届くんですよね」
「ネットスーパー……」
スマホで注文すれば自宅に届くような、そのような買い物方法だろうか。杏奈はスマホから目を離さず、暫く操作したのち「これでいいですか?」と画面を見せてきた。
ほうきとちりとりのセットだった。六百円だった。
「え、ええ」
これを買うつもりなのだろうか。更にまたちゃちゃっとスマホをいじると、「これは」とまた見せてきた。
布団一式だった。
道子が頷くと、杏奈はまたスマホをいじつて、「明後日くらいに届くんで」と言った。
「え! 今の、買ったの?」
「そうですけど」
「そ、そ、そんな簡単に買っていいわけ? 変な品物かもしれないでしょう? 見て買わなくても平気なの?」
「お義母さんが私が買ってきてもいいって言ったんじゃないですか」
それもそうだ。そして、買ってもらった手前、言い争うにはこっちが不利である。
「……どうもありがとうね、杏奈さん」
道子は不満を閉じ込めて笑顔を向けた。しかし杏奈は、スマホを見ているのだった。
杏奈は掃除をしていない。
二人がまだ寝ている間にこっそり全ての部屋を拝見したが、まだ引っ越した時の段ボールが山積みになっている部屋さえあった。道子は今のところソファーで寝ているのだが、ちゃんとした寝具がないと寝た気にならない。布団の一式くらい来客に備えてあるだろうと思っていたのが甘かった。来客などないのだ。だから客間もないし、布団もない。道子の布団以外にも、調理器具や調味料を始めほうきとちりとりなど色々足りない。しかし杏奈は買ってきてくれる様子もなければお金を出してくれるつもりもない。なんと気遣いの出来ない嫁なのだろう。何しろ道子は現在無収入で、貯金の切り崩しと子供達からの仕送りで生きているのである。火災保険が幾分入る予定だが、後始末などで使うので本当に金がない。これはあとで和馬が帰宅したら言わねばならないだろう。
杏奈はというと先程からパジャマのような服のまま、ずっとスマホをいじっている。同じ家の中に道子という人間がいるというのに、会話をする様子もなく、赤ちゃんを床に転がしてずーっとスマホだ。道子はガラケーなのでスマホの何がいいのか全く理解できないが、楽しいものであるようなことは娘たちも言っていたからそうなのだろう。それにしても赤ちゃんの世話をしていて家事が疎かになるというならまだしも、あれでは到底世話をしているとは言えないのではないか。
「杏奈さん、買い出しに行きたいのだけれど」
道子は諦めずに声をかけた。この辺りの店もわからないし、何しろ金がない。
「え、何を買うんですか?」
「いや、だから私の布団と、ほうきとちりとりと、食品なんかを買いたいと思うんだけど。車がないと無理だわ。私瑠璃夏ちゃんを見ているから杏奈さんが行ってきてくれてもいいし、みんなで行ってもいいけれど」
杏奈は怪訝な顔をした。そしてまたスマホをいじり始めたではないか。
「ちょっと杏奈さん?」
「食べ物とかはネットスーパーで買ってるので、もうすぐ届くんですよね」
「ネットスーパー……」
スマホで注文すれば自宅に届くような、そのような買い物方法だろうか。杏奈はスマホから目を離さず、暫く操作したのち「これでいいですか?」と画面を見せてきた。
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「え、ええ」
これを買うつもりなのだろうか。更にまたちゃちゃっとスマホをいじると、「これは」とまた見せてきた。
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道子が頷くと、杏奈はまたスマホをいじつて、「明後日くらいに届くんで」と言った。
「え! 今の、買ったの?」
「そうですけど」
「そ、そ、そんな簡単に買っていいわけ? 変な品物かもしれないでしょう? 見て買わなくても平気なの?」
「お義母さんが私が買ってきてもいいって言ったんじゃないですか」
それもそうだ。そして、買ってもらった手前、言い争うにはこっちが不利である。
「……どうもありがとうね、杏奈さん」
道子は不満を閉じ込めて笑顔を向けた。しかし杏奈は、スマホを見ているのだった。
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