隣の彼女

沢麻

文字の大きさ
上 下
36 / 47
大魔王

しおりを挟む
 久しぶりの登校中、前をよたよた走っているショートカットが万夢だと気付くまで時間がかかった。髪の毛を切ったと聞いていた。
 「おっ。男子かと思ったぞ」
 優吾は挨拶代わりに声をかけて、追い越した。万夢はキッと優吾を睨んだ。やはり怒っているらしい。
 潤二郎が万夢にコクったのは、どちらからも聞いていた。しかしスパッと決着がついたわけでもなく、万夢は嫌だからと曖昧にはぐらかし、潤二郎は合格してからの返事になるとウキウキしている。潤二郎は他に何人もお気に入りの女子がいるわけだからはっきり断ったっていいと思うのだが、塾で顔を合わせるとか色々今後の生活の支障を考えた万夢は一人無駄に悩んでいて不憫だった。でもここで、お前以外にも好きな子いるから大丈夫だぞー、と言ったらむしろバカにされたとキレるのは目に見えている。難しいもんだ。
 万夢は、一條が好きなんだと思うよ。
 関口の言葉が甦った。やっぱりそうなんだろうか。だからってどうすりゃいいんだ。他の男にコクられたことを怒るような、そんな感情は正直沸かなかったのだが。
 校門近くまで走ったら今度は関口がいた。髪の毛が黒い。でもリュックでわかった。
 「おい! 遅刻遅刻! 走るんだ!」
 こっちにもおはよう代わりに声をかけた。振り向いた関口があまりに可愛くて、優吾は思わずガン見した。
 「一條、よくなったんだ。おはよう」
 「あぁ、熱なんて何日もねぇよ。でもほら、インフルは日数のあれがあるから」
 「そっか。元気そうでよかったよ」
 二人で下駄箱で靴を履き替えた。言いたくなったから、言ってみる。
 「……髪の毛黒いの、似合うな」
 なんだかすごく幼くなった。守ってあげたくなるような、可愛い外見に変わっていた。
 「でしょ。でもね、みんなまだ魔王って呼ぶよ。今や全然魔王じゃないのにね」
 関口は笑った。劇をきっかけに、関口はみんなの輪に入れるようになっていた。魔王になって、本当によかった。
 「あーっ、優吾来たー」
 クラスメイトたちに見つかった。久しぶりの学校だ。やっぱり楽しい。家で缶詰めは、きつかった。
 優吾以外にも二人、インフルエンザで休んでいた。まぁもう発表会も終わったから、是が非でも出席しなきゃいけない行事はないのだが。これからはあと少しのこのクラスでの時間を大事にしていく段階だ。
 「おはよう」
 ギリギリで万夢が教室に着いた。前からじっくり見たが、ショートも悪くなかった。潤二郎はこの髪型を見て気に入ってあんなラインをしたらしい。でもやっぱり、体格も相まって、中性的だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

トライアングル・エラー

月島しいる
恋愛
「ねえ、私たち付き合ってみない?」 幼少期から長い年月を過ごした三人。 いつまでも続くと思っていた関係は、ある時を境に呆気なく破綻した。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー
ファンタジー
まさに社畜! 内海達也(うつみたつや)26歳は 年明け2月以降〝全ての〟土日と引きかえに 正月休みをもぎ取る事に成功(←?)した。 夢の〝声〟に誘われるまま帰郷した達也。 ほんの思いつきで 〝懐しいあの山の頂きで初日の出を拝もうぜ登山〟 を計画するも〝旧友全員〟に断られる。 意地になり、1人寂しく山を登る達也。 しかし、彼は知らなかった。 〝来年の太陽〟が、もう昇らないという事を。  >>> 小説家になろう様・ノベルアップ+様でも公開中です。 〝大幅に修正中〟ですが、お話の流れは変わりません。 修正を終えた場合〝話数〟表示が消えます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ときめき♥沼落ち確定★婚約破棄!

待鳥園子
恋愛
とある異世界転生したのは良いんだけど、前世の記憶が蘇ったのは、よりにもよって、王道王子様に婚約破棄された、その瞬間だった! 貴族令嬢時代の記憶もないし、とりあえず断罪された場から立ち去ろうとして、見事に転んだ私を助けてくれたのは、素敵な辺境伯。 彼からすぐに告白をされて、共に辺境へ旅立つことにしたけど、私に婚約破棄したはずのあの王子様が何故か追い掛けて来て?!

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

【完結】パンでパンでポン!!〜付喪神と作る美味しいパンたち〜

櫛田こころ
キャラ文芸
水乃町のパン屋『ルーブル』。 そこがあたし、水城桜乃(みずき さくの)のお家。 あたしの……大事な場所。 お父さんお母さんが、頑張ってパンを作って。たくさんのお客さん達に売っている場所。 あたしが七歳になって、お母さんが男の子を産んだの。大事な赤ちゃんだけど……お母さんがあたしに構ってくれないのが、だんだんと悲しくなって。 ある日、大っきなケンカをしちゃって。謝るのも嫌で……蔵に行ったら、出会ったの。 あたしが、保育園の時に遊んでいた……ままごとキッチン。 それが光って出会えたのが、『つくもがみ』の美濃さん。 関西弁って話し方をする女の人の見た目だけど、人間じゃないんだって。 あたしに……お父さん達ががんばって作っている『パン』がどれくらい大変なのかを……ままごとキッチンを使って教えてくれることになったの!!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...