1 / 47
転校生
①
しおりを挟む
今日から学校だと言うのに、気が付いたら七時半だった。万夢はベッドから飛び降りると神業と言えるスピードで身支度をし、七時四十五分に食卓についた。
「何やってんの」
「新学期そうそう寝坊かよ」
同じ小学校の四年生と二年生に弟がいる。彼らはもう朝食を食べ終わりそうだ。更にその下に妹がいるが、妹と母親は既に出発したようで姿が見えない。
「喋ってる暇なんてないから!」
万夢は食卓にセットされた自分の分を猛スピードで流し込んだ。四年生の弟と万夢で、小遣い稼ぎに朝の皿洗いの手伝いをしているのだが、今日は弟に全額取られそうだ。一回五十円だから、毎日やればけっこう貯まる。
「じゃ、お先にー」
「鍵かけろよー」
弟二人は仲良く出発した。くそ。
理由はわかっている。夜更かしだ。万夢は誕生日にスマホを買ってもらったのだ。フィルターはついているものの憧れていた世界が手に入って、連日夜更かしをしていた。学校でスマホを持っている子も勿論いて、早速ラインを始めたらこれがまた面白い。必然的にみんなが寝るまでグループトークをやめられない。しかし買ってもらった時に、「生活に支障出るようなら没収する」との条件を提示された。このままじゃ確実に没収である。
学校には持っていってはいけないことになっている。出発前にラインを見ると、みんなもうとっくに登校していた。既読はつかないが、とりあえず書き込む。
《寝坊っ! 走っていくねー!》
万夢は遅刻ギリギリだな、と思いながら、スマホを置いて出発した。
学校までは徒歩十分だから、走れば五分だ。もう気温が上がってきていて、走るとどんどん体が暑くなった。汗だくで到着か……嫌だな……と思っていたら、段差に躓いて転んだ。膝に激痛が走る。擦りむいた。あーあ、本当にダメだ。ついてない。いや、自分が悪いのか? もはや間に合うことを諦め、万夢はとぼとぼと歩き始めた。もう校舎は見えているが、「転んだ」って膝を見せれば、そんなに怒られないんじゃないかなどと打算までしていた。
「おい何とろとろしてんだよ! 遅れるぞ!」
いきなり後ろから声がかかった。
「優吾」
「お先にー!」
幼馴染の優吾が、万夢をさっと追い越して行った。速い。これじゃ優吾は間に合って、万夢がアウトで格好悪い。
「待てよー!!」
万夢は再び走り出した。でも全然優吾には追い付けない。それもそのはず、優吾はクラスで一番足が速くてリレーを逃したことがない。万夢はリレーの選手になったこともない。
気付けば万夢は笑っていた。二学期に一番最初に会えたクラスメイトが、優吾だったから。
「何やってんの」
「新学期そうそう寝坊かよ」
同じ小学校の四年生と二年生に弟がいる。彼らはもう朝食を食べ終わりそうだ。更にその下に妹がいるが、妹と母親は既に出発したようで姿が見えない。
「喋ってる暇なんてないから!」
万夢は食卓にセットされた自分の分を猛スピードで流し込んだ。四年生の弟と万夢で、小遣い稼ぎに朝の皿洗いの手伝いをしているのだが、今日は弟に全額取られそうだ。一回五十円だから、毎日やればけっこう貯まる。
「じゃ、お先にー」
「鍵かけろよー」
弟二人は仲良く出発した。くそ。
理由はわかっている。夜更かしだ。万夢は誕生日にスマホを買ってもらったのだ。フィルターはついているものの憧れていた世界が手に入って、連日夜更かしをしていた。学校でスマホを持っている子も勿論いて、早速ラインを始めたらこれがまた面白い。必然的にみんなが寝るまでグループトークをやめられない。しかし買ってもらった時に、「生活に支障出るようなら没収する」との条件を提示された。このままじゃ確実に没収である。
学校には持っていってはいけないことになっている。出発前にラインを見ると、みんなもうとっくに登校していた。既読はつかないが、とりあえず書き込む。
《寝坊っ! 走っていくねー!》
万夢は遅刻ギリギリだな、と思いながら、スマホを置いて出発した。
学校までは徒歩十分だから、走れば五分だ。もう気温が上がってきていて、走るとどんどん体が暑くなった。汗だくで到着か……嫌だな……と思っていたら、段差に躓いて転んだ。膝に激痛が走る。擦りむいた。あーあ、本当にダメだ。ついてない。いや、自分が悪いのか? もはや間に合うことを諦め、万夢はとぼとぼと歩き始めた。もう校舎は見えているが、「転んだ」って膝を見せれば、そんなに怒られないんじゃないかなどと打算までしていた。
「おい何とろとろしてんだよ! 遅れるぞ!」
いきなり後ろから声がかかった。
「優吾」
「お先にー!」
幼馴染の優吾が、万夢をさっと追い越して行った。速い。これじゃ優吾は間に合って、万夢がアウトで格好悪い。
「待てよー!!」
万夢は再び走り出した。でも全然優吾には追い付けない。それもそのはず、優吾はクラスで一番足が速くてリレーを逃したことがない。万夢はリレーの選手になったこともない。
気付けば万夢は笑っていた。二学期に一番最初に会えたクラスメイトが、優吾だったから。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
けじめをつけさせられた男
杜野秋人
恋愛
「あの女は公爵家の嫁として相応しくありません!よって婚約を破棄し、新たに彼女の妹と婚約を結び直します!」
自信満々で、男は父にそう告げた。
「そうか、分かった」
父はそれだけを息子に告げた。
息子は気付かなかった。
それが取り返しのつかない過ちだったことに⸺。
◆例によって設定作ってないので固有名詞はほぼありません。思いつきでサラッと書きました。
テンプレ婚約破棄の末路なので頭カラッポで読めます。
◆しかしこれ、女性向けなのか?ていうか恋愛ジャンルなのか?
アルファポリスにもヒューマンドラマジャンルが欲しい……(笑)。
あ、久々にランクインした恋愛ランキングは113位止まりのようです。HOTランキング入りならず。残念!
◆読むにあたって覚えることはひとつだけ。
白金貨=約100万円、これだけです。
◆全5話、およそ8000字の短編ですのでお気軽にどうぞ。たくさん読んでもらえると有り難いです。
ていうかいつもほとんど読まれないし感想もほぼもらえないし、反応もらえないのはちょっと悲しいです(T∀T)
◆アルファポリスで先行公開。小説家になろうでも公開します。
◆同一作者の連載中作品
『落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる』
『熊男爵の押しかけ幼妻〜今日も姫様がグイグイ来る〜』
もよろしくお願いします。特にリンクしませんが同一世界観の物語です。
◆(24/10/22)今更ながら後日談追加しました(爆)。名前だけしか出てこなかった、婚約破棄された側の侯爵家令嬢ヒルデガルトの視点による後日談です。
後日談はひとまず、アルファポリス限定公開とします。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる