快気夕町の廃墟ガール

四季の二乗

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朱色を視しては一人待つ

朱色を視しては一人待つ9

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【私一人では、ここを動く事は叶いませんので】

 そもそも、七井家が所有と管理をしているであろうこの場所で彼女達は何をしている?
 屋上の靴に対して、七井後輩は回収しなければならない物品だと言っていた。何処までが嘘で真実かは知らないが、あの言いようならば屋上で自殺した人間はいたのだろう。
 この学園でhあ暴力事件や自殺者が絶えなかった。その上で閉校になったのだから屋上で自殺をした人間も居るのは珍しくない。

 それが嘘であったとしても、今の状況では判断がつかない。
 そして彼女は履の幽霊と呼称した。

 つまり、自殺をした誰かを模した実体が靴に付いた。それが誰であるかは予想の範疇でしかないが、七井家が関係しているとすればその実体は。

「__おそらくその幽霊は、七井家の人間ですか?」

 身内の人間だからこそ、この学園から離れないという信頼があった。
 七井家は、その幽霊と意思疎通が出来ている。

【……気づいていましたか。其処まで】
「いえ、推測に過ぎませんよ」

 話を聞く限り意思を持つ異常性であり、一番の危険性は脱走だ。意思を持つ異物は意思を持つが故に飛び出す危険性がある。それを防ぐためにはそれなりの予防策が必要となる筈だ。
 だというのにもかかわらず、此処の管理はずさん過ぎる。心霊スポットとしてその知名度を持ち、一般人人の侵入は抑えているとは思うが、ネット上での噂話は絶えない。人が関心を持つ場所で管理をさせる程、盗難や異常事態の発生確率は上がっていくだろう。

「七井家としては異常性を持った物体の保管は最重要課題でありメンツにかかわる問題です。然し、七井家は物体の回収はせずこの場所に放置した。七井後輩の話によれば、この回収計画自体嘘の様ですから。そもそも七井家は回収する気が無い。何せ二十年もこのままです。
 だから、彼女は異品ではなく管理者としているのではないのでしょうか?」

 だが、その幽霊事態がここを管理している人間だとしたら?
 この場所は彼女以外にも、扉を開ければ現れる化け物や図書室の幽霊が住み着いている。彼女が七井家の人間としてこの場所を管理しているとしたら、全て辻褄がある。

【その付いている者が一般人であれば、七井家はおそらく回収に乗り出す。でも、そうしなかったのは何か理由があるはず。__貴方はそう考えていますね?」
「ええ。そしてその理由はおそらく……】

 だから、七井家は彼女を回収しなかった。

「それが身内でありここから抜け出す心配がない事。そして、恐らくこの建物自体が彼女の収容区です」

 靴の幽霊は、この場所を管理している。
 そして、恐らくこの学園事態が彼女を収容する収容区だ。

「やっぱり、先輩は器用ですね」
「七井後輩が言ってくれれば早かったんだけどね。」

 七井後輩の形式的なお世辞はさておき、こんな事態に巻き込んだ事は説明不足に尽きる。
 こんな事を伝えた上で断わる危険性を回避した形だろうが、未だ説明があった方が幸せだ、何せこの状況は私にとっていい事ではない。複雑な状況に巻き込まれているのだから。

「それは仕方ないんですよ、先輩。何せ先輩の考えは少しだけ間違っているのですから」
【……そうですね、ではそこから説明しましょう】

 長い話にはなりませんから、なんて冗談めかしに笑う彼女。
 ルーズリーフに文がうまり、新しい容姿を取り出す。幽霊だと自称する彼女は言葉を放せない様だ。それが生前からか、この場所にこうして居る頃からか判断は付かないが、巧みに動かすその文筆は印刷用紙と同様の制度で埋められている。
 彼女の異常性に関する事か。__達筆も過ぎるという物だ。

【確かに、この学園の表向きの理由は七井友里なないゆりの収容。そして、彼女によるこの学園の管理です。然し、もう一つだけ目的があります】
「もう一つの目的?」
【彼らは、この学園の地下にある”コレクション”に気が付く危険があります」

 その言い方には、確かな含みがあった。

「……そのコレクションとは、もしかして」
【__本当に、察しが良いようですね】

 七井家が手を出そうとしたのは何か?
 それは、管理をする事を生業とした七井家にとって重要な事であるべきだ。例えば、この広大な敷地を持つ学園の地下。年々、巨額の財産を投じて広がる地下空間に”何”を隠したのか。

 渡り傘の様に、異常性を持つ物体は時として破滅を齎す。それは使いようによっては有益だとしても、その使い方を知るだけで命がけの物も多い。

 それをもし、この学園の主が集めていたとして。
 地下空間に集める程、膨大に在るとするのなら? 

【この学園の地下には、異常性を持つ物品が数多く収められています】
「七井家の管轄していない?」
【そうです。ですが、彼らはそれが何処にあるかつかめていない。恐らく、噂話程度でしょう】

 __七井家の人間は、その物品を狙っている。

「先輩の推理が間違っているのは、私は確かに七井友里の回収を本家から依頼されていた事ですよ」
「__だから、顔パスで通ったのか」
「一応収容所だっていうのに、名護探偵の助手だとしても無関係な先輩を通す訳ないでしょ?」

 国から認定されている由緒正しい名家だ。そういったモノを管理するには、多少の警備は必要の筈だ。例え七井家の息がかかっているとはいえ、七井後輩はともかく私が顔パスで通れるわけがない。何処かで話を付けていたことに変わりはない筈か。

「そうですね」

 つまりそれは安易に、七井後輩が七井家に隠し事をしていると同義だろう。



【私と七井後輩。__紛らわしいですね。正確には、友里の方です。私達の役割は、この空間の維持管理です。私達と七井さんは、この場所の維持を目標に活動しています。収容し、”守り抜く”のが私たちの役目です】


 目の前の幽霊は、厳かに語る。

 
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