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朱色を視しては一人待つ
朱色を視しては一人待つ8
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初めまして。
初対面の幽霊に、七井後輩はそう言った。
私はその言葉に深い疑問が浮かんだ。何せ、私は。七井後輩がこの学校に来るのは初めてではないのではないか?という疑問を持っていたからだ。
・七井後輩が回収しようとした物を、何故遠回しに幽霊だと言ったのか?
七井後輩は此処に来る直前に、靴を回収してほしいと私に手伝うようお願いをした。その時言ったセリフは、確かこうだ。「物、というか。……先輩、幽霊って信じますか」この文章は、明らかにそのもの自体が幽霊である様に聞こえる。
いや、文章自体の真相はどうでもいい。
この話の問題点は、何故七井後輩はその靴に対して異常性があると認識しているか……だ。その異常性がこの学園を殺した等とも聞いていないし、何せこの学園が廃校になった理由は別件だと聞いている。
靴の幽霊の噂がある訳でも無い。それだというのに、七井後輩は幽霊の話を振った。
少なくとも、彼女はその靴が幽霊の影響を受けている事を誰かから聞いている。それは本当に七井家か?ではなぜ七井家は未だに回収していない?二十年の月日が経って何故今更物品を回収しようとしている_?
七井家としての任務であるかも怪しい。何せ、普段は別な業者を介して保管する事が彼らの仕事だ。こうして家の物自ら乗り込んでくるという事は、余程切羽詰まった秘密があるはずなのだ。
だというのに、私が参加している事実は好ましくない。
正門の彼が七井家の者であるなら、私はこの学校に入れない筈だから。
それにまだまだ理由はある。
・事務所にあるマスターキーになぜ気が付いたのか?また、事務所で管理をしているマスターキーが図書館も管理するモノだとなぜ気が付いたか?
確かに、用務員の活動などでこの学園を管理運営するのならカギの一つや二つ怪しくはない。だがしかし、問題なのはそれが事務所に備えられていた事だ。
ほとんど学校は鍵の管理は職員室で執り行っている。何せ、学園を動かすのは事務所職員ではなく教諭であり、身近なところでなければ管理運用に支障をきたす。この学園の図書館の管理がどの部門であるかは分からないが、真っ先に思いつくのは職員室の筈だ。
しかし彼女は最初から事務所に目を付け、実際に合ったマスターキーは図書室の鍵の役割を果たした。まるで事務所にある事が当然の様に、彼女は動いていた。
・図書館の幽霊の名前を、何故言い当てる事が出来たのか?
七井後輩は、彼女の一族の友人である事を知っていた。
それら全てに理由があるとして、結論を言うのなら。
七井後輩は、この場所を訪れた事がある。
七井後輩は、四方木幽霊を知っている。
そして、その理由は。……おそらく。
「先輩?」
「__ごめん。考え事していた」
少なくとも七井後輩は私に危害を及ぶ気ではない。
あの扉の一件もそうだが、私に危害を与える気だとするのなら場面はいくらでもあった。私の時計は優れたものであるけれど無敵ではない。物騒な品物を扱っている一族の娘なら知っている筈だ。彼女が私を此処へ連れてきた目的は、恐らくこの幽霊にあるのだろう。
「初めまして、老猫探偵事務所で、助手を務めている巣立と申します」
「……」
言葉は白。
口元を動かす訳でもなく、彼女は手元にある書籍を閉じる。
何処か年代を感じさせる制服は、夏の物であるようで傍目から見ても涼しそうだ。季節感の逆行するかのような格好の彼女は、筆記用具を取り出しルーズリーフへと書き足していく。不明な言語がちりばめられていた白紙へ、見慣れた文字が足されていく。
【初めまして、四方木と申します。七井さんが失礼をかけました】
差し出されたルーズリーフには、このような定例文が記載されていた。
如何やら思った通り、七井後輩は彼女を知っていたようで
「やっぱり、四方木さんと七井後輩は初対面ではなかったんですね?」
【気づかれておりましたか。さすが、探偵さんですね】
正確には助手だというのに、吹き込んだのは七井後輩だろう。
当の本人は悪気があったのかどうかさえ分からない不自然な笑顔で体裁を保っている。これが七井後輩の目的とすれば、彼女の実家の依頼であるという言葉も嘘だろう。七井後輩は個人的なようでこの学園に用があり、それは私を幽霊の元へと連れていく事だった。
四方木は真新しいルーズリーフを何処からともなく取り出し、文章を連ねていく。その内容は私個人に対して依頼したい事がある事。真面目な私が幽霊の依頼を受けてくれるかどうか心配だったので、七井後輩に頼んだ事。
如何やら七井後輩が探索と称してこの学園に遊びに来た時からの知り合ったらしく、何時もは他愛ない書籍の話と日常会話で盛り上がっているそうだ。
………ちょっと待て。
私はこの後輩にそんな薄情な奴だと思われていたのか?
【言葉が足りなかった私と、一歩を踏み出せなかった彼女に。もう一度、チャンスを作って欲しいんです。”貴方の力”で】
__勘違いをしている?
「…私はタイムマシンじゃないですよ?」
【いいえ、違います。過去を変える事なんて、おこがましいですから】
その手は背表紙を撫でており、彼女の言葉には重みがあった。
【ただ、私を屋上に連れて行って欲しいんです】
靴の幽霊に、会わせてほしい。
それが、幽霊の依頼だった。
初対面の幽霊に、七井後輩はそう言った。
私はその言葉に深い疑問が浮かんだ。何せ、私は。七井後輩がこの学校に来るのは初めてではないのではないか?という疑問を持っていたからだ。
・七井後輩が回収しようとした物を、何故遠回しに幽霊だと言ったのか?
七井後輩は此処に来る直前に、靴を回収してほしいと私に手伝うようお願いをした。その時言ったセリフは、確かこうだ。「物、というか。……先輩、幽霊って信じますか」この文章は、明らかにそのもの自体が幽霊である様に聞こえる。
いや、文章自体の真相はどうでもいい。
この話の問題点は、何故七井後輩はその靴に対して異常性があると認識しているか……だ。その異常性がこの学園を殺した等とも聞いていないし、何せこの学園が廃校になった理由は別件だと聞いている。
靴の幽霊の噂がある訳でも無い。それだというのに、七井後輩は幽霊の話を振った。
少なくとも、彼女はその靴が幽霊の影響を受けている事を誰かから聞いている。それは本当に七井家か?ではなぜ七井家は未だに回収していない?二十年の月日が経って何故今更物品を回収しようとしている_?
七井家としての任務であるかも怪しい。何せ、普段は別な業者を介して保管する事が彼らの仕事だ。こうして家の物自ら乗り込んでくるという事は、余程切羽詰まった秘密があるはずなのだ。
だというのに、私が参加している事実は好ましくない。
正門の彼が七井家の者であるなら、私はこの学校に入れない筈だから。
それにまだまだ理由はある。
・事務所にあるマスターキーになぜ気が付いたのか?また、事務所で管理をしているマスターキーが図書館も管理するモノだとなぜ気が付いたか?
確かに、用務員の活動などでこの学園を管理運営するのならカギの一つや二つ怪しくはない。だがしかし、問題なのはそれが事務所に備えられていた事だ。
ほとんど学校は鍵の管理は職員室で執り行っている。何せ、学園を動かすのは事務所職員ではなく教諭であり、身近なところでなければ管理運用に支障をきたす。この学園の図書館の管理がどの部門であるかは分からないが、真っ先に思いつくのは職員室の筈だ。
しかし彼女は最初から事務所に目を付け、実際に合ったマスターキーは図書室の鍵の役割を果たした。まるで事務所にある事が当然の様に、彼女は動いていた。
・図書館の幽霊の名前を、何故言い当てる事が出来たのか?
七井後輩は、彼女の一族の友人である事を知っていた。
それら全てに理由があるとして、結論を言うのなら。
七井後輩は、この場所を訪れた事がある。
七井後輩は、四方木幽霊を知っている。
そして、その理由は。……おそらく。
「先輩?」
「__ごめん。考え事していた」
少なくとも七井後輩は私に危害を及ぶ気ではない。
あの扉の一件もそうだが、私に危害を与える気だとするのなら場面はいくらでもあった。私の時計は優れたものであるけれど無敵ではない。物騒な品物を扱っている一族の娘なら知っている筈だ。彼女が私を此処へ連れてきた目的は、恐らくこの幽霊にあるのだろう。
「初めまして、老猫探偵事務所で、助手を務めている巣立と申します」
「……」
言葉は白。
口元を動かす訳でもなく、彼女は手元にある書籍を閉じる。
何処か年代を感じさせる制服は、夏の物であるようで傍目から見ても涼しそうだ。季節感の逆行するかのような格好の彼女は、筆記用具を取り出しルーズリーフへと書き足していく。不明な言語がちりばめられていた白紙へ、見慣れた文字が足されていく。
【初めまして、四方木と申します。七井さんが失礼をかけました】
差し出されたルーズリーフには、このような定例文が記載されていた。
如何やら思った通り、七井後輩は彼女を知っていたようで
「やっぱり、四方木さんと七井後輩は初対面ではなかったんですね?」
【気づかれておりましたか。さすが、探偵さんですね】
正確には助手だというのに、吹き込んだのは七井後輩だろう。
当の本人は悪気があったのかどうかさえ分からない不自然な笑顔で体裁を保っている。これが七井後輩の目的とすれば、彼女の実家の依頼であるという言葉も嘘だろう。七井後輩は個人的なようでこの学園に用があり、それは私を幽霊の元へと連れていく事だった。
四方木は真新しいルーズリーフを何処からともなく取り出し、文章を連ねていく。その内容は私個人に対して依頼したい事がある事。真面目な私が幽霊の依頼を受けてくれるかどうか心配だったので、七井後輩に頼んだ事。
如何やら七井後輩が探索と称してこの学園に遊びに来た時からの知り合ったらしく、何時もは他愛ない書籍の話と日常会話で盛り上がっているそうだ。
………ちょっと待て。
私はこの後輩にそんな薄情な奴だと思われていたのか?
【言葉が足りなかった私と、一歩を踏み出せなかった彼女に。もう一度、チャンスを作って欲しいんです。”貴方の力”で】
__勘違いをしている?
「…私はタイムマシンじゃないですよ?」
【いいえ、違います。過去を変える事なんて、おこがましいですから】
その手は背表紙を撫でており、彼女の言葉には重みがあった。
【ただ、私を屋上に連れて行って欲しいんです】
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それが、幽霊の依頼だった。
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