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探偵は骸に

探偵は骸に4

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 神頼みとやらは、どうにも苦手で。
 祈りは、だからこそ空っぽだった。

 私が、志を持つキッカケは、そんな一言だった。
 
 彼は私の父親であり、写真家であった。母の姓に嫁いだ形となった彼は、物腰柔らかで才能に溢れた人間だった。彼は祖父の弟子であり、一目ぼれという形で母を愛したそうだ。
 まあ、そういう訳で。
 私が不自由なく育ったのは、結局のところ家が不自由をしていなかったというのが大きい。無論、私が当時からあまりにも聞き訳が良く、手のかからぬ子供であったという事も含めてだ。

 私の妹を含め、私たち家族は何不自由ない普通を満喫していた。

 彼は事務所として探偵社を兼任しており、実質的な活動は母が担っているらしいが、風景写真の個展の合間に地域住民からの相談事やトラブルの解決に勤しんでいた。
 私はその父親の背中を見ていたわけだが、どうにも将来像がそれに重なる事は無く、自由気ままに、ある程度大人しく幼少期を過ごした。

「__出来る限りはしているつもり、……なんだがな」

 ある日、彼はそのように吐いた。
 其処には、自虐的な意味が隠れていたらしい。

 素直であった私は、その言葉をそのまま含み咀嚼して、飲み込んだ上で理解が出来ず、その意味を父親に聞いても意味を父親に聞いても、彼は困り顔で話題を切り替えていた。
 何となくの言葉か。
 意味を持つ言葉か。

 それを理解する前に、私は、探偵の意味を知った。
 少なくとも、この街における探偵の意味は、私の想像とは違った。
 それでも私はこの街の、探偵となった。

 この街における探偵の意味は、少し違う。
 この街における探偵は、いわば監視者だ。

「__気にするな。」

 私は、目の前の彼にそう吐いた。
 気にするな、という言葉も聞こえていないのか。俯きながら考えに浸る彼は、手元の新聞の内容を見ている。いや、訳ではない。先程の事件。事件としてはあまりに小さくて、それでも大切な事件について、功を焦るかのように耽っているのだろう。
 無論、それは自分の利益の為ではない事を知っている。
 手元の新聞では、とある中学生グループが複数に及び身寄りのない猫を惨殺したという事件の記事が書かれていた。今時そのような儀式が流行っているとは聞いたことが無いが、どうやらその中に依頼された猫が含まれていたらしい。
 ゴマ麦茶と呼ばれるその猫は、彼の友人である天城霧の飼い猫であるようだ。斑点模様が特徴的なその猫は、とある軒下で傷を負いながら息絶えていた。

「__気にしてませんよ」

 そんな事はあるまい。
 怒りを隠すようにその表情は見えないが、手元がいくらか震えているのが分かる。それは彼女に言われた言葉が関係しているのは明白だ。
 友人の家族を殺された怒りもあるだろう。
 尊厳ない殺生に、腹も立てているだろう。

 しかし、その怒りに起因するのは、彼女が言った言葉が含まれているのは明白だった。
 言わなければいけない言葉は、数多にある。
 だけども、それが届くとは限らない。

 ___私は、それを言う事が出来なかった。




 言葉は、重ねる毎に意味を無くしていく。



 私は、所謂。
 人殺しである。
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