異世界マリオネット

四季の二乗

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期待を背に

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 昔から、ジェットコースターが苦手だった。
 落ちる際の浮遊感が生理的に無理だった。吐き気を催す邪悪には出会った事は無いけれど、人間が作った最悪の拷問器械だと本気で思う程度には。更に付け加えるなら、全般的落ちる系アトラクションが全般的に無理。横揺れは別に何とも思わないし、上がる感覚も別に嫌いではない。だけど下は駄目。無理。
 __自分の死因がそれに類するものだというのは皮肉が聞きすぎているよなって、皮肉を込める暇もなく体は下へと向かう。
 
「___」

 絶叫したか分からない。もしかしたら、声さえも上げられなかったかもしれない。
 情けない声なき声を上げながら、そのいつまでも終わらない落下に近い滑り台を下っていく。
 __って。どれくらい続くんですか?もうおなかいっぱいなのですが?
 思わず警護になるが、地獄は終わりそうにない。神は私を見捨てたのか?
 自称神様でもいいから。
 誰でもいいから。
 俺を救ってくれなんて思い始めると……。

 突如確かな地面への安定と共に、勢い止まらず投げ出された。急に広くなる視界。受け身を取らせる事も無くか弱い体をは転がっていく。勢い余って壁に激突すれば、上から物が降り落ちる。
 まるでコントでもしているようだが現実だ、残念ながら。埋もれ此処を墓場とする訳にもいかず這い出た。

 先に見えたのは、とても大きな書庫だった。

 その多くが空白で、背表紙の分厚い本がまばらに置かれていた。如何やらぶつかった先にあった書籍はどれも凝った装飾がされている。それは隣でぷかぷかと浮いている神様に似ている様で、どこか違っても見えた。

「着いたぞ、御主人」

 まるで図書館の一室にふさわしい空間は、疎らな蔵書量に目を瞑れば厳かな空間に間違いはない。本棚の側面のアルファベットと数字の羅列が、その雰囲気を一層強める。
 四方八方棚だらけの空間を進めば、読書スペースのような場所に出た。

 其処に、一人の女性が座っていた。
 深い海を思わせる清らかな青髪をしたその女性は、丸眼鏡の奥に見える青い瞳を此方に見せる。

「お客さんか?」
「どうも。………えっと」
「ここを管理している者だ。要は、司書だな」

 司書はそういうと手元の作業を中断する。
 如何やら虫食いや汚れが激しい古本を書き写している所だったらしい。良くは知らないが専門の道具らしきものが机の上に広がっている。修繕を行いながら写本をしているのか、素人目からでも分かる奇麗な文体が真新しい書籍を飾っていく。






「ようこそ。”何もない部屋”へ」
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