上 下
946 / 1,264
第21章 薔薇と白い月(ダークファンタジー)

第938話 薔薇と白い月(2) 強制力は地位さえも固定する。

しおりを挟む
 それからしばらく…それでも七日の日程を過ごし、どうにかマリモッサー村にやってきた。マリモッサー村はソコソコ小さい目立たない村だ。子爵領と言いながらその多くは獣の狩場として9割の森とそしてこの…薬草に浸食され、時折農作物を全滅させてしまう貧しい村だ。このマリモッサー家が錬金術で稼いでいるのもこの村の現状のせいだ。薬草は前に説明した通り朝に摘み取っても夜には全部復活するぐらい生命力のある草だ。その為いくら刈ろうが生えてくる。それが村からこっちに浸食してくるのだ、焼いても、焼いても。持って数日、ただしこの森…聖女の結界の境目の森なので、ここを破壊すれば、万が一聖女の結界がなくなった時魔王軍の進行を防げなくなるので、森自体を焼き払うわけにはいかない。この村での薬草は文字通りの植物被害を出す草だ。
「マリモッサー子爵。よくおいでくださいました。」
 村長があいさつする。
「今年は薬草が送られてきてないが、何かあったのか?」
 そう、実は本来マリモッサーの館には領地から届けられた薬草が無いといけないはずだが、それが無いと、貴族的設定の思考が言っていた。
「それが…送る馬車が壊れて…あの通り。」
 そこには車軸が折れた馬車があった。
「確かに…これは…。」
「すいませんがこれではこの量の薬草は…。」
 そして横には建物と同じ高さまで積み上がった薬草があった。これを運んで来てもらわないと、こっちも仕事にならないが…。…ミヨちゃんでさえ呆れている。
「どうするかだな…。」
 マジックバックやら、イベントリやらあるならそれで運べばいいという考えがあるかもしれないが、これ地味に問題が多い、
「とりあえず、本宅に運んでくれ、何とかする。こっちで加工する。」
「わ、分かりました、みんな頼んだぞ。」
 村からすればゴミである薬草が金になるのだ、それだけでもありがたい。がこれ、どう聞いても貴族というより職人の扱いなんだよな。
「さて、私は本宅で休む、今回の年貢はこれでいい。ただ…荷馬車に関しては対策を聞きたい。」
「それが…。」
「仕方ないな、後で舘に来い、買ってきた物資の分配を行う。」
 そう言いながら舘に戻る。館と言っても貧乏子爵の館。石積みの農家の家に馬車止めがあるだけの非常に質素なものだ。この背景には私が錬金術師なのもある、あの錬金術師の大釜を地道に買い集めポーションの生産を一手に引き受けるが、実際子爵クラスでもこの世界では伯爵以下は男爵も変わらないぐらいの地位しかない。強いて言うなら、男爵が名誉を上げると形だけ子爵にしてそれ以上にはならない。という感じだ。伯爵以上は全て血統で代々続く名家しかなれない。ただしこのゲームは恐ろしい事にこの伯爵でさえ…子爵と変わらない生活をしている。貧乏伯爵家というネタが出てくる為だ。そして侯爵はこのゲームには存在しないので公爵以外全部貴族は貧乏で、農家と変わらない。…がこの辺は実は鳥海の調査書には書かれていたが、オークションデータからは巧妙に隠されていた。そして公爵は全員
攻略対象に連なるので今回誰も買う事ができない。事実上DPだけ払わせて…誰も変わらないスタートなのだ。それを知った上で行動しやすいこれを選んだんだがこっちに来て知ったのはその中でも”稼ぎ方”がある家を他の貴族家が嫉妬で攻撃するって事だ。しかも内乱に近い…兵士を山賊に偽装して物を奪うとかだ。マジックバックで薬草を運送しようものならそのマジックバック欲しさに山賊(貴族)が出かねない。いや、何回も襲われた。だから馬車とかで山積みの薬草を運ばせ、奪う価値さえないという事で運ばないと、襲われるのだ。なお薬草は苦い為に食えない。しかもポーション人気は地に落ちている。だからこそ誰も狙わない。このマリモッサー子爵はそれを打破したいみたいだった。この薬草の価値を引き上げる、そうすれば村は助かると…私からすれば…無駄な努力だ。大方このポーションネガティブキャンペーンでさえ、こっちの収益を貶める罠だ。ポーションが例えここの人々の言う様に魔法より劣っていてもMPを使わない回復という地位がある。はずだ。
だがそれは軽視されている。そして聖女がいる以上…それがゲーム終盤までこれが解除されることはない。じゃあヨモギ酒みたいに酒にすればいいのか…というとそれも売れる保証はない。となるとこの村はゲーム終盤まで…この貧乏だ。
「でも、なんか砂をかむような…私がいくら凄くてもこれでは…。」
 そう、設定の影響で必ず失敗すると分かっている開発に計画なんてない。ある意味最強のディストピアだな。努力に意味なし。その中であらがうしかないのだ。確かにこれは鳥海がレベリングの件を無くしてでも来たくないはずだ。
「ですが、どうしますかのぉ。」
「SPで、限界突破買っておけ。レベリングするぞ。」
 なら、やれる箇所であらがえばいいのだ…まだ…やりようがある。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

そんなにホイホイ転生させんじゃねえ!転生者達のチートスキルを奪う旅〜好き勝手する転生者に四苦八苦する私〜

Open
ファンタジー
就活浪人生に片足を突っ込みかけている大学生、本田望結のもとに怪しげなスカウトメールが届く。やけになっていた望結は指定された教会に行ってみると・・・ 神様の世界でも異世界転生が流行っていて沢山問題が発生しているから解決するために異世界に行って転生者の体の一部を回収してこい?しかも給料も発生する? 月給30万円、昇給あり。衣食住、必要経費は全負担、残業代は別途支給。etc...etc... 新卒の私にとって魅力的な待遇に即決したけど・・・ とにかくやりたい放題の転生者。 何度も聞いた「俺なんかやっちゃいました?」       「俺は静かに暮らしたいのに・・・」       「まさか・・・手加減でもしているのか・・・?」       「これぐらい出来て普通じゃないのか・・・」 そんな転生者を担ぎ上げる異世界の住民達。 そして転生者に秒で惚れていく異世界の女性達によって形成されるハーレムの数々。 もういい加減にしてくれ!!! 小説家になろうでも掲載しております

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

魔力0の俺は王家から追放された挙句なぜか体にドラゴンが棲みついた~伝説のドラゴンの魔力を手に入れた俺はちょっと王家を懲らしめようと思います~

きょろ
ファンタジー
この異世界には人間、動物を始め様々な種族が存在している。 ドラゴン、エルフ、ドワーフにゴブリン…多岐に渡る生物が棲むここは異世界「ソウルエンド」。 この世界で一番権力を持っていると言われる王族の“ロックロス家”は、その千年以上続く歴史の中で過去最大のピンチにぶつかっていた。 「――このロックロス家からこんな奴が生まれるとは…!!この歳まで本当に魔力0とは…貴様なんぞ一族の恥だ!出ていけッ!」 ソウルエンドの王でもある父親にそう言われた青年“レイ・ロックロス”。 十六歳の彼はロックロス家の歴史上……いや、人類が初めて魔力を生み出してから初の“魔力0”の人間だった―。 森羅万象、命ある全てのものに魔力が流れている。その魔力の大きさや強さに変化はあれど魔力0はあり得なかったのだ。 庶民ならいざ知らず、王族の、それもこの異世界トップのロックロス家にとってはあってはならない事態。 レイの父親は、面子も権力も失ってはならぬと極秘に“養子”を迎えた―。 成績優秀、魔力レベルも高い。見捨てた我が子よりも優秀な養子を存分に可愛がった父。 そして――。 魔力“0”と名前の“レイ”を掛けて魔法学校でも馬鹿にされ成績も一番下の“本当の息子”だったはずのレイ・ロックロスは十六歳になったこの日……遂に家から追放された―。 絶望と悲しみに打ちひしがれる……… 事はなく、レイ・ロックロスは清々しい顔で家を出て行った。 「ああ~~~めちゃくちゃいい天気!やっと自由を手に入れたぜ俺は!」 十六年の人生の中で一番解放感を得たこの日。 実はレイには昔から一つ気になっていたことがあった。その真実を探る為レイはある場所へと向かっていたのだが、道中お腹が減ったレイは子供の頃から仲が良い近くの農場でご飯を貰った。 「うめぇ~~!ここの卵かけご飯は最高だぜ!」 しかし、レイが食べたその卵は何と“伝説の古代竜の卵”だった――。 レイの気になっている事とは―? 食べた卵のせいでドラゴンが棲みついた―⁉ 縁を切ったはずのロックロス家に隠された秘密とは―。 全ての真相に辿り着く為、レイとドラゴンはほのぼのダンジョンを攻略するつもりがどんどん仲間が増えて力も手にし異世界を脅かす程の最強パーティになっちゃいました。 あまりに強大な力を手にしたレイ達の前に、最高権力のロックロス家が次々と刺客を送り込む。 様々な展開が繰り広げられるファンタジー物語。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...