魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”

第１２章 開発再び

第４３８話 話には遅きに失するパターンもある。

　とりあえず、革製品も順調に雇用人数が増え、村も…。
「村長？｝
「魔導士様、相談が、」
　現在この村の村長はこのモアレの父だ。モアレは、このちょっと広大なマルワール帝国西部の三つの村メッチャングの町とムーア村そして、この流れ者の村の３か所の統治となっている。と言っても平和ボケしそうなぐらい盗賊もいない、正確には盗賊にさせてやるほど人が余らなかった。仕事は、街道沿いの休憩所（シルキー宿屋）の管理人含め、大量に欲しい。
「なんだ？」
「奥に。」
　手招きされてはいるのは、モアレの家だ。…普通の一般家庭と一緒の２ＬDKの家だ。私の住んでいるダンジョンの表側は２階建ての実験建築なものの、基本的にはそこまで目立たない形の館になっている。その為立派な大使館だけしか目立つ建物が無い。豪邸は私の美学には似合わない。が、実際この表フロアはあまり使っていない。
「なんだね。」
　奥から、ミラージェがリンゴ水を持ってくる。一応言っておくと、水に溶かした飴とリンゴのしぼり汁を混ぜて薄めた物で。さわやかな飲み心地となっている。え？リンゴ１００％ジュース？実は野生のリンゴのせいか、甘みが薄くて、魔法による品種改良を行って改良中だが、魔法でもなかなか樹木がうまく育たない。なので、既存のリンゴに手を加えた物になっている。その辺は魔王軍とかの方が一枚上手で、あっちには”リンゴのトレントから取れたリンゴジュース、という…豪華な物がある。…さすがにこれにはびっくりした。そして悔しいほどうまかった。
「話というのは…村の名前の件だ。」
「その辺も含め、あなた方の自由では？」
「もう…そういう事をするには…遅すぎたのじゃよ。」
「どういう意味で？」
「まあ、イーハ。私からな…。」
　どうも最初の内は村で名前はいいという事と、必要性を感じていなかった村も、急拡大につき名前が緊急的に欲しかった。が数回村人会議を開いても結論が出ない。がここで問題なのが村人の急増により今度は”魔導士”である私の知名度が急激に下がり動議を取りたいものが増えてきた。その上人が多すぎるので、まずは議会を設立。各管理者だけの会議で村の名前を決定することになった。が…。ここからが問題だった。イーハに承認を取って決めたい派閥とモアレからの拝命にしたい派閥で言い争うまでになった。
「ただな、私としてはイーハにも決定に参加して欲しいのだよ。イーハによって救われた村が、あなたを無視する何でそれこそ恩知らずだ。悲しくてな。それが。」
「お姉ちゃんが会議中、何かい武器に手をかけた事か…。」
「それは大変だったな。でもそっちで決めて…。」
　その為の委任だぞ。
「それがムスカしいのだ。貴族としてふるまうのも、私の…眷属としての本能が嫌いなのだよ。」
「そうそう。」
　確かに、ダンジョンの配下がダンジョンマスターをないがしろにするという話は難しいのだろう。分からないでもない。
「儂もだ。そう思った。が、その連中はその会議所より小さいモアレの家にも不満でな。言っている事は理解できるのだが。狩人としての本能を考えれば…。」
　これはモアレに聞いたことがある、最初渡したモアレの為の豪邸を計画していた。辺境公就任記念だ。だがそれは本人に断られた。それが”狩猟に出やすい家”としてはこれ位が良く彼女は今でも狩猟に出ているのだという。将軍とかだからでなくてもいいが、モアレは自分の立場が井原の地位の保証として連れられた爵位であることを知っている。なので、大きい家はいらない。という本人の談があり、あえて普通の家に生活している。が…。
「確かに、期属らしくないと言えばないが…。ならこっちに話を聞いて指名したうえで…。」
「それだと、今度は魔導士様をないがしろにしたと、もう一方が…。」
「あ…。」
　そういう事か。名前を決めるに際してプロセスが重要だ。今回は例えばモアレの独断で決めたと言えば私をないがしろにしたと、魔導士派が怒る。かといってイーハから聞いたと言えば。今度は領主派が怒る。基本、この村は合議で決めてきただけに、プロセスによる対立は…避けたいのだろう。会議では結構こうしたプロセスによる諍いがぼっぱつ…。私は現場が多いが友人がそういう事には…。
「そうだな、これに関しては私は専門外だ。だが相談してこよう。」
　こういう時はプロの腕前を持つ彼女の出番だ。