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第11章 出向社員的ダンジョンマスター
第384話 様々な制約が、がんじがらめにさせる場合がある。
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「というわけだべ、何とかできねえっぺか?」
ミレイと音無たちが出会った後、夜に相談を持ち掛けられたタミさんはそのままマスターに報告した。
「むしろそれだけ農業に詳しいとは思わなかった。がまずいぞ、それ。」
手元にある”ギルド謹製勇者取扱書”によると勇者は勇者でなくてはならない。弱きを助け強き悪をくじく。そうでない場合勇者の称号が消失する場合がある。今回の件はいくら本来はそのミレイという少女の失態でも願いを聞いてしまった以上何とかしないといけない。かといって温情を見せている徴税菅を無碍にもできない。それも悪になりそうだったからだ。そうなると、武力で追い払うもダメ。たとえタミさんが、食料で麦を出してもいいが、ここで問題になるのは麦の種類だ。出した麦が違っており、また栄養状態が良すぎる場合、嘘をついたことになったり、また来年に”再現性がない”になりかねない。そして…。
「問題は私はこう見えて農業の知識はほとんどないんだよ。」
井原は農地を依頼で土を入れたりする工事は請け負っていても、農地の運用はしたことがない。むしろその賢者飯垣の農業通が匙を投げたなら、こちらからできる事はない。
「でも、助けるべか?そこから…。」
そう、これはよくある失敗談という奴で、これに人情を誘っての美談ヨイショは、千鳥万花では無理だった。かといって撤退はもっと不味い、この村には現在魔王国、月下の庭園そして千鳥万花という中堅ダンマスグループ3つが固まっている。この状態で何もできないと言えば、それこそ侮られかねない。が、ここは当然”月下の庭園”の領域である。だから、うかつは補助策もまたダンマス機能を使った援助もできない。となるとできる事は少ない。
「とりあえず、ここは許可を取るぞ。こんな事は月下の庭園に任せるべきだ。」
次の日、タミさんが朝食でこのことを打ち明けると、月下の庭園の全員の顔が曇った。
「そんな事になっていたのか?}
「それですか…兄上。ここでの小麦粉の買い付けが多かったのは。」
「んだば、この村では交換できるのも限界までしたっぺ。」
この世界ではギルドカード経由の借金以外では借金という制度がない。借金させても、まず識字率が低く契約が理解されない。又最悪その人間が来年まで生きている保証もない。また、農業か狩猟業という不安定な業種が8割を超えるこの世界にとって確実に払ってもらえるとは限らない。すなわち極めて焦げやすい(借金を返してもらえない)、その為貸した場合は9割以上の確率で返してもらえない。だから物々交換が限界だった。それでもこっちの見立て以下なら損を被るのは商人だ。
「だがな…。我らにできる事はない。すまないな。」
「どういう事だっぺ?」
「今の状況では、月下が個別の村を救うと言えば、大方どの加盟ダンマスも出費しろという。が、それを払えるだけの金額がうちにない。その上我々に農地系のノウハウはない。」
そう言えば通ってきた村々は全て食料の自給率が低そうだった。
「それに今食料がたくさん出荷されると、各国が他国に戦争されかねない。あるという噂だけでも、山賊…いや隣国が攻めてくる場合がある。だからこっちの手では掬う事ができない。」
それはある意味あっている判断だった。国庫が潤い、備蓄食料があれば隣の国を侵略できる兵士の食糧にする。
「そんだらこった…おでたちがいるだけでも問題ねえっぺ?」
そう言う話なら、当然食料を売り買いするこの行商人は極めて危険という事になる。売るだけ食料があるはずだからだ。
「多分にある。が、この馬車の警備人数を見て襲ってこないだけだ。それに我らが今は旗を掲げている。」
「どういう意味だっぺ?」
「我らは”月下傭兵団”として、各地に出兵し、戦争を請け負っている。そして基本常勝だ。」
ただ月下としても、この戦乱を手をこまねいてみているわけにもいかなかった。そこで、雇う金があるならそこで傭兵を行い、戦争を代行する。そうすることで弱者を救済し、その資金の一部を地元に還元することで、どうにか…DP収益としての言い訳と、弱者救済を行っていた。ついでにその村から村長の許可を得て領域を貰う事で、DP利益を高めていった
「この旗がある所は”月下傭兵団”の縁故であると示している。襲われたと報告があれば即座に報復を行う事になっている。我々がな。」
流石に旗のある個所全部を守ることはできないが、その報告を受けた場合、どの組織相手でも強い報復を行う事で、”月下の旗を持つ相手”に手を出せばその団体は国であっても痛い目を見るとこのザガートン大陸南部で思い知らせた。この情報がザガートン南部での月下の庭園に参加するダンマスの判断材料にもなっていた。人間の領域を持つ月下にあやかれば人間領域の利益の一部でも得る事ができる。人間らしい生活もできる。そう考えれば加入を考える者も多かった。またダンマスでの武闘派である彼ら”月下の庭園”が資金力迄あるなら、当然庇護に入れる。その旗の権力も使える。という訳である。
「が、徴税の邪魔をしたとあれば、それの意味はなくなる。山賊と何ら変わらんとな。」
「んだば、どうすっぺ?」
「それがなあ…。」
「「全く思いつかん。」」
聞いている全員が呆れてしまった。が、これも勇者あるあるではあった。戦闘は強かろうが内政に弱いタイプの勇者が多い。また、勇者の集める人材に”生産系”及び”内政系”の人材はおらず、評価も戦闘での物のみとなってしまい、その他での評価が低い。が国で欲しいのはその異世界の知識を使った”生産系”及び”内政系”である。軍力は最悪
兵士を並べて、武具をそろえればいい。そのミスマッチがあり、冒険者になった勇者を拾おうとした勇者大陸の王様は少なかった。亜人同盟が千鳥万花との提携を模索するのはその内政力の高い人材が欲しいという事もあった。
「だから、針の筵と分かっていても、待つしかないのだ。」
「心苦しいですが、でも兄上の優しさは分かったであろう?」
「それでみんなも腹が膨れるなら、いいんだべがな。」
かといって千鳥万花が手助けすればそのノウハウの流出でもっと問題になる。鳥海は特に反対するだろう。しかも同情を誘う要素がないため、人気取りの要素も出ない。
「刀馬鹿、脳筋と言われても仕方ない。が、こればっかりはどうしようもない。」
「もう少しこっちで考えてみるっぺ。」
ただ、見捨てる選択肢はなかった。それがミレイのステータスだった。
名前:イルガン村のミレイ(黒川美玖)
年齢:5歳(地球換算9歳)
職業:村人LV4
ソウルレベル 3
状態:栄養失調(中)
HP:7
MP:22
STR:4
VIT:9
INT:23
MID:72
AGI:2
MAG:107
スキル:交渉LV2、回復魔法LV1
称号:バーナスとゴルカの娘、異世界転生者、生真面目、正義執行者、現在ザマァカウント中
装備:ヨレヨレの麻服
ミレイと音無たちが出会った後、夜に相談を持ち掛けられたタミさんはそのままマスターに報告した。
「むしろそれだけ農業に詳しいとは思わなかった。がまずいぞ、それ。」
手元にある”ギルド謹製勇者取扱書”によると勇者は勇者でなくてはならない。弱きを助け強き悪をくじく。そうでない場合勇者の称号が消失する場合がある。今回の件はいくら本来はそのミレイという少女の失態でも願いを聞いてしまった以上何とかしないといけない。かといって温情を見せている徴税菅を無碍にもできない。それも悪になりそうだったからだ。そうなると、武力で追い払うもダメ。たとえタミさんが、食料で麦を出してもいいが、ここで問題になるのは麦の種類だ。出した麦が違っており、また栄養状態が良すぎる場合、嘘をついたことになったり、また来年に”再現性がない”になりかねない。そして…。
「問題は私はこう見えて農業の知識はほとんどないんだよ。」
井原は農地を依頼で土を入れたりする工事は請け負っていても、農地の運用はしたことがない。むしろその賢者飯垣の農業通が匙を投げたなら、こちらからできる事はない。
「でも、助けるべか?そこから…。」
そう、これはよくある失敗談という奴で、これに人情を誘っての美談ヨイショは、千鳥万花では無理だった。かといって撤退はもっと不味い、この村には現在魔王国、月下の庭園そして千鳥万花という中堅ダンマスグループ3つが固まっている。この状態で何もできないと言えば、それこそ侮られかねない。が、ここは当然”月下の庭園”の領域である。だから、うかつは補助策もまたダンマス機能を使った援助もできない。となるとできる事は少ない。
「とりあえず、ここは許可を取るぞ。こんな事は月下の庭園に任せるべきだ。」
次の日、タミさんが朝食でこのことを打ち明けると、月下の庭園の全員の顔が曇った。
「そんな事になっていたのか?}
「それですか…兄上。ここでの小麦粉の買い付けが多かったのは。」
「んだば、この村では交換できるのも限界までしたっぺ。」
この世界ではギルドカード経由の借金以外では借金という制度がない。借金させても、まず識字率が低く契約が理解されない。又最悪その人間が来年まで生きている保証もない。また、農業か狩猟業という不安定な業種が8割を超えるこの世界にとって確実に払ってもらえるとは限らない。すなわち極めて焦げやすい(借金を返してもらえない)、その為貸した場合は9割以上の確率で返してもらえない。だから物々交換が限界だった。それでもこっちの見立て以下なら損を被るのは商人だ。
「だがな…。我らにできる事はない。すまないな。」
「どういう事だっぺ?」
「今の状況では、月下が個別の村を救うと言えば、大方どの加盟ダンマスも出費しろという。が、それを払えるだけの金額がうちにない。その上我々に農地系のノウハウはない。」
そう言えば通ってきた村々は全て食料の自給率が低そうだった。
「それに今食料がたくさん出荷されると、各国が他国に戦争されかねない。あるという噂だけでも、山賊…いや隣国が攻めてくる場合がある。だからこっちの手では掬う事ができない。」
それはある意味あっている判断だった。国庫が潤い、備蓄食料があれば隣の国を侵略できる兵士の食糧にする。
「そんだらこった…おでたちがいるだけでも問題ねえっぺ?」
そう言う話なら、当然食料を売り買いするこの行商人は極めて危険という事になる。売るだけ食料があるはずだからだ。
「多分にある。が、この馬車の警備人数を見て襲ってこないだけだ。それに我らが今は旗を掲げている。」
「どういう意味だっぺ?」
「我らは”月下傭兵団”として、各地に出兵し、戦争を請け負っている。そして基本常勝だ。」
ただ月下としても、この戦乱を手をこまねいてみているわけにもいかなかった。そこで、雇う金があるならそこで傭兵を行い、戦争を代行する。そうすることで弱者を救済し、その資金の一部を地元に還元することで、どうにか…DP収益としての言い訳と、弱者救済を行っていた。ついでにその村から村長の許可を得て領域を貰う事で、DP利益を高めていった
「この旗がある所は”月下傭兵団”の縁故であると示している。襲われたと報告があれば即座に報復を行う事になっている。我々がな。」
流石に旗のある個所全部を守ることはできないが、その報告を受けた場合、どの組織相手でも強い報復を行う事で、”月下の旗を持つ相手”に手を出せばその団体は国であっても痛い目を見るとこのザガートン大陸南部で思い知らせた。この情報がザガートン南部での月下の庭園に参加するダンマスの判断材料にもなっていた。人間の領域を持つ月下にあやかれば人間領域の利益の一部でも得る事ができる。人間らしい生活もできる。そう考えれば加入を考える者も多かった。またダンマスでの武闘派である彼ら”月下の庭園”が資金力迄あるなら、当然庇護に入れる。その旗の権力も使える。という訳である。
「が、徴税の邪魔をしたとあれば、それの意味はなくなる。山賊と何ら変わらんとな。」
「んだば、どうすっぺ?」
「それがなあ…。」
「「全く思いつかん。」」
聞いている全員が呆れてしまった。が、これも勇者あるあるではあった。戦闘は強かろうが内政に弱いタイプの勇者が多い。また、勇者の集める人材に”生産系”及び”内政系”の人材はおらず、評価も戦闘での物のみとなってしまい、その他での評価が低い。が国で欲しいのはその異世界の知識を使った”生産系”及び”内政系”である。軍力は最悪
兵士を並べて、武具をそろえればいい。そのミスマッチがあり、冒険者になった勇者を拾おうとした勇者大陸の王様は少なかった。亜人同盟が千鳥万花との提携を模索するのはその内政力の高い人材が欲しいという事もあった。
「だから、針の筵と分かっていても、待つしかないのだ。」
「心苦しいですが、でも兄上の優しさは分かったであろう?」
「それでみんなも腹が膨れるなら、いいんだべがな。」
かといって千鳥万花が手助けすればそのノウハウの流出でもっと問題になる。鳥海は特に反対するだろう。しかも同情を誘う要素がないため、人気取りの要素も出ない。
「刀馬鹿、脳筋と言われても仕方ない。が、こればっかりはどうしようもない。」
「もう少しこっちで考えてみるっぺ。」
ただ、見捨てる選択肢はなかった。それがミレイのステータスだった。
名前:イルガン村のミレイ(黒川美玖)
年齢:5歳(地球換算9歳)
職業:村人LV4
ソウルレベル 3
状態:栄養失調(中)
HP:7
MP:22
STR:4
VIT:9
INT:23
MID:72
AGI:2
MAG:107
スキル:交渉LV2、回復魔法LV1
称号:バーナスとゴルカの娘、異世界転生者、生真面目、正義執行者、現在ザマァカウント中
装備:ヨレヨレの麻服
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