魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”

第１１章 出向社員的ダンジョンマスター

第３８３話 生産的異世界成功には計算外が起こる場合がある。

　それからミレイが起きたのは一時間後だった。
「だ、大丈夫ですが…。」
　ミレイの目線の先にあるのは、やせ細った麦の畑だった。
「ああ、だが、できれば説明して欲しい。なにがあったんだ？」
「それは…。」
　そこから聞いたのは、単純にいえば知識によるミスだった。彼女はこの寒村に生まれ、農作業を手伝うもちっとも麦は育たない。これは農地が枯れていると思った彼女は土を休ませ復帰をさせる作戦として、最初は休講を行おうとした。が、ここで問題になるのはこの国の”徴税菅”だった。納税の義務は一定で休耕させれば当然その分は育
たなくなる。そして、この村の税は必ず”麦”にすることになっていた。輪作では必ず一作目に”穀物以外”を用いて土地をほぐす。がこれが納税義務と引っかかった。ので彼女は徴税菅にこうすると２倍とれると直訴し、この村での麦の納税を２年待ってもらった。その代わり、一年はその畑で取れた野菜から納税を行い、今年一年で取れた麦
を申告し、納税分を昨年徴収分の２倍貰うという条件だった。成功していれば確実に払える計算だ。
「それは結構徴税菅もやさしいな。」
「新しい試みで、このやせ細った土がどうにかなるなら、それを広めるために、あえて乗った形でした。」
　一年目は待ってもらい、２年目も納税が終わった。が肝心の麦はそこまで大きく育たなかった。ただ例年よりこれでも大きいらしいが、それでも徴税菅を説得した”２倍収穫”には至ってなかった。
「これでも…。」
「まずいなそれは。」
「ここまで大見得切って、これでは。」
　当然それは村人も空気で理解していた。確かに良くなったがこのままでは彼女は徴税菅に嘘をついたとして殺される。その噂は村中を覆い、そしてあと半月もあればその徴税菅がやってきて…という事らしい。村人もミレイの事を思ってか、ぎりぎりまで収穫を待ってもらっているがそれでもこの通りである。ただ休ませて放置するだけ…ではダメならやる時間はあったはずである。が、この結果に…。最悪村は壊滅する。そう言う空気が流れていた。
「辛いな、こういう時の勇者は。」
「何の力にもなりません。」
　３人が落胆する中…。ミレイは呆然とした。
「勇者？」
「一応ですよ。」
「皆様に無理を言ってお願いします。どんなことでもします！この、この村を救ってください！」
「「「…。」」」
　３人とも顔を見合わせてしまう。たとえ勇者でもこの畑をどうにかできるのか？
「雨を降らせれば？」
「いや、粘土質の土は水を弾く。無駄なんだ。それに今更水をあげてもどうにもならん。」
「それは？」
「成長には時間がかかる。だから…。」
　その先の言葉を飯垣は飲み込む。
「それでも魔法なら何とかなりませんか？」
　音無は麦を指さす。
「何をすれば？｝
「うっ。」　
　いくら魔法でもどうにかする方法を考えなくてはならない。
「今から麦を買ってこれば？」
　葉隠は思いついたように村を見る。
「この貧困の村からそんな金出るか？むしろこのタイミングで麦の買いなんて、足元見られて高値だ。払えるとは思えない。」
　収穫には季節も絡むため。この時期の売り買いは納税帳尻合わせともとられるし、
「でも確かに２倍の可能性はないわけではない。ちゃんと生育していればな。だが、品種によってはどんなに豊作でも２倍にならず終わる場合もある。」
「あ…。」
「２倍は無茶だったなとしか言いようがない。」
「どうにか！どうにか！」
　ミレイは頭を地面にこすりつけ…土下座していた。が無理な物は無理、とも言い難かった。