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第11章 出向社員的ダンジョンマスター

第382話 農家には農家の落とし穴がある。

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 倒れたミレイを抱え、一応ヒールライトも欠けるが、治る気配はなかった。
「これは?」
「大方栄養失調だなこれ…。」
 ミレイを畑のすぐそばのあぜ道に寝かせ、音無が治療していた。
「でもこれは…。」
 村の状況を見るに、収穫前の麦畑である。実るのを待つのだろうが…。これ以上の実りを期待するのも難しかった。
「この調子じゃあ、期待が薄いな…。」
 タミさんたちが商売しているが、実際各村々を周り、時期が時期の為村々に貯えが少なく、すぐ食料になる肉や穀物は少なく、売りは毛皮等の衣類材料や動物の骨などが多く野菜も売り買いするが、この戦争が多いザガートン南部では略奪や、無理な徴税もあり、貧困にあえぐ村々の方が多かった。最低でも音無たちが通った村ではそうだった。その為。タミさんは一回商売ごとに生ハムを穀物類をDPで購入して売りさばいていた。無料で上げることも視野に入れたし、月下からも要請があったが…。タミさんにはマルワール帝国でも軍団による噂の流布による顛末を覚えていた。下手に目立つことをすれば、この村人はもらったことをひけらかし、商売人が商売できなくなる。交換に色を付けて販売は可能だが無料で上げれば最悪この村に盗賊が来て、食料を奪う事さえ考えられた。それ位村々に食料は少なかった。
「でも詳しいんですね。」
「まあね。俺は食料プロデューサーとして、村の特産品制作にかかわってきた。一年の半分はどこかの村で、土を弄って何が使えるか考えていたさ。」
「へぇ…。」
「それで、自慢話みたいに、育てた農作物の話を聞かされるのさ。農業は博打だともね。」
「え?」
「農業は育てた作物を売るんだが、当然旨い不味いもある。がそれ以上に使用頻度の高さ低さもある。使い勝手のいい野菜は当然売れる。が、みんな作るから値段が高くならない。逆に珍しい野菜は高くできるが使い方がないからどっかが一気に買い上げないと誰も買わなくて儲けにならない。一番いいのは使い勝手が良くて珍しい野菜だがそんなもの出会うか?」
「あ…。」
「でプロデューサーだから当然珍しい野菜をメインに据えた販売計画を立てるが、村の気質でどう見ても全農家”安全牌”だった時にはどうにもならんと匙を投げた日もあるさ。」
「そう言うのでいいんですか?」
「新しい作物は当たり外れがでかく、ノウハウもない。育たなければ全部捨てる羽目にもなる。だから安牌を好む農家は多い。がそれだと先細る。」
「え?」
「どんどんありきたりの野菜は大規模に作る農家に取られ、穀物も一緒さ。新規参入なんて無理だ。市場の需要より作り過ぎれば買われない。そのさじ加減で作物を決める。そしたらその一年と、その土地は無駄になる。だからこそ、その年作る作物は生死を分ける。農家って奴は命を懸けたギャンブラーだよ。」
「では…。」
「輪作はよっぽど土地があまり、かつ、どの作物も高値で売れるという物でないとだめなんだ。休耕させた分、当然草取りもしないといけない。しかもその休耕分当然雑草は茂り、どっちに肥料は毎年与えないといけない。」
「厳しいんですね。」
「しかも肥料もどれをどれだけ与えたらいいのかトライアンドエラーが基本だ。そのノウハウも3作物分欲しくなる。そうなると、場合によっては理解できず失敗する事例も出てくる。」
「じゃあ…。」
「ただ作物を植える順番だけだと失敗しやすいんだ。しかもここは異世界だ。その2番目、3番目の野菜が思った通りの栄養素を使うとは限らない。」
「あ…。」
「だから、今まで言わなかったんだ。農地改良は。せめて森魔法とかいうのがどういう原理で植物の育成をしているのか理解しないと、肥料さえどうなるのかわからない。」
 これだけノウハウがあるのに、飯垣はほとんど農業についてノータッチだった。
「研究は?」
「こっちに来てからは、リンシュメルトやモートリアでは言うまでもなく、普通に作物は育っていたし、そこまでの時間はいないからな。マルワールも普通の農業だったからそれで生きていけるなら…。」
「でもこの子…。」
 葉隠にしても、急にこっちに着て倒れる少女に、何も感じないわけではない。
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