魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”

第６章 勇者と旅芸人

第２３９話 教授の章 出立直前

 そこからの一週間は地獄だった。教授をして言う周囲の緊迫感がそれだった。オウル達は村人に戦略を教え、集団戦を教え、男たちは城壁を掛ける。ゴブリンは流石に城壁を飛び越すに至らず、オーガも時折来て、城壁をブチ殴るがその振動で脅威に思わせるが限界で、城門以外なら何とかなった。当然その城壁は木製だが”圧縮”がかけられたもので…。教授が張り替えた。ディルが憑依で森魔法を提供。教授の記憶にある最硬の樹木”爆縮オーツカーボンセルロース加工”が2層とオウル”思い出召喚・建材のタングステン鋼”による”隔壁城門”偽木製城門”によりオーガが殴って涙目になるという。恐ろしい城門と、その傍に空堀を作ることで、防御を確実にしていた。が、それでも中の四六時中ひっきりになしに襲い始めたゴブリンの群れは村人の精神を削っていた。
「配ってきた。」
　ブラックが見張り台に戻ると、城壁前で優雅にお茶を飲む教授の姿があった。
「感謝する。領域化すれば。」
「できねえんだよ。抗争したくないだろ？平和主義様が喧嘩売りに行くか？無知じゃ済まねえんだよ！」
　ジャンも一応警備で城門前に陣取っていた。レベル6までとはいえ、土魔法が使えるジャンは当然戦力としてゴブリン退治に参加し、敵の攻撃を緩めるのに一役を買い、教授は自身の魔法で敵を薙ぎ払っていた。
「だからこその私だと思うがね。私は討伐カウンターが機能しているから儲けが確約されている…。ほら、ギルド特製”トレントライクアップルジュース”だ。甘いぞ、」
「…ありがとよ。で、一応オウルも仕込みが一段落したと報告があった。自衛可能だ。後はルーチンワークでいいからな。で周囲の村はほとんど全滅だそうだ。やっぱり、ディルももう少しで戻る。難民を連れてな。」
　ディルへの命令は”周辺の村を見て回り、ゴブリンを退治、人間の生存者を村に誘導せよ”である。その為いつもの怠惰が嘘のように働かなくてはならず…。後で報酬を要求されていた。
「ならどうする？」
　ジャンがカップに入ったジュースを丁寧に冷やしつつ飲み、息を強く吐く。
「で、バットニュースもある、魔人連合が動き出した、餌場の刈り取りを行うと。連中の管理地にもゴブリンが来たらしくてな。で、震源地の討伐を行うと今…兵士を集めてるらしい。」
「ソースは？」
「うちらの偵察部隊だ。で、これはもうタイムリミットと判断した。食料は村の一か月分おいておいた城門の開け閉めも練習させた。で、今夜ディルが付き次第、脱出する。」
「分かった。」
　一緒にお茶をするブラックもうなずいていた。

「ホッホッホ…これはまずいことになってきおった。」
　予定を超え戻らないディルの様子を見に行ったオウルが戻ってきていた。
「どういうことだ？」
「難民があの大きさだと1000じゃ、しかもそれをいくらゴーレムによる護衛が聞くとはいえ、ディル一人でカバーするのは無理に近い。そこに…数十から100前後のゴブリンの群れが断続的に来ておる。いずれ大侵攻があるやもしれん、儂も戻れるなら戻ってやりたい。」
「何とか…なりませんか？」
　最近村長についた新村長の若い青年が不安げに声をかける、
「私が出る。そして、オウル。」
　教授が立ち上がる、夜通し歩いて来ているとの事で、村も焚き木を炊いて明りを出し、城門前にたむろしている、現在は出迎えように城門を開けているがいつでも閉めれるようにだ。
「なんじゃ？」
「土魔法が使えるなら土壁でいい城門前から街道を覆ってくれ。私とブラックがその土壁の上から追い払う。後栄養ドリンクを飲ませておけ、アップルジュースを出す。」
「…分かった。」
「それ便利だな、凄い頭が回る。」
「ギルドが開発したトレントの愛情が詰まったドリンクだ。凄い甘いうえに魔素も濃い、MP回復効果が高く、このタバコも含め、MP回復が加速する。」
　教授は器用にタバコに火をつけると、ふかし始める、足元には詰まれたドリンクが大量にある。
「あんた…。」
「精神力と活力っていう飲み物だ。そいつを運んで飲ませろ。で、その上で、一直線に走らせろ、で終わり次第土は撤去だ。」
「わ、分かった。」
　そう言うとオウルはドリンクを影に姉妹、上空を去っていった。
「村長、すまないが難民が入り次第城門を閉めろ、我々は置き去りでいい。」
「なぜ？」
「そのまま我々は脱出する。東の方から、この国の連中が来る。その時に鉢合わせるとあんたたちが兵士に殺されかねない。なお…。」
「分かっている、最終的には従えって事だな。分かっている。説明も受けた。があんたらを裏切るとか…。」
「生きることを優先して欲しい。それに商会もある、時々見回りも来る、」
　城門周辺に土壁ができ、覆われていく、合図だ。
「では、また会おう、ないかもしれんが。」
　そう言うと城壁から土壁を伝い…。教授が走っていく、ジャンも城門前から走って難民たちの元に向かっていった。
「…すごいな…あんな人がいるんだな…子供なのに…」