上 下
18 / 1,264
第一章 流れ者の村

第18話 ダンジョンの本来の形

しおりを挟む
「お前ら!あのガキぶっ殺して、あいつの武器を奪うんだ、そうすればこのクズみたいな武器じゃないもっとすごい武器が手に入るはずだ!」
「おー!」
 村人たちは気勢を上げ、目的の洞窟周辺に来る…この辺りは木が切られ、開けている。
「…この奥にあったんだよな?家?」
「ああ。だが数本のあれしかなかった。こんな石っころじゃない。きっと奥にもっといいものがあるはずだ、隠したあいつは気に食わない、殺してしまえ。」
 男たちの目は地走り、もはやそれは直線的な事しか考えられない目だった。が入った彼らが見たのは…広く広大な家々がある…大通りみたいな状態の町そのものだった。周囲は明るく、
光は洞窟内にもかかわらわず、煌々と照っていた。
「なんだ?」
「いや、これは前にはなかったぞ。」
 流石の光景に男たちがざわつく…。
『警告いたします。この建物はマスターの建造物です。立ち入りに許可を持たない者は、敵意ある存在と認証します。敵で無いなら、外に出てください。出ないなら、あなた方を敵と認証し、排除します。また、その際に生死は問いません。ご了承ください。』
 無機質の音量が響き渡る。流石に全員、この声には慌てた。この世界においてこういう”放送”に経験はない。
「なんだ!あのガキを出せ!あいつの道具が壊れたんだ。私達の兄貴がかすり傷を負ったんだ。お前らが私たち村人を殺そうとしたんだ!」
 長が声を上げる。
『退出を未確認。抹殺します。パターンA。』
 その声と共に村人の足元に狼が牙をたて、バランスを崩し、倒れ込む。周囲の建物から狼が現れ、続々と村人たちを襲い、噛みつく。それはもう、不意打ちが成功し、全員に3体ずつ襲う
狼20体の群れに飲み込まれ、それはどんどん噛みつかれていく。
「ぎゃー!」
 叫び声がこだまする。そのあまりの状況に村長は周囲を…
「ウガァ!」
 足元に一体のみならず四肢をすべて一匹ずつ噛みつき、その牙を全力で突き立てる。あまりの痛みに叫び声をあげる。このために木を伐り準備したのは、20体の狼たちだった。警備部隊であり、元々自分もウルフだった彼はその有益性を理解していた。今回の件を了承した者、えさ場の作成であるパークボアのスポナーを建設し、狩りが可能だったからだ。その猛攻を前に一人、一人、命を散らせていく。最後に立っていた…村長も、もう十分立つ頃には血まみれであり、腱も切れ、もはや立っているだけの姿となった。狼たちが人間を食べなかったのはコアによる命令で死体を5体満足の状態で保存するためだ。
「な、なんだよ…。これはよ!」
 最後の一人である。村長が、フラフラになりながら見る先には…あの男がいた。そして、手空きの狼たちは全て整列して、主を迎えた。
「ここはダンジョンだ。侵入者は殺すのが掟だ。君は死んでもらう、強いて言うなら”君たちはここに来なかった”いいね。」
「何だと!」
 そして、井原は姿を狼に戻し、口に黒曜石のナイフを咥えた。
「せめて…死ね。」 
 その言葉にイハラが駆け寄ると、一気に奇美元をナイフで切り裂く。鋼鉄に近い硬さと鋭さを持つ黒曜石は、それだけで鋼鉄に近い…文明の力に勝ちうる”自然”だった。その鋭さは、すっと軽くなぞるだけで、物が切れる…そんな黒い…石だった。そして、その黒曜石が…。血に染まっていった。

「…これは…。」
 モアレたちは、料理が終わり、それを置いたまま、いつの間にかいなくなった井原を探していた。そしてみたのは…さんざんに死ぬ村人たちの男衆と…。その前にたたずむ狼たちだった。
「ダンジョンは本来、侵入者を餌にして。そいつを殺すことで収益を得る。殺さなくてもいいが…殺す方が高いDPがもらえる。」
「・・・。」
 ひときわ大きな狼である井原が、元の姿に戻る。
「私はこう見えて人間ではない。君たちと本来手を結び友好的にしようと考えていた。だが…あの様子では搾取しか私にはなかった。理解してくれるかな…。」
「…こいつらに下卑た目で見られたのは一度ではないが…悪い連中ではなかった。」
『今回のバトルで12万DPの収益がありました。またその死体を売却することでさらに14万DPを得る事が出来ます。どうしますか?』
「欲しがる奴はいるのか?」
『人型モンスターの材料として、進化材料に使います。取っておくことでもいいので。』
 …さすがの言葉にモアレたちは黙ってしまった。
「せめて弔う時間はくれてやれ。そして、売らん。進化素材で取っておく。・・・モアレたちにとっては、近しい人間が死んだんだぞ、少しは気を使え。」
『これはあるダンジョンマスターが言われたことばに”せめて有効利用して、無駄でない生であった”と弔う事こそが、最大と聞いておりましたので。』
「確かにそうだ。…が、少し…せめてか弱い父母がいなくてよかった。」
 モアレは絞り出すように声を上げた。それは弱弱しい者だった。
「これが…。」
「ああ、ダンジョンマスターだ。ダンジョンを作り、そして、人を招き、餌にして自分たちは存続する。但し餌にするのは人間の肉体だけではない。・・・”人間の魔力”も餌らしい。その代わり、共存体制でお互いに益を渡して生きていくことも可能だ。が、襲い来る敵を手放しで迎えるほど私達は甘くない。」
 捕虜も提案したが、その為に食事も出さないといけない事。収益でプラスになるには”十年単位”での保存が欲しい事を考えると、友好的な人員以外このダンジョンで生かしておくには少し辛い事が分かっている。何しろ困窮しているのだ、今残っている村人でもその件は用が足りるのだ。
「すまない…せめて…いや、やめておこう、君たちの機嫌を損なうと死ぬのは私達だ。」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき
ファンタジー
ある日、樹は残業続きでヘロヘロになりながら人通りの少ない真夜中の大通りを歩いていると、足元が突然光だし訳も分からないうちに真っ白な空間にへたりこんでいた。 「ここは何処…」 「ここは世界と世界の狭間じゃよ」 樹のつぶやきに答えた声の方を振り向くと、そこには真っ白な髭をたくわえた老人と、やけにお色気ムンムンの女性が居た。 なんだか知らないけど、異世界に召喚されてしまったらしい主人公、山野 樹(やまの いつき) とりあえず安全な所に引きこもって、憧れのテントでゴロゴロしたい。ただそれだけの為に、異世界で生活を始める。 どんな物語になるか、作者もわかりません。 ※小説家になろうにも投稿しています。  向こうの方がストーリーが先行していますので早く読みたい方はそちらをどうぞ。

処理中です...