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第二十八話 古き仲
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「ただいま~。あ、エコノレさん、帰ってきてたんですね。遅くなりましたが、今から夕食の準備をします。そこで待っていてください」
俺が机に突っ伏して寝たふりを決め込んでいると、玄関からプロテリアの声が聞こえてきた。恐らく、今買出しから戻ったのだろう。腕に食材を抱えていた。
「ん? 今の声、どっかで聞き覚えが……」
ふと、完全アウェイの状況下でどうすれば良いのか分からず、立ち呆けていたカッツァトーレが何かを考え込む。
彼には悪いが、俺は交渉疲れが酷いんでロクな説明もせず放置していた。アラレスタも、ランジアと一緒に奥の部屋に行ってしまっている。
「もしかして……プロテリアか!? おい、そうなのかッ!?」
突如、彼は走って厨房まで行ってしまった。料理に集中しているプロテリアは、突然の出来事のとても驚いている様子だ。
「やっぱりそうだ、プロテリアじゃないか! 覚えているか? 俺だよ俺、カッツァトーレだ。森の精霊、カッツァトーレだよ!」
「カッツァトーレ? ああ、カッツァトーレか! 森のクソガキ、カッツァトーレじゃないか! 少し見ないうちに、随分成長したな! 肉体年齢はとっくに俺を超えているぞ!」
何やらプロテリアとカッツァトーレが盛り上がっている。二人は知り合いなのか? それも、かなり古い付き合いのようだ。再会をとても喜んでいる。静かだったリビングに、にぎやかな声が響いていた。
「いつまでもガキ扱いは止めてくれよ、プロテリア。実年齢は大して変わらないだろう? それに、最後に会ったのはもう50年も前だ。お前たちタイタンロブスターはホントに見た目が変わらないな! 俺はこんなにマッチョになったぜ!」
カッツァトーレがプロテリアに自身の筋肉を見せつけている。正直、俺よりもたくましいその筋肉は、はたから見ても輝いていた。男なら誰しもが憧れる、理想の筋肉。それを、カッツァトーレは欲しいままにしているのだ。
対してプロテリアはというと、一般的な人間の14~15歳くらいの見た目だな。筋肉も最低限だ。地域によっては立派な大人だが、まだ若輩。一流とは言えない。
しかし彼を見た目で侮るなかれ。内に秘めたる実力は、相当なものがある。
「暑苦しいから止めてくれよ、カッツァトーレ。そういうところがガキっぽいのさ。筋肉があったって、魔法がからっきしじゃ宝の持ち腐れだろ? 前から身体強化の練度は上がったのか? ヒョロガリに負けて悔しい、って言っていたもんな」
「フン! 俺は以前までのよわっちぃカッツァトーレじゃないぜ。お前に憧れて、空間系魔法を習得したんだ。身体強化だって、森じゃあ群を抜いて強い。今の俺なら、お前にだって負けはしない。どうだ、これから一本やっていかないか?」
「お生憎様、俺はさっき熾烈な兄弟喧嘩をしてきたばかりでね。もうお前を相手に出来るほどの魔力は残ってないよ。お前がこれから付き合うのは、決闘じゃなくて夕食だ。今から準備するから、テキトウな所に座っておけよ」
カッツァトーレは元気に返事し、こちらに向かってくる。その表情は、さっきまでのうろたえたものとは大違いだ。とても嬉しそうな顔をしている。
いや、実際嬉しいのだろう。50年来の知り合いだと。人間の俺には想像もできないな。
「ひゃ~驚いたなぁ。エコノレの頼っている一家が、まさかプロテリアのことだったとは。え、ってことは、もしかしてプロテリアの父親って!?」
「お前知らなかったのかよ。そう、プロテリアの父親こそ、精霊種の長ロンジェグイダさんや、霊王ウチェリトさんと肩を並べるお方。コンマーレ殿だ。実質的にこの大陸を守護している人らしいけど、詳しいことは俺も知らん」
机に突っ伏したまま、ない気力振り絞って最低限の説明はしてやる。
俺の言葉に、カッツァトーレはとても驚いている様子だ。感情の起伏が激しい奴だな。今はそういうの鬱陶しいから止めてくれ。
「マジか~俺そんな奴と遊んでだり、決闘したりしてたのか。そりゃあ勝てないわけだ。海の大王コンマーレと言えば、そりゃもう数々の武勇伝を残した男だからな。俺も、ガキの頃は良くその話を聞かされて、憧れたもんだ」
カッツァトーレは有頂天になっているのか、勝手に一人で喋り始めた。机に突っ伏している俺とコストーデは全く聞いていないし、プロテリアもまだ厨房にいる。ランジアとミノ、そしてアラレスタもこの場にはいない。良くこんなに独り言が続くもんだと、ちょっと感心するくらいだ。
俺はもう、何ならこのまま寝てしまいたいくらい。やはり交渉の疲れが酷い。他人と長話するのは苦手だ。特に、面と向かって一対一はな。疲れが頭にくる。
いや、集団の輪に入って話をするのも苦手だが。
とにかく今日は疲れている。食事前に寝るもんじゃないんだろうが、今はそんなこと気にしている余裕はなかった。
俺は机に突っ伏したまま、コストーデと同じく、プロテリアの料理が運ばれてくるまで寝ていることにした。可哀そうだが、カッツァトーレのことは無視しよう。
「……懐かしいなぁ、父さんの武勇伝か。俺も寝物語に良く聞かされたよ。それも、本人の口からね。あの人自分語りになると脚色がすごいから、ほとんどウソみたいな話だったけど。でもやっぱり、子どもながらに憧れたなぁ」
「そうだろ!? やっぱりコンマーレさんはすごい人だ。ロンジェグイダ様やウチェリト様も数々の逸話を持っているが、コンマーレさんのそれは面白味がある。何より若々しくて派手だ。そういうのに憧れを抱くのは、イマドキの若者って奴なんだろうな」
「イマドキの若者って、カッツァトーレも俺ももう数百歳。人間から見たら長老。大賢者クラスだよ。な~に寝ぼけたこと言ってんのさ」
目が覚めると、視界には海鮮系のごちそうが広がっていた。
恐らくこれを作ったであろうプロテリアは、私が知っているような知らないような人と楽し気に話している。
身体は非常に怠い。どうしてこんなに疲れているのか。これはもはや、疲れとか通り越して病気の類かと思わせるほど、徹底的に疲弊しきっていた。
「最悪なタイミングで交代してくれたわね、エコノレ君。マジで状況が分かんないんだけど。いったいどうなってるのよ、これは」
「おお、起きたのかよエコノレ。もう料理できてるぞ。プロテリア弟は姉妹たち呼びに……ってどわぁ! 誰だアンタ!? さっきまでここにエコノレがいたよなッ!?」
この覚えているようで見覚えのない人、今日のエコノレ君の記憶から出てきた。名前はカッツァトーレ。筋骨隆々マッチョの実力者。
って、エコノレ君もう森の取引とか、ある程度の仕入れルート確保までやってくれてるんだ。仕事が早くて助かるなぁ。いや、身体を共有してるせいで効率は二分の一だけど。
「あれ? 今日は変なタイミングで交代しましたね。エコテラさん、おはようございます。こっちは僕の古い親友、カッツァトーレです。って、エコノレさんの記憶を辿れば分かりますね」
「おいおいどういう状況だよ。説明してくれプロテリア! さっきまで良くわかんない平凡な兄ちゃんだったのが、なんで急に、こんな美人さんになっちまったんだ!?」
それは私が説明して欲しい。まだ記憶が曖昧なんだ。疲労感も眠気も酷い。どうか丁寧に、一から事細かに説明して欲しいものだ。
というか、精霊目線には私が美人に見えているのか? 精霊は相手の内面を見抜く力が強いという。だから人間と違って、私は私にしか見えないし、エコノレ君はエコノレ君にしか見えない。こんな外見は、まったくと言っていいほど目に入らないんだ。
けれど、私の内面は酷く腐った人格。意図的にタブーを働き、知識量の多さで大衆を翻弄しようとしている、とても嫌な奴だ。
だから精霊には、私の顔がとても醜悪な奴に見えていると思っていた。
思えば、それが怖くて、アラレスタに聞けなかったのだ。精霊には私たちのことがどんな風に映っているのって、本当はすごく気になっていたのに。
「いいかい、カッツァトーレ。あんまり驚かないで聴いて欲しいんだけど、彼女らは昔の君と似たような状態なんだ。つまり、魔法的な性質を持つ、脳の異常によるものとは別の二重人格、というわけさ」
「「へ?」」
俺が机に突っ伏して寝たふりを決め込んでいると、玄関からプロテリアの声が聞こえてきた。恐らく、今買出しから戻ったのだろう。腕に食材を抱えていた。
「ん? 今の声、どっかで聞き覚えが……」
ふと、完全アウェイの状況下でどうすれば良いのか分からず、立ち呆けていたカッツァトーレが何かを考え込む。
彼には悪いが、俺は交渉疲れが酷いんでロクな説明もせず放置していた。アラレスタも、ランジアと一緒に奥の部屋に行ってしまっている。
「もしかして……プロテリアか!? おい、そうなのかッ!?」
突如、彼は走って厨房まで行ってしまった。料理に集中しているプロテリアは、突然の出来事のとても驚いている様子だ。
「やっぱりそうだ、プロテリアじゃないか! 覚えているか? 俺だよ俺、カッツァトーレだ。森の精霊、カッツァトーレだよ!」
「カッツァトーレ? ああ、カッツァトーレか! 森のクソガキ、カッツァトーレじゃないか! 少し見ないうちに、随分成長したな! 肉体年齢はとっくに俺を超えているぞ!」
何やらプロテリアとカッツァトーレが盛り上がっている。二人は知り合いなのか? それも、かなり古い付き合いのようだ。再会をとても喜んでいる。静かだったリビングに、にぎやかな声が響いていた。
「いつまでもガキ扱いは止めてくれよ、プロテリア。実年齢は大して変わらないだろう? それに、最後に会ったのはもう50年も前だ。お前たちタイタンロブスターはホントに見た目が変わらないな! 俺はこんなにマッチョになったぜ!」
カッツァトーレがプロテリアに自身の筋肉を見せつけている。正直、俺よりもたくましいその筋肉は、はたから見ても輝いていた。男なら誰しもが憧れる、理想の筋肉。それを、カッツァトーレは欲しいままにしているのだ。
対してプロテリアはというと、一般的な人間の14~15歳くらいの見た目だな。筋肉も最低限だ。地域によっては立派な大人だが、まだ若輩。一流とは言えない。
しかし彼を見た目で侮るなかれ。内に秘めたる実力は、相当なものがある。
「暑苦しいから止めてくれよ、カッツァトーレ。そういうところがガキっぽいのさ。筋肉があったって、魔法がからっきしじゃ宝の持ち腐れだろ? 前から身体強化の練度は上がったのか? ヒョロガリに負けて悔しい、って言っていたもんな」
「フン! 俺は以前までのよわっちぃカッツァトーレじゃないぜ。お前に憧れて、空間系魔法を習得したんだ。身体強化だって、森じゃあ群を抜いて強い。今の俺なら、お前にだって負けはしない。どうだ、これから一本やっていかないか?」
「お生憎様、俺はさっき熾烈な兄弟喧嘩をしてきたばかりでね。もうお前を相手に出来るほどの魔力は残ってないよ。お前がこれから付き合うのは、決闘じゃなくて夕食だ。今から準備するから、テキトウな所に座っておけよ」
カッツァトーレは元気に返事し、こちらに向かってくる。その表情は、さっきまでのうろたえたものとは大違いだ。とても嬉しそうな顔をしている。
いや、実際嬉しいのだろう。50年来の知り合いだと。人間の俺には想像もできないな。
「ひゃ~驚いたなぁ。エコノレの頼っている一家が、まさかプロテリアのことだったとは。え、ってことは、もしかしてプロテリアの父親って!?」
「お前知らなかったのかよ。そう、プロテリアの父親こそ、精霊種の長ロンジェグイダさんや、霊王ウチェリトさんと肩を並べるお方。コンマーレ殿だ。実質的にこの大陸を守護している人らしいけど、詳しいことは俺も知らん」
机に突っ伏したまま、ない気力振り絞って最低限の説明はしてやる。
俺の言葉に、カッツァトーレはとても驚いている様子だ。感情の起伏が激しい奴だな。今はそういうの鬱陶しいから止めてくれ。
「マジか~俺そんな奴と遊んでだり、決闘したりしてたのか。そりゃあ勝てないわけだ。海の大王コンマーレと言えば、そりゃもう数々の武勇伝を残した男だからな。俺も、ガキの頃は良くその話を聞かされて、憧れたもんだ」
カッツァトーレは有頂天になっているのか、勝手に一人で喋り始めた。机に突っ伏している俺とコストーデは全く聞いていないし、プロテリアもまだ厨房にいる。ランジアとミノ、そしてアラレスタもこの場にはいない。良くこんなに独り言が続くもんだと、ちょっと感心するくらいだ。
俺はもう、何ならこのまま寝てしまいたいくらい。やはり交渉の疲れが酷い。他人と長話するのは苦手だ。特に、面と向かって一対一はな。疲れが頭にくる。
いや、集団の輪に入って話をするのも苦手だが。
とにかく今日は疲れている。食事前に寝るもんじゃないんだろうが、今はそんなこと気にしている余裕はなかった。
俺は机に突っ伏したまま、コストーデと同じく、プロテリアの料理が運ばれてくるまで寝ていることにした。可哀そうだが、カッツァトーレのことは無視しよう。
「……懐かしいなぁ、父さんの武勇伝か。俺も寝物語に良く聞かされたよ。それも、本人の口からね。あの人自分語りになると脚色がすごいから、ほとんどウソみたいな話だったけど。でもやっぱり、子どもながらに憧れたなぁ」
「そうだろ!? やっぱりコンマーレさんはすごい人だ。ロンジェグイダ様やウチェリト様も数々の逸話を持っているが、コンマーレさんのそれは面白味がある。何より若々しくて派手だ。そういうのに憧れを抱くのは、イマドキの若者って奴なんだろうな」
「イマドキの若者って、カッツァトーレも俺ももう数百歳。人間から見たら長老。大賢者クラスだよ。な~に寝ぼけたこと言ってんのさ」
目が覚めると、視界には海鮮系のごちそうが広がっていた。
恐らくこれを作ったであろうプロテリアは、私が知っているような知らないような人と楽し気に話している。
身体は非常に怠い。どうしてこんなに疲れているのか。これはもはや、疲れとか通り越して病気の類かと思わせるほど、徹底的に疲弊しきっていた。
「最悪なタイミングで交代してくれたわね、エコノレ君。マジで状況が分かんないんだけど。いったいどうなってるのよ、これは」
「おお、起きたのかよエコノレ。もう料理できてるぞ。プロテリア弟は姉妹たち呼びに……ってどわぁ! 誰だアンタ!? さっきまでここにエコノレがいたよなッ!?」
この覚えているようで見覚えのない人、今日のエコノレ君の記憶から出てきた。名前はカッツァトーレ。筋骨隆々マッチョの実力者。
って、エコノレ君もう森の取引とか、ある程度の仕入れルート確保までやってくれてるんだ。仕事が早くて助かるなぁ。いや、身体を共有してるせいで効率は二分の一だけど。
「あれ? 今日は変なタイミングで交代しましたね。エコテラさん、おはようございます。こっちは僕の古い親友、カッツァトーレです。って、エコノレさんの記憶を辿れば分かりますね」
「おいおいどういう状況だよ。説明してくれプロテリア! さっきまで良くわかんない平凡な兄ちゃんだったのが、なんで急に、こんな美人さんになっちまったんだ!?」
それは私が説明して欲しい。まだ記憶が曖昧なんだ。疲労感も眠気も酷い。どうか丁寧に、一から事細かに説明して欲しいものだ。
というか、精霊目線には私が美人に見えているのか? 精霊は相手の内面を見抜く力が強いという。だから人間と違って、私は私にしか見えないし、エコノレ君はエコノレ君にしか見えない。こんな外見は、まったくと言っていいほど目に入らないんだ。
けれど、私の内面は酷く腐った人格。意図的にタブーを働き、知識量の多さで大衆を翻弄しようとしている、とても嫌な奴だ。
だから精霊には、私の顔がとても醜悪な奴に見えていると思っていた。
思えば、それが怖くて、アラレスタに聞けなかったのだ。精霊には私たちのことがどんな風に映っているのって、本当はすごく気になっていたのに。
「いいかい、カッツァトーレ。あんまり驚かないで聴いて欲しいんだけど、彼女らは昔の君と似たような状態なんだ。つまり、魔法的な性質を持つ、脳の異常によるものとは別の二重人格、というわけさ」
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