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第二章 アストライア大陸
第三十七話 作戦会議
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「ありがたや、ありがたや。ロンジェグイダ様が来てくださったのなら、この村はもう安泰だ。ささ、こちらへどうぞ」
村長はロンジェグイダさんに深々と頭を下げ、彼を手招き村に入っていく。まずは村長邸宅でゆっくりお茶でもするのだろう。
当然俺も付いて行く。まずはプロツィリャント捕獲作戦について、話し合わなければいけないのだ。
村長の家にて、俺は全てを話した。
この村を襲っていた外敵は二種類いて、夜盗蛾の方は霊王ウチェリトが対策を買って出てくれたこと。プロツィリャントの生態と、これを捕獲、撃退するための罠を、これからみんなで考えたいということ。
ウチェリトさんが協力してくれているということに、村長は涙を流して喜んだ。そして何度も何度も、精霊の長ロンジェグイダに礼を言った。
それだけ、彼らにとっては精霊種の存在が大きいのだろう。本当は、俺たち魔獣の類とそう変わらないんだが。
「でもそっかぁ、イノシシを想定して作ってたこっちの罠は使えないかもね。相手が空を飛んでくるなら、この罠を完全に無視できるから。仕方ないけど、お蔵入りかなぁ」
ウチョニーががっかりしたような様子で一つの罠を眺めている。
俺が製作を依頼していたものだ。あれを踏むと木製の棘が足に突き刺さり、出血。糞尿でも塗っておけばイノシシが病にかかって撃退できるというトラップ。
他にも、古典的な罠をいくつも用意してもらっていた。しかしそのどれもが、イノシシやそれに似た獣を想定してのこと。プロツィリャントには通用しない。仕方のないことだ。
「いいや、安心しなさい。その罠も全て使う」
ロンジェグイダが、強い語調でそういった。
だがどういうことだ。プロツィリャントには通用しない罠。例え変形させ応用を利かせたところで、大した対策にはならない。
「考えても見よ。イノシシのテリトリーは、この村からほど近いところにあると言ったはず。今は夜盗蛾の魔力を嫌がって近づいてはこない。けれど、それら全てをウチェリトが食いつくしてしまったら?」
「! イノシシはこの村を襲いに来る。そこで、製作を依頼した罠が活用できるということですね!」
ロンジェグイダさん、流石だ。森の大賢者と呼ばれるだけのことはある。まさか事態が解決した後のことまで考えていたとは。
そうだ、相手は夜盗蛾とプロツィリャントだけではない。この大自然の全てを相手にしなければならないのだ。
そうなれば、イノシシ用の罠も実験を繰り返し改良するべきだ。
奴らは知能が高く、貪欲だ。罠の存在を感知しても、畑を襲うことを諦めない。どころか、罠を解除する術を見つけ出してしまう。
現代日本でも、イノシシの対策は明確な正解がない。とても難しい問題なのだ。奴らと農家さんの戦いは、常に攻防を繰り返している。
今後は、現状の敵だけではなく、その先の相手も見据えて行動しなければならないんだ。
「なるほど、では引き続き、村の暇な爺さん婆さん方に罠の製作を任せましょう。もちろん私も腕を振るいますぞ。ウチョニー殿も手伝ってくだされ」
村長が気合をいれている。ウチョニーも張り切っている様子だ。イノシシ用の罠は彼らに任せて大丈夫そうだな。
この村には若手連中が意外にも沢山いる。年長方も畑仕事をしないわけではないが、彼らの献身もあって暇な人も多いのだ。
そんなご年配の皆さんには、ウチョニーとともに罠の内職を依頼している。
「あの~、ひとつ質問なんですけど、ロンジェグイダさんの魔法で結界を張ることは出来ないんですか? 夜盗蛾が使ってるような外敵を寄せ付けないバリアなら、そんなに大量の魔力を消費しないと思うんですけど」
ウチョニーがロンジェグイダにそう質問した。
彼女は魔法を使えないが、あれでもアストライア族の魔法研究の第一線を張っていた。姉であるムドラストと協力し、数々の発明をしてきたのだ。
特に、魔法障壁については彼女も研究していた時期がある。あれの特製をよく理解しているんだろう。そして、それによく似た魔法である、夜盗蛾の魔法バリアに目を付けた。
「不可能ではない。だが、吾輩は吾輩の力でことを成すのが良いこととは思っていないのだ。恐らくだが、吾輩の結界では3年と持たないであろう。その後、再び彼奴等が村を襲う可能性を否定しきれない」
彼の言うとおりだ。精霊種の長であるロンジェグイダの実力は凄まじいが、その魔法は永遠ではない。必ず風化し、太陽光に分解されてしまうのだ。であれば、村人たちが自ら解決できる方法を模索する方がずっといい。
同じ年長者であるムドラストとは、考え方が違う。
彼女は困っている村人たちに手を差し伸べ、頑丈な壁を作りこれを解決した。恐らく、時が来たら修復に来るつもりだったのだろう。彼女はとにかく、力ある者が力なき者に手を貸すことを良しとしている。
対してロンジェグイダは、力なき者も知恵を振り絞り、時に力ありし者の協力を得て、自ら解決するべきだと考えているんだ。
だから安易に手を差し伸べることはしない。
「それともう一つ。プロツィリャントは精霊の近縁種だ。魔法バリアといえど、かなりの出力を要求される。その分人間への悪影響も考えられるだろうそれに魔法バリアは、ちょっと我慢すれば突破できるものだ。プロツィリャントにはそれが出来るだけの知能もある」
なるほど、人間への悪影響か。それは考えていなかった。
思えば、貪欲なイノシシを寄せ付けないほどの魔力。人間に影響がでないはずはないのだ。強力な殺虫剤のようなものと考えればいいか。
畑の害虫を駆除するために散布される殺虫剤は、量が多すぎれば当然健康を害する。
それと同じように、魔法バリアも人間を害するのだろう。それも、生物的には人間より上位である、プロツィリャントを撃退できるほどの出力ともなれば、その影響力は想像を絶すつものになるはずだ。
これには、ウチョニーも納得した様子。彼女は純粋だがバカではない。
この方法、正直俺も良い案だと思っていたが、考えが甘かったか。
「ではこの、ひっつき爆弾はどうでしょうか。村の防衛にとても役立っています。これを皆で量産し、畑と森の境界面に設置するというのは」
「却下だな。ひっつき爆弾は、ここの人間が生成できるような魔法じゃない。炎系魔法の上位、爆発系魔法を扱える者でなければ難しいんだ。それに、プロツィリャントは飛行能力を持っている。地面に設置するタイプの罠は効果が薄いよ、村長」
今度は村長が意見し、俺が否定した。ひっつき爆弾を開発したのは俺だ。この魔法の製法や特性は誰よりも理解している。
残念そうな表情を浮かべる村長だが、仕方ないことだ。もっと別の方法を考える必要がある。
しかし嬉しいな。俺の発明が、アストライア族だけでなく人間の村にまで広まっているというのは。そして、彼らが俺の発明を頼ってくれているということも。罠と聞いて真っ先に思い浮かぶほどとは、発明家冥利に尽きる。
「そういえば村長、こいつらがどんなふうに畑を襲ってるか見たことはないか? そもそもの生態に解決策があるかもしれない」
なんとなく口から出たが、これは完全に俺の趣味だな。こいつらの生態を紐解き知識として蓄える。村の防衛とは関係ない話だ。
「う~ん難しいですね。畑を荒らされるのは深夜ですし、警戒心が非常に強いのか、森に近い方しか襲っていません。外壁付近は何とも。お力になれずすいません」
「生態のことなら吾輩に聞きなさい、ニーズベステニー。プロツィリャントの研究など、幾度もやってきた」
おっと、ロンジェグイダさんの研究者魂に再び火がついてしまった。熱く語り出してくれるかもしれない。
だが、森の大賢者の意見は重要だ。彼ほど森の生態を理解している者はいないのだから。
「まず、プロツィリャントは実は群れで行動するのだ。日中は分散しているが、深夜になると特定の鳴き声を出し一定の場所に集まる。そして一斉に目標へと飛び立つのだ。食事のあとは身体が重たくなるからか、高く跳んで滑空はできても飛行は出来ない。翼をたたむことも難しくなり、地上を走るスピードも遅くなるのだ。賢い者は、獲物を加えて飛行し離脱してから食事をする」
なるほど、これは最高だ。森の大賢者から貴重な意見を聞けた。そしてひとつ、思いついてしまったよ。
海の大賢者ムドラストの愛弟子、大発明家ニーズベステニー様の頭の中にね!
「大変参考になりました。俺に1つ、考えがあります」
俺は個人的な研究用に捕獲してきた一匹のプロツィリャントを、これでもかというほど撫でまわしながら、そう言い放った。
村長はロンジェグイダさんに深々と頭を下げ、彼を手招き村に入っていく。まずは村長邸宅でゆっくりお茶でもするのだろう。
当然俺も付いて行く。まずはプロツィリャント捕獲作戦について、話し合わなければいけないのだ。
村長の家にて、俺は全てを話した。
この村を襲っていた外敵は二種類いて、夜盗蛾の方は霊王ウチェリトが対策を買って出てくれたこと。プロツィリャントの生態と、これを捕獲、撃退するための罠を、これからみんなで考えたいということ。
ウチェリトさんが協力してくれているということに、村長は涙を流して喜んだ。そして何度も何度も、精霊の長ロンジェグイダに礼を言った。
それだけ、彼らにとっては精霊種の存在が大きいのだろう。本当は、俺たち魔獣の類とそう変わらないんだが。
「でもそっかぁ、イノシシを想定して作ってたこっちの罠は使えないかもね。相手が空を飛んでくるなら、この罠を完全に無視できるから。仕方ないけど、お蔵入りかなぁ」
ウチョニーががっかりしたような様子で一つの罠を眺めている。
俺が製作を依頼していたものだ。あれを踏むと木製の棘が足に突き刺さり、出血。糞尿でも塗っておけばイノシシが病にかかって撃退できるというトラップ。
他にも、古典的な罠をいくつも用意してもらっていた。しかしそのどれもが、イノシシやそれに似た獣を想定してのこと。プロツィリャントには通用しない。仕方のないことだ。
「いいや、安心しなさい。その罠も全て使う」
ロンジェグイダが、強い語調でそういった。
だがどういうことだ。プロツィリャントには通用しない罠。例え変形させ応用を利かせたところで、大した対策にはならない。
「考えても見よ。イノシシのテリトリーは、この村からほど近いところにあると言ったはず。今は夜盗蛾の魔力を嫌がって近づいてはこない。けれど、それら全てをウチェリトが食いつくしてしまったら?」
「! イノシシはこの村を襲いに来る。そこで、製作を依頼した罠が活用できるということですね!」
ロンジェグイダさん、流石だ。森の大賢者と呼ばれるだけのことはある。まさか事態が解決した後のことまで考えていたとは。
そうだ、相手は夜盗蛾とプロツィリャントだけではない。この大自然の全てを相手にしなければならないのだ。
そうなれば、イノシシ用の罠も実験を繰り返し改良するべきだ。
奴らは知能が高く、貪欲だ。罠の存在を感知しても、畑を襲うことを諦めない。どころか、罠を解除する術を見つけ出してしまう。
現代日本でも、イノシシの対策は明確な正解がない。とても難しい問題なのだ。奴らと農家さんの戦いは、常に攻防を繰り返している。
今後は、現状の敵だけではなく、その先の相手も見据えて行動しなければならないんだ。
「なるほど、では引き続き、村の暇な爺さん婆さん方に罠の製作を任せましょう。もちろん私も腕を振るいますぞ。ウチョニー殿も手伝ってくだされ」
村長が気合をいれている。ウチョニーも張り切っている様子だ。イノシシ用の罠は彼らに任せて大丈夫そうだな。
この村には若手連中が意外にも沢山いる。年長方も畑仕事をしないわけではないが、彼らの献身もあって暇な人も多いのだ。
そんなご年配の皆さんには、ウチョニーとともに罠の内職を依頼している。
「あの~、ひとつ質問なんですけど、ロンジェグイダさんの魔法で結界を張ることは出来ないんですか? 夜盗蛾が使ってるような外敵を寄せ付けないバリアなら、そんなに大量の魔力を消費しないと思うんですけど」
ウチョニーがロンジェグイダにそう質問した。
彼女は魔法を使えないが、あれでもアストライア族の魔法研究の第一線を張っていた。姉であるムドラストと協力し、数々の発明をしてきたのだ。
特に、魔法障壁については彼女も研究していた時期がある。あれの特製をよく理解しているんだろう。そして、それによく似た魔法である、夜盗蛾の魔法バリアに目を付けた。
「不可能ではない。だが、吾輩は吾輩の力でことを成すのが良いこととは思っていないのだ。恐らくだが、吾輩の結界では3年と持たないであろう。その後、再び彼奴等が村を襲う可能性を否定しきれない」
彼の言うとおりだ。精霊種の長であるロンジェグイダの実力は凄まじいが、その魔法は永遠ではない。必ず風化し、太陽光に分解されてしまうのだ。であれば、村人たちが自ら解決できる方法を模索する方がずっといい。
同じ年長者であるムドラストとは、考え方が違う。
彼女は困っている村人たちに手を差し伸べ、頑丈な壁を作りこれを解決した。恐らく、時が来たら修復に来るつもりだったのだろう。彼女はとにかく、力ある者が力なき者に手を貸すことを良しとしている。
対してロンジェグイダは、力なき者も知恵を振り絞り、時に力ありし者の協力を得て、自ら解決するべきだと考えているんだ。
だから安易に手を差し伸べることはしない。
「それともう一つ。プロツィリャントは精霊の近縁種だ。魔法バリアといえど、かなりの出力を要求される。その分人間への悪影響も考えられるだろうそれに魔法バリアは、ちょっと我慢すれば突破できるものだ。プロツィリャントにはそれが出来るだけの知能もある」
なるほど、人間への悪影響か。それは考えていなかった。
思えば、貪欲なイノシシを寄せ付けないほどの魔力。人間に影響がでないはずはないのだ。強力な殺虫剤のようなものと考えればいいか。
畑の害虫を駆除するために散布される殺虫剤は、量が多すぎれば当然健康を害する。
それと同じように、魔法バリアも人間を害するのだろう。それも、生物的には人間より上位である、プロツィリャントを撃退できるほどの出力ともなれば、その影響力は想像を絶すつものになるはずだ。
これには、ウチョニーも納得した様子。彼女は純粋だがバカではない。
この方法、正直俺も良い案だと思っていたが、考えが甘かったか。
「ではこの、ひっつき爆弾はどうでしょうか。村の防衛にとても役立っています。これを皆で量産し、畑と森の境界面に設置するというのは」
「却下だな。ひっつき爆弾は、ここの人間が生成できるような魔法じゃない。炎系魔法の上位、爆発系魔法を扱える者でなければ難しいんだ。それに、プロツィリャントは飛行能力を持っている。地面に設置するタイプの罠は効果が薄いよ、村長」
今度は村長が意見し、俺が否定した。ひっつき爆弾を開発したのは俺だ。この魔法の製法や特性は誰よりも理解している。
残念そうな表情を浮かべる村長だが、仕方ないことだ。もっと別の方法を考える必要がある。
しかし嬉しいな。俺の発明が、アストライア族だけでなく人間の村にまで広まっているというのは。そして、彼らが俺の発明を頼ってくれているということも。罠と聞いて真っ先に思い浮かぶほどとは、発明家冥利に尽きる。
「そういえば村長、こいつらがどんなふうに畑を襲ってるか見たことはないか? そもそもの生態に解決策があるかもしれない」
なんとなく口から出たが、これは完全に俺の趣味だな。こいつらの生態を紐解き知識として蓄える。村の防衛とは関係ない話だ。
「う~ん難しいですね。畑を荒らされるのは深夜ですし、警戒心が非常に強いのか、森に近い方しか襲っていません。外壁付近は何とも。お力になれずすいません」
「生態のことなら吾輩に聞きなさい、ニーズベステニー。プロツィリャントの研究など、幾度もやってきた」
おっと、ロンジェグイダさんの研究者魂に再び火がついてしまった。熱く語り出してくれるかもしれない。
だが、森の大賢者の意見は重要だ。彼ほど森の生態を理解している者はいないのだから。
「まず、プロツィリャントは実は群れで行動するのだ。日中は分散しているが、深夜になると特定の鳴き声を出し一定の場所に集まる。そして一斉に目標へと飛び立つのだ。食事のあとは身体が重たくなるからか、高く跳んで滑空はできても飛行は出来ない。翼をたたむことも難しくなり、地上を走るスピードも遅くなるのだ。賢い者は、獲物を加えて飛行し離脱してから食事をする」
なるほど、これは最高だ。森の大賢者から貴重な意見を聞けた。そしてひとつ、思いついてしまったよ。
海の大賢者ムドラストの愛弟子、大発明家ニーズベステニー様の頭の中にね!
「大変参考になりました。俺に1つ、考えがあります」
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